開業届って何? 個人事業主の基礎知識
開業届とは、簡単に言うと、個人事業を開業したことを税務署に申告する書類のことです。通常、事業を開始後1ヶ月以内に提出することが推奨されていますが、実は提出しなくても罰則はありません。
罰則がないのなら面倒だしいらないのでは??って思いますよね。ここでは「開業届」の基礎情報や申告するメリット・デメリットを説明します。
「開業届」とは
開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。 主に個人事業を開業または廃業したことを税務署に申告するための書類です。
つまり、同じ書類でも開業する場合は「開業届」と呼び、廃業する場合は「廃業届」と呼びます。
個人事業主は、1年間(区切りは1月1日〜12月31日)の所得を計算し、所得税を納税する必要があります。また、小規模の場合は免税されますが、事業規模が大きい場合には、個人事業税や消費税の納税義務も発生します。
所得税と消費税は国税として税務署に、個人事業税は地方税として各都道府県税事務所に納めます。開業届を提出することで、各税務当局に開業と税の開始を報告することとなります。
どんな時に提出が必要?
先ほど「主に個人事業を開業または廃業したことを税務署に申告する」書類と記載しましたが、具体的には下記の場合です。
新たに事業を開始したとき
事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき
事業を廃止したとき
事業じゃなくても開業届が必要な場合
事業と認識していなくても、複数の自己物件などを貸し付けて家賃等の収入がある場合も、政府から事業としてみなされる場合もあり、手続きが必要になることもあります。開業届の手続対象者は下記です。
新たに事業所得、不動産所得または山林所得を得る事業を開始した方
提出期限は?
事業を開始後、1ヶ月以内に提出することが推奨されています。
冒頭にも記載した通り、提出しなくても特に罰則はありません。
確定申告をきちんと行い、税金も納めていれば事業運営は可能です。
開業届を提出するメリット
罰則がないならなぜこんな面倒な手続きがあるのでしょうか??
もちろん理由はあります。開業届を出すメリットは大きく言うと「権利」と「信頼」を取得できることです。具体的な内容は以下の通りです。
・青色申告が可能
節税効果のある青色申告は事前申請が必要となり、開業届を提出している人に限り申請・適用が可能となります。青色申告についての詳細はまたの機会に。
・銀行口座の開設手続きで必要な場合がある
個人事業を始める際に、屋号を名義とした銀行口座を開設できます。口座開設時に必要な書類として「開業届の控え」が必要な場合もあります。
個人用の口座を事業用の口座として使用しても問題はありませんが、事業用とプライベート用の口座を分けた方が経理作業がしやすくなります。 また、取引先に振り込んでもらう際には、振込先が個人名義の口座よりは信頼度が高く、個人情報の保護に有効的といえるでしょう。
・オフィス契約や融資の審査が通りやすい
業種によっては、店舗や事務所を構える必要がある場合もあります。また、事業の規模により、創業融資を検討することもあるかと思います。いずれの場合も、申し込み時や審査時には、開業届の控えの提出を求められるケースがあります。
・職業を証明するのにも使える
様々な手続きの際に職業を記入し、証明する必要がある場合があります。個人事業主やフリーランスの場合は、会社員ではないため社員証や在職証明書などはありませんので、開業届の控えの提出を求められることがあります。
開業届を提出するデメリット
反対に、開業届を出すデメリットは大きく分けて3つあります。
・「扶養」から外れる可能性がある
一概に「扶養」と言っても「税法上の扶養」と「健康保険上の扶養」という2種類の扶養が含まれています。
「税法上の扶養」では扶養者(扶養に入る者)の給与所得が103万円以下であれば、その人が開業届を提出するか否かに関わらず「扶養」で居られます。
「健康保険上の扶養」とは、扶養者は保険料を支払わなくとも「健康保険」に加入することができるものです。
扶養に入っていると健康保険料を支払う必要がありませんが、扶養から外れた場合はご自身で保険料を納付する必要があります。
会社の健康保険組合によって、「所得額」で加盟可否を決めているものもあれば、中には「個人事業主は扶養に入れない」と決めている場合もあるので事前に確認が必要です。
・「失業給付」が受けられなくなる可能性がある
退職した(する)会社で雇用保険に加入していた場合、「求職者、仕事を探している状態」で受けられる給付金です。開業届を提出するということは、失業給付を受けられる条件を満たさないため、提出タイミングによっては受けられなくなってしまいます。
・帳簿付けが面倒
開業届のデメリットというよりは青色申告のデメリットですが、最大65万円の控除を受ける場合は複式簿記が必要となります。規模が小さく最大10万円控除でも問題なければ単式簿記でも申告可能です。経理担当者や税理士などに任せられたら手間は省けますが、人件費等が発生します。最近はクラウド会計サービスが比較的安価で提供されているため、この点はそこまで足枷とはならないでしょう。
まとめ
事業を行う上での手続きは面倒に思いがちですが、これから事業を運営していく上で、出せるのであれば出しておいて損はないでしょう。たとえ副業でも事業は事業。開業届を出して事業の「信頼」と節税の「権利」を取得しておくことをお勧めします。
補足
開業届とは別に、都道府県税事務所に申告する「個人事業税の事業開始等申告書」というものもありますがこれはまたの機会に。こちらも提出しなくても罰則はありません。
参考
国税庁『個人事業の開業届出・廃業届出等手続』
国税庁『事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分』
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