Re:輪るピングドラム

※かなり作品の内容や考察を含むのでネタバレ等が心配な方は読まないでください

本日「劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編]僕は君を愛してる」が公開されました

これを以て輪るピングドラム堂々完結ということで、テレビ版・劇場版前後編を含めた感想を語っていこうと思います。

まず初めにこの作品に携わった全ての方へ感謝を

ゼロ年代から何かを成さなくちゃいけない現代人へのメッセージであったテレビ版、それを令和になって時代が揺れ動く今もう一度僕たちに出逢わせてくれて本当にありがとうございます

「きっと何者にもなれないお前たち」

ピンドラに関しての考察や感想をかなり目を通してきました、各々が違う視点で見ていてその全てが正解であると僕は思います

カルト宗教2世の罪と罰、加害者の娘と被害者の妹が仲直りする話、愛を分け与え循環させる話、愛を知らない(愛されなかった)人達[ゆり/桂樹]がこれからの人たちにどう向き合うべきかを問う話、愛による自己犠牲のもと救われる話

一つの作品でこれだけの解釈ができるのは「輪るピングドラム」唯一の魅力だと思っています

なにより電車がモチーフなこと。
地下鉄サリン事件が元になったからというのもありますが、「運命」というテーマと「決まった行き先をぐるぐると回る電車」の親和性がとてつもなくて

特に物語によく出てくる[回想]
普通のアニメならただの回想シーンですが、これに関しては電車の[回送]もかかってきています
回送電車とは来た道を客を乗せずに決まった場所へ帰る車両。変えることのできないもの。過去
表現にこれを選んだセンスに痺れますね

タイトルにもある95という数字
これがまさに日本が変わった瞬間
バブルが弾けて、大規模なテロが起きて、いつまでもこの空気じゃいられないと社会が目まぐるしく動き始めた瞬間の時代
そんな激動の世の中でどう生存戦略すべきか

エヴァンゲリオンのシンジくんが「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」と自分に言い聞かせるシーンはとても有名で、当時の若者の心情にリンクして作品を流行らせた要因にもなっていますよね

それから2010年代に入り幾原邦彦監督はそのアンサーとして「きっと何者にもなれないお前たち」という台詞を叩きつけたんだと思います

そんな何者にもなれない僕たちが何をしろと言われたか、「ピングドラムを探すのだ」と。
これも様々な解釈があるようですが1番伝わりやすいものだと「愛の循環」になるでしょう

誰かに愛され、また誰かを愛す
運命の果実を分け与えるということ
社会の波に揉まれながらも誰かを愛することで世界は変えられる。自分とその相手の運命を変えられる。それは業を背負うことでもある、だから蠍の炎に燃やされるんですよね

しかしこの世界には愛されなかった子供たちがいます、親から見放されたり、家が無かったり
本作ではそういう子は「こどもブロイラー」という施設で透明にされますね
野良猫でもそう、誰にも拾われず名前もつけられず愛されなければいないのと同じ

そのような世界の負の面を主人公の父(宗教幹部)は氷の世界と言っていました。
あぁ、だからペンギンなのかと
ペンギンは氷の上で生活します、私達も世界で起こっている様々なことから目を逸らしてその冷たい世界の上で幸せが成り立っていますよね

それにペンギンは臆病な生き物です
最初の1羽目が海に飛び込まなければ仲間たちはついて行きません、[ファーストペンギン]という言葉があるくらいには有名な特性です
逆を言えば最初の1羽に周りは便乗していきます、いじめ問題なんかもその最たる例だと思います。

こうしてみるとペンギンがかなり私たちに似ている部分が多い生き物のように感じますね

そしてテロを起こした企鵝の会という団体名
企鵝=ペンギンであり
文字を崩すと「企、我、鳥」
鳥というのは自由の象徴でもありますので、「私は自由のためにテロを企てる」と意味が浮かんできます。しかしペンギンは飛べない鳥、その願いは叶わないことまで運命付られています

ペンギンという生き物だけでこれだけの伏線が張れると誰が思うでしょうか


物語中盤から登場する眞悧先生
彼は自分で「僕は呪いのメタファー」だと言っています、なんと分かりやすい

私たちが学校などで歴史を勉強したとき、人間は時折世界を変えようと革命を起こしてきたことを知ります。理由は色々あれど主な原因は社会への不平不満です。

眞悧先生が呪いだとするならば、人間が人間である以上どの時代にも彼は存在し、その度に変革を起こそうとするでしょう。それは過去でも未来の話でも同じです

窮地に立たされた時こそ私たちはピングドラムを探さなければならなりません
愛は世界を救うといえば聞こえはいいかもしれませんが、それは相手の命を背負うことと同義

運命の乗り換えをするには代償が必要
それは結婚式で神父さんが「あなたはいついかなる時も愛しますか?」と問うことに近いです

私の家は仏教なので聖書のことはあまり知りませんが、キリストが「隣人を愛しなさい」と言葉を残したのは有名ですよね
きっとそれをテロリズムや人との繋がりが薄くなった現代社会に織り込んで作られたのが「輪るピングドラム」であると私は思います

愛は人と人の間だけではありません
あなたの好きな場所や物だってそうです
需要がなければ取り壊されてビルが建つ、朽ちていく、そこに在るということは誰かに愛されたから。必要とされたから

銀河鉄道の夜のように、自己犠牲になったとしても「ほんとうの幸い」を見つけたならハッピーエンドなんです。むしろそこから始まるのですから

君が笑ってくれるならどんな犠牲も構わない
そんな主人公達の気持ちが劇場版後編主題歌「僕の存在証明」に込められていて涙が溢れました

存在証明というワードはやくしまるえつこさん本人が考えたそうで、彼女は作品に携わるとき隅々まで目を通した上でクリエイトする方なので本当にこれ以上ないくらい本題に合っていると思います

貴方を貴方たらしめるものは?
貴方の生きる意味は?
そういう問いかけは今までたくさんの作品でみてきました。
映画後編をみて他の作品と違うなと思ったのは、全面的に肯定してくれている温かさを感じました

子供がいれば親になります、パートナーがいれば貴方もそのパートナーになります。
[それぞれの役割]という言い方は受動的に思えて少し違いますが、その立ち位置は相手無しでは成立しない自分だけの場所ですよね
そんな自分の成すべきことを見つけたのなら振り返らずに走っても大丈夫、それがあなたの存在証明だから。と桃果に背中をこれでもかと押された気分で劇場を後にしました

劇場版のタイトルが【Re輪るピングドラム】などではなく【Re:cycle of the penguindrum】なのも本当に好きです、同じようにみえてちゃんと元を使って再利用していて最高でした

愛することも愛されることも尊く、生きることに必要不可欠なものです

だから貴方も近しい人に愛してると伝えて下さい

作品の細かな演出や台詞にも語り尽くせないほどの魅力がありますが、物語を通じてリンゴを受け取った貴方ならきっと【愛してる】と誰かにまた分け合いたくなっているはずです。
この作品の1番の魅力は私たちの心にそういった感情を残してくれるところだと思っています

この作品も皆に愛されたから10周年と言う節目でもう一度私たちの前に生まれてくれた
それだけでも奇跡だと喜びに目頭が熱くなります

人と人に限らず、世界が愛で溢れますように
「見つけてもらえる人」が増えますように

読んでくれた方、作品に携わってくれた方、同じくピンドラが好きな方、本当にありがとうございました。これで感想終わります

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