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わかりあうなんて永劫無理〜映画『怪物』感想

監督是枝裕和×脚本坂元裕二。なんという最強の組み合わせと思って楽しみに待っていたけど、いざこうして置かれると意外とあっけなくその時は来た。音楽坂本龍一という望外の肩書きまでつけて。この辺の計算のいやらしさ(褒めてる)はプロデューサー川村元気氏イズム全開という感じで、まんまと乗っかってしまう訳で。

先に言うと鑑賞後エンドロールでボロ泣きしていました。aquaを聴きながら。前作『万引き家族』やポン・ジュノ監督作『パラサイト』の時も同じ感慨を持ったけどいやまじでこういうのエンタメとして消化するのがしんどいし、更に加速してる。なんかもうこの世界終わってるな。まさに言語化できない何かを目の前に突きつけられ呆然としてしまった。
感想を文字にするというのが最も向かないタイプの映画で、書くのここでやめてしまいたくなるがとりあえず書きます。ネタバレ(spoiler)ありです。

なんせ怪物なんてタイトルだから、怪物の正体とは何か?もっと言えばこの登場人物の中の誰なのか?みたいな犯人探し的な見方をまずはしてしまうわけですが、そんな表面的なもんじゃなく。主人公が3人いて視点が変わる3部構成で、あの時こっちではこうでした的な桐島部活やめるってよ方式。全員悪くないけど全員どこか悪い。
ただし明らかにこいつはどこから見ても悪役というのが1人いて、しかしそいつは怪物でもなんでもない。本当にどうしようもないクズで同情の余地もない。

中でも一番本質が顕になっているように感じるのはあの音楽室のシーン。誰もが手にできるしあわせというものについて。言葉にできない感情はそのままふーっと吐き出す。それが音になる。きっと答えはここにあるんだな。甲本ヒロトの名言「イライラしたそのまんまでロック聴きゃいいじゃん」に通じる人間らしさの部分。

ここは是枝作品ぽさが出てるなとか、ここは坂本作品ぽい言い回しだなとか、『台風クラブ』の影響下かなぁとか、そんな鑑賞方法絶対に望まれてないだろうけどついしちゃったりして、でもそんな仕草さえも素直に包んでくれそうな気もして。

まあでも気になるところはあって、特に第1幕の母親(安藤サクラ)シークエンス。ここまで社会的イシューが前傾化しててわかりやすいのも是枝作品としては珍しい。学校側の対応はいかにも判で押したようなどこかの国会でのやり取りを連想させるもので、私たちの想像を超えない。(「目が死んでるんですよ」なんて言葉をセリフで言わせたのには驚いた)
問い詰められてつい笑ってしまう保利先生(永山瑛太)や、隙あらばふらーっと部屋から出て行こうとする校長(田中裕子)は、後半の展開を思うとややミスリード的な演技が行き過ぎてて整合性が取れない感じもある。この第1幕はある意味仕掛けの部分でもあるので、割り切ってやりましたということなのかな。

テレビ番組の使い方も露悪的で凄かった。ドッキリだよとかノリ悪いねとか、子供って無邪気にとんでもないことをする。誰も悪意を持ってやってる訳じゃない、ここにも「全員悪くないけど全員悪い」が詰まっている。ただ傍観しているだけの女子生徒が印象的。あれがたぶん私たちマジョリティの象徴。ヘテロセクシャルでシスジェンダーな大多数の人の反応はきっとあれ。だから何も手を差し伸べない彼女に対して沸いた感情はそのまま自分に突き刺さると思ってて正解。

こうした罪悪感や後ろめたさを常に抱えながら生きるのってある意味とても日本人らしい部分でもあると思った。
「生まれ変わったのかな」
「そんなのはないんだよ」
「そっか、ないか」
この軽やかな着地に号泣。淡い光のなかへ駆け出していく。いや、そんないいもんじゃないよね…こんな社会に誰がしたのかな…前途ある子供たちに誇れるこの世界ではもうなくなってしまったという諦念や次世代への申し訳なさも…やっぱりあるなぁ。

あと、あの嵐の廃車両の窓に暴風雨があたり、手で土砂をいくら避けても埋まっていく様を中から写した画は鳥肌が出た。何あのカメラ!

第2幕のラスト、保利はどうなったのか。ベランダから下を覗いて「違いました」という教員の一言が気になる。違いました?あの彼女との関係にも触れておきたいけど情報量が多すぎ。

で話を冒頭に戻して怪物の正体は何?という問いなんだけど、結局はもうこの社会構造全体というか、資本主義(capitalism)のことですみたいな回答になっちゃうのかな。メガ大企業があらゆる産業を搾取し肥大化しこの星を荒野化していく構造こそ怪物?いやそんな答えはさすがに無理筋というか、そんなこと言い出したら何でもありになってしまう。
(例えばインティマシーコーディネーターを入れて役者の心理面をサポートしましたというのも、それって資本主義と人間のエゴが産み出したポジションでしょ、新しい食い扶持ができて良かったね〜とか思い始めてしまいそう。バッドバイブスすぎてやばい)
誰の心にも怪物は棲んでいるとかまさかそんな薄っぺらいこと言わないよね?とも思うし、結局このタイトルをつけた真意はやっぱりちょっと僕にはわからない。ピクサーみたいに1語で適当につけただけと言うならその方が納得。まぁそれもありかも。

※余談。生まれ変わりというキーワード×安藤サクラと言えばブラッシュアップライフを連想してもちろん偶然に違いないが少し微笑ましくなったな。

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