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催眠術講義、景観論、その他

学生Q.先週お話していた遠隔催眠術の師匠って伊豆の忍者ですか? 私にも伝授してほしいです。先生は真面目なように見えて、遠隔催眠術など、子供みたいなことも好きなんですね。
コクジーA.遠隔催眠術は大変危険な技なので未熟な大学生には教えられません。一定の期間、修行しなければなりません。師匠は金儲けしているわけではないので、ここに名前を出したら叱られます。それから、忍者というのは伊賀、甲賀が本場で、伊豆は関係ないですよ。君は「忍者」というよりも「何者」と言われるべきです。実は今、透視と空中浮揚の練習中です。体得したら教務課と相談して、「透視概論」、「空中浮遊原論」、「水上歩行計画論」とか開講します。嘘です。

学生Q.観光交通は様々な手段を組み合わせて形成され、それ自体が観光資源になっていく、ということだそうですが、例として取り上げられていた立山黒部のように紀伊山地にもアルペンルートをつくったら良いのに。あまりにも交通の便が不便だからです。
コクジーA.同じ山岳地でも性格は様々です。年寄りも女性も団体客も行けるように道路やロープウェイを整備した方がいい場合と、いけない場合があります。熊野は霊場であり、修験の場であるわけですから、「容易に人が近づけない」ことに存在価値があるわけです。立山黒部の場合はもともと関西電力による水力発電所建設の副産物のようなものですから、観光利用にあまり抵抗はなかったのですね。自然保護の観点からは要注意ではありますが、この場合はむしろ有効利用だったというべきでしょう。実は私も教員になる前に観光のコンサルタントをしていたことがありました。その時沖縄の竹富町というところに依頼されて観光開発プランを練ったことがあるのです。その際に町長はどうにかして西表島にロープウェイをかけたい、と熱心におっしゃっていたのです。環境に配慮すれば、いくら観光振興といってもそんなことは許されないでしょう。依頼された立場としては大変難しかったのですが、計画に含めることを拒絶して大げんかしてしまいました。熊野も同様です。ロープウェイが架かっていたら、喜ぶ人よりもがっかりする人の方が多いでしょう。

学生Q.日本の自然の美しさを教えたのは英国の宣教師だったなんて残念だと思う。日本には日本にしかない自然の美しさがあるのだから、その美しさには日本人が気づいてみんなに教えてほしかった。
コクジーA.まったく同感です。でも案外、人間って自分のいいところが分からないんですよね。自分の悪いところが分からない人よりはマシですが。
 授業の話を補足すると、明治期に英国の宣教師で神戸に住んでいたウォルター・ウエストンという人が「日本アルプスの登山と冒険」を発刊しました。彼は何度か日本の中部山岳地帯に出かけ、その美しい風景に魅せられたのです。それまでの日本人の自然を見る立ち位置というのは、山水画の影響を受けて、箱庭的な自然を愛でるというのが一般的でした。日本三景や琵琶湖八景に代表されるような景観です。これを突き詰めれば、盆栽や枯山水にも通じるのでしょう。このウエストンと同じ頃、志賀重昂(しげたか)という地理学者が27(1894)年に「日本風景論」という書物を著しました。彼はウエストンに触発され、日本の風土は火山が多く流水に富み、いかに美しいか、そしてもっとパノラミックな風景にも目を向けよう、いうことを力説しました。この書物は当時としては画期的なベストセラーとなりました。あの福沢諭吉の「学問のすすめ」と並ぶ書物だと言われているので相当なものです。日本人の観光旅行の嗜好(いろいろな調査結果を見ても、日本人の観光旅行で「美しい自然を見たい」という理由は圧倒的に多い)に重要な影響を及ぼしています。また、この風景論がその後の国立公園設置の基礎になっていきました。

学生Q.海外旅行が盛んになってきた背景に、日米の貿易が関係しているなんて初めて知りました。
コクジーA.国際的な収入・支出の勘定は「国際収支」としてまとめられます。この国際収支は「貿易収支」と「貿易外収支」に分かれます。この「貿易外収支」の中に「観光収支」があり、海外旅行は支出、訪日外国人旅行は収入に相当します。貿易収支の黒字が過ぎると、他国との経済摩擦の原因になるので、節度を守ることが必要です。そこで海外旅行を奨励して、貿易外収支の方を赤字にしたらどうか、という発想です。授業の内容をもう一度おさらいしましょう。

■1980年代は日本の貿易黒字の増大が国際問題にまで発展した時代でもある。米国では、日本の自動車産業に対する風当たりが強まり、デトロイトの町中でアメリカの労働者が日本車をたたき壊す、というような光景がテレビでも放映された。こうした批判をかわすため、日本政府は海外旅行者の増加を促進し、貿易外収支の赤字を増やすことに注力し始めた。儲けすぎたから、もっと外国でお金を使おうということである。海外旅行の拡大は「国益」に適うとみなされたのである。運輸省は86年に、海外旅行倍増計画「テン・ミリオン計画」を発表し、5年後の海外旅行者1000万人時代を目指すことになったが、その後ろには実は当時の大蔵省の強い意志があったのである。国民の海外旅行に対する関心の高まりと相まって、目標の1000万人は計画よりも1年早い、90年に達成した。当時の施策としては海外旅行土産品の免税限度枠の拡大や職場旅行の非課税日数が3泊4日に拡大されたことなどがある。その結果、
89年 国際収支534億   貿易収支660億   貿易外収支 -120億
90年 国際収支298億   貿易収支505億 貿易外収支 -207億 単位ドル   となった。


しかし、このようなケースは例外です。ほとんどは観光収支をなんとか黒字にすべく各国は努力してきました。カナダなどは自国民のアメリカ旅行を禁止したこともあるくらいです。国際収支でどんどん黒字化を進めて、外貨を獲得していけば、国として裕福になるわけですから、本来は日本のような発想になるわけではありません。あまり大きな声では言えませんが、とにかくアメリカに何か言われると、すぐシュンとなって言いなりになる悪い癖、ということもできるでしょう。

学生Q.誰かに、日本では自殺者が増えていると聞きました。講義を聞いていて思ったのですが、日本もフランスのように「バカンス法」を作るべきだと思いました。
コクジーA.バカンス法があれば自殺者が減るのかなぁ? 「働き過ぎ=自殺」という意味なら君の意見に賛成かも。でも私も若い頃は月に3日しか休まなかったくらいハードに働いたけど、生きる意欲ムンムンでしたよ。考え方次第ですね。明日は今日ほどひどいことはあるまい、と思い続ければいいのです。でも考えてみれば私たちの若い頃は、5年先には給料はどれくらいになる、入社後平均何年で係長になれる・・なんていうライフプラン、働き方のモデルが会社や労働組合から提示されていました。今の待遇が悪くても、頑張れば先輩のようになれる、何歳頃には結婚もできて、家を購入することも夢ではない、と思える時代でした。先日、卒業して3年ほど経過したゼミ生が訪ねてきて、「先生、あかん。5年先輩の人の仕事が俺と同じや。給料も変わらんで」と嘆いていました。人件費の圧縮とやらで、正社員を減らし、派遣で済ませようとする企業がとても多くなりました。学生諸君には、こういう中で「働くことへのモチベーション」をどのようにして維持してもらうか、我々教員の大きな悩みになっています。

学生Q.観光の授業とは関係ないのですが、駅で自動券売機が目立ちます。これも時代の波といえるのだろうか。
コクジーA.ちょっと大げさに考えているね。君が今日遅刻したのはそれが理由かね。後ろの扉から入ってきたのを目撃しています。だいたい、遅刻した場合はもっと目立たなくしなさい。自動券売機のことなどを考えているから下車するの忘れたのでしょう。機械化の波に逆らうわけではありませんが、スイカとかピタパとかイコカとかパスモとか最近いろいろあります。だいたい名称からしても個性を出そうという気概が感じられません、どうでもいいですが。まぁ自動改札も当たり前になってきました。あれは客の手間をカバーするよりも、鉄道事業者の合理化なんだといつも思います。以前、機械の不調で、正規の乗車券であるにも関わらず、改札がバタンと閉じてしまい、前に持っていたシュークリームの箱がグシャとつぶれてしまったことがありました。駅員と喧嘩してしまいましたが、かれらはじっと眺めているだけで、荷物をたくさん持った乗客がカードや券の出し入れをするのに負担はそんなに軽くはなりません。それになぜ皆カードを使うのかなぁ。あれって安くなってるの? 私はJRで定期的に乗る区間は回数券です。10枚分の費用で11枚出てきます。せこいのか? ドイツやオーストリアなどでは非常に良く出来た券売機が並んでいます。チケットはバスも地下鉄もトラムもみな一緒。価格は距離帯別に4種類のみです。改札なしでごくたまに検札が抜き打ちであります。ごまかしを防止するため罰金は高額です。日本では都市交通システム全体に無駄が多く、料金も詳細に分割され、地図を見るのにさえ虫眼鏡とか双眼鏡が必要です。最近、クールだとか言って日本を持ち上げるテレビ番組が多いですが、どうでしょうかね。少しは外国を真似るべきです。ドイツなど、こちらは複雑な例外はすべてカットして単純で合理的なシステムにしています。日本は細かな細工が旨くてその挙げ句、使いにくい。交通系ICカードの乱立はその典型例でしょう。またヨーロッパでは鈍行列車でさえも内装・外装とも心豊かになるほど美しい。混雑時には座席をたたんでしまうなど、日本の車両は思想的には貨物列車と同じです。

学生Q.先週の航空会社の話であったように、外国へ出入りする際の検疫はとてもきびしいと思った。
コクジーA.到着した飛行機の中でスプレーで殺虫剤を全員に振りかけていた話は不愉快ではありますが、検疫業務の一つです。皆さんが食べているバナナも港に到着した後、倉庫に入れられ、青酸ガスなどで薫蒸します。強力な殺人ガスでの殺菌です。もちろん食べる時には大丈夫ですが、これも検疫業務です。このトンガへは仕事で行ったのです。帰りのエア・ポリネシアのフライトのリコンファームも済ませていたのですが、搭乗直前のカウンターで「あんたらは乗れない」と横柄な態度で女性スタッフが告げました。前日にトンガの観光庁の偉い人と面談していたので、彼に頼んでなんとかしようと思ったのですが、女性スタッフのネームプレートを見てその名を彼に告げると「あかんで、あの人は王様の娘やんけ」と言われてしまいました。しかも、トンガは自国に自前の航空会社はなく、隣の西サモアの航空会社に「立ち寄ってもらう立場」だったのです。やむなく、フィジー航空の部長さん(この人にも面談していたので)に電話して翌日のフィジー航空の席をようやく確保してニュージーランドに脱出できたのです。

 国と国の間には様々な見えない障壁があります。航空会社だけではなく、税関も国によっては大変厳しいです。かつてイタリアの空港税関で日本人観光客が麻薬所持の疑いで調べられたことがあったのですが、日本人にとって普通のクスリであるセイロガンが疑われたそうです。私もアフリカのモロッコの空港で兵隊に別室へ連行されたことがあります。言葉がフランス語だったので何を調べたいのかよく分からなかったのですが、結局タバコ一箱差し出すと放免されました。煙に巻くということかな? こういうタバコほしさのふざけた兵隊もいるのですが、カービン銃を突きつけられるとさすがに焦ります。

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