本をつんだ小舟によせて 02

 ~トマトの話 (宮本輝著 五千回の生死に収録)~

  学生時代、バイトといえばほとんど日雇いだった。引っ越しやぬいぐるみ工場、パン工場、百貨店の片づけ、スーパーでの中華総菜販売、花火でのビール売り、交通量調査等。一日だけ、というのがさっぱりしていてよかった。

 人力車のバイトというのも最初は日雇いだった。ところが、一日で終わるはずがなんとなしに、続けることになった。続けたいと思えた原因のひとつが”代行”と呼ばれている一人の先輩の存在だった。

 ちょっとこじゃれたマンションの一室のバーにも連れて行ってもらう等とても大事にしてもらった。何より接客の仕方がむちゃくちゃかっこよかった。一度だけ代行のサービスに同行させてもらったところ、一本の木の前でなんじゃかんじゃで1時間半くらい説明し、お客さんも大喜びで帰られたのを見て、しびれた。

 結局なんか後味の悪いやめ方をしてしまったけど、最後の時も、代行はきちんとお別れの言葉をかけてくれた。

”トマトの話”を読むと日雇いの日々を思い出し、そして代行を思い出す。社長、松井さん、中さん、細見さん、森脇さん、ありがとうございました。