見出し画像

熱海にて

その日に限り単身で、いつもの様に午前4時に釣り道具を持って熱海に向かった。

午前9時過ぎに私の携帯電話に夫の電話から着信。

「熱海の病院の者ですが、この携帯電話をご存知ですか。海の側の市営駐車場で倒れている所を発見され119番通報があり、こちらに救急搬送されています」

「夫です、すぐ向かいます」

私は職場から自転車で10分程の自宅に戻り、夫の健康保険証と当座の現金等を持ち私鉄、JR、新幹線を乗り継ぎ熱海へ向かった。

医師からの説明では

「脳腫瘍の疑いで、右半身麻痺、全失語、車椅子には乗れるようになるでしょう。ゴールデンウィーク中でもあり、休み明けにどうするか決めましょう」

しかし、夜半に脳内の出血が止まらず、緊急開頭手術実施と言う事になる。

娘二人もそれぞれ仕事場から駆け付けて、地下の手術室前の薄暗いベンチで菓子パンを食べて待つ。

夫が出掛ける早朝、いつもと違って送りに出て来なくていいと言うので、ベッドの中で車の出る音を聞いた。

夢現か、一度家の前まで帰って来て、再び小さな音でクラクションを短く鳴らした様な気がした。

虫の知らせか、夫が私にお別れを言いに来たのか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?