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父さんと母さん 4話

恥ずかしかった。焦っていた。でも、弱いところを見せたくない、という悪魔が勝った。僕は母さんに当然のごとく、お会計よろしくという合図を送った。母さんも予想外だったのだろう、ここカード使えますか?と女将に聞いて、使えると分かるとクレジットカードで精算を済ませた。父さんは後ろの方で黙ってそれを見ていた。一応ご馳走様とお礼は言ったものの少し申し訳なさそうになっていた表情が母さんには見透かされていたのか、逆に「こんな美味しいところ考えて連れてきてくれてありがとうね」とお礼を言われた。

情けなかった。いい年して遠方から来てくれた両親にご馳走できなかったこともあるが、それ以上にその発想を持てなかった自分にだ。子を持つ親になれば分かることだが、我が子の成長が何よりの親孝行なのだ。お金持ちや出世だけでない、心の成長は何よりグッとくる。18歳で親元を離れ20年以上経ち、早くに結婚して勝手なことばかりしてきた。両親には寂しい想いをさせてきた。待望の孫にもほとんど会えない。孫の運動会や文化祭へ行くことすら一度もできなかったのだ。それでも文句も言わず遠くから暖かく見守ってくれている。そんな優しい両親に我が子の成長を見せることすら出来ず、逆に残念な想いをさせてしまった。本当に情けない。

食事のあとは僕の狭いワンルームに3人で泊まり翌朝後をたった。どうしてホテルを取らずに狭いワンルームなのか?これは両親の性格なので言っても聞かないのだが、とにかく節約思考、余計なものや無駄なものは一切買わない。この旅も車で来てくれたのだが、定年を迎えてなお車中泊もする。一方で僕たちにはたくさんのお金を渡してくれる。「はい、泊まり賃ね」とホテル代以上の額を渡してくれる。「いやいや、これ多過ぎでしょ」といいながらも手は既に現金をキャッチしている。今にして思えばそんなやりとりを楽しんでいたのかな、とも考える。念のために補足しておくが両親は決して裕福ではない。賭け事は勿論、外で飲む、タバコなども一切しない。節約をして貯金しているのだ。それでも年を重ねると分かる与える喜び。これも幸せを感じるひとつの行為。そんな調子のいい発想から、今では親からの献金を否定せずに毎回気持ちよくいただくようにしている。なぜなら親は喜んでくれることに幸せを感じるから、これでいいのだ笑。

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