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声高らかに福は内

実家に住んでいるとき
節分の日は父と豆まきをしていた

夕食のあと2階の部屋で
休んでいると
茶の間から

さえこ~
豆まきするぞ~っ

と号令がかかる

はーい

階段を降りていくと
隊員は私しかいないけれど
全員揃ったな顔の父

それではこれより
節分の義をとりおこないます!

お父さん、なに張り切ってんのと
台所で笑う母

豆を持つ父
よしっ、お前はこれだと
豆を買ったときについてきた
鬼の仮面を頭につける私

まずは2階からだと階段を上がり
「鬼は外ぉっ!福はぁ内っ!」と
1部屋ずつ声高らかに豆をまいていく父
その後ろをただついて歩く鬼

いや、私

父は背が高く身体も大きいので
後ろにいると前が見えない
私は時々、脇から顔を出し
父の持っている豆をいくつか掴んで
えいっとまく

元々声の大きな父
ノッてくると更に声が大きくなる
比例してまく豆の量も増える

鬼はぁっ外!福はぁっ内っ!!

そうなると台所にいる母から
「お父さん!さえこ!
片づけるのが大変なんだから少しにしてよ!」と
声がとんでくるのだけれど
父と、もう遅いよねという顔をして
少し笑い豆まきは続行される

途中からは何かのタイミングで
福は内!福は内!に変わっているので
鬼は外じゃないの?と聞くと
鬼はもういないからいいとのこと
ふーんと私

私も真似して
福は内ぃ 福は内ぃ

すべての部屋へ豆まきを終えると
最後は玄関のドアを開け
玄関口と真っ暗な外へ向かい

福はぁ 内ぃぃ
鬼はぁ 外ぉぉぉ!

と叫びながら豆をまき
フィナーレとなるのだけれど
2月といえばまだ真冬の北海道
冷たい風や雪が吹きすさび
一瞬にして寒さに震えることもあった

毎年、見えない何かを外へ出したようで
すっきりした気持ちとなるので
父とまく豆まきが好きだったけれど
今思うと、最後の玄関からはいってくる
眼の覚めるような冷たい風や雪が
そう思わせていたのかもしれない

その習わしも随分前に
たまたまスーパーで見つけたのか
片づけが大変だからという理由からか
小袋にはいった豆へ変わり
ちょっと物足りない気持ちになったのは
それっとばかりに豆をまく楽しさと
あ、こんなところにもまだあった
なんて言いながら後から見つけた豆を
拾って食べるのが好きだったからだ

当初、小袋の豆は面白くないから反対と
言おうと思ったけれど
こりゃ、片付けるのに面倒じゃなくていいなと
小袋の豆を食べている父を見ていると
豆まき魂を忘れたの?お父さん!!
と言いたくもなったけれど

声が高らかで楽しそうなのは変わってないし
一番困っていたであろう母から
声がとんでくることも無くなったので
これはこれでよかったような
ちょっとさみしいような

実家をでてからは父と
豆まきできていないけれど
ふと思い出すのは
「福は内!福は内!」と
豆をまく父の大きな背中と
台所から聞こえる母の声

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