ミロンガのことをまだよく知らなかった頃の嬉しくも苦い思い出
黒いスーツにダイヤモンドのピアス、髪はしっかりなでつけられとってもシックな出で立ち。メサではシャンパンをたしなみながら、お気に入りのオーケストラのタンダが来るまで会話を楽しんだり目の前を通りすぎるパレハの踊りを眺めている。ロンダに出ればゆったりと重厚感のある立ち姿、深々としたアブラッソでゆっくりと動き、目を閉じ気持ちよさそうに踊るお相手の女性と醸し出される世界は、そこだけひときわ違う空気が流れているようで目が釘付けになってしまう。
あの方だ !!!
あの方はブエノスに来る少し前にビデオで見たミロンゲーロ !ジェラルディンと力強い個性的なタンゴを踊っていたあのひとだ!
ブエノスに住み始めたころ、個人レッスンをしてもらっていたスペイン語の先生へ「どうしても踊って欲しい人がいて、その方になんと伝えれば良いでしょう?」と質問をし、いつかそのコトバを伝えよう!とココロに決めていました。
とうとうその日がやって来たのです。
水曜日のラ•ナショナル。西洋の香りがする大理石の階段を上って行くと、長方形の細長いピスタが広がる。
あのころは、カベセオバジバシのご対面席ではなく、主人と二人、後ろのほうのメサへ案内されていました。
まだまだミロンガのしきたりなど知らなくて私は無謀にもあのとっておきの言葉をもってあのお方へと挑むことになるのです。
ご挨拶をするためにドキドキしながらあの方のメサに近づき、ベシートの後、勇気をふり絞って言ってみました。
" Yo lo admiro me gusta mucho lo que hace "
あなたのタンゴにめちゃめちゃ惚れています!と言わんばかりの大告白!
このコトバにどれ程の意味が込められているかもわからずに
踊って頂きたい一心で伝えた
わたし
すると
願いが叶い
次のタンダを踊っていただける幸運を手にすることに!
今思うと恐ろしくも恥ずかしい !
幸運の女神が微笑んだその後は
憧れのあなたの素晴らしい抱擁を味わうどころか、ついて行くだけのガチガチに力の入ったざんねんなわたしがいました。
それでもあなたは、とっても紳士で
一曲踊る毎にビエーン ? と私に優しくきいてくださり最後まで踊って下さいました。
El Pibe Avellaneda さん
やはりあなたは、素敵なお方でした。
でも、アブラッソはウソをつきません。
未熟で
未熟で
未熟なわたしでした。
そんなわたしの想いを受け入れて踊って下さったこと、今でも大変感謝しています!
あの魔法のコトバはあの夜以後封印し
素敵なミロンゲーラになりたいと心から誓うのでした。
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