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どんな一流レストランも敵わない、自炊の価値とは。 #今日は料理する日

「料理する日もしない日も、いい日にする。」をテーマに、料理研究家のリュウジさんとスープ作家の有賀薫さんにお話を伺いました。

今回は、普段料理していない人に向けて、「料理って難しくない?」「料理を楽しむコツは?」という質問から、まずは成功しやすい料理から始める、SNSを活用するなど、「料理する日」を少しでもいい日にする秘訣を伺いました!

「何を食べたいか」「どんな気分になりたいか」がいちばん大切。

有賀さん(以下敬称略):まず、料理の難しい / 簡単の感覚についてなんだけど、わたしはあまり難しい / 簡単の指標では考えないかも。それよりも何を食べたいかを大切にしています。難しいか、簡単かは後から考えているような…。

リュウジさん(以下敬称略):それは確かに。レシピ提供をするときには逆に難易度で考えているんだけど。例えば雑誌やテレビ、Twitterでもそれぞれ紹介するレシピの難易度は意識して変えています。

有賀:わたしはよく、料理を覚える / つくることをスキーに喩えているんだけど。リュウジくんはスキーやったことある?

リュウジ:スノボは昔ちょっとやっていました。

有賀:じゃあ、伝わるかも。「スキーは初めて」と伝えているのに、いきなり頂上に連れていく人っていませんか? リフトで一番上まで行って、とりあえず下りてみようか…みたいな友人。

リュウジ:そんな人いますか(笑)。

有賀:いや、いるんですよ(笑)。もちろん、低いところで少しずつ練習して慣れさせてくれる人もいますが。でも頂上まで連れて行かれて、転がりつつもなんとか下りてくると、ちょっと自信が付く。わたし、いけるじゃん! って思うようになることがある。

料理でも、ギョーザを皮からつくるとかケーキをつくるとか、初心者でも、ちょっと難易度が高いことに挑戦しても別にいいじゃないですか。それが食べたくて、楽しいと思えることが大切だから。

リュウジ:全然問題ないですよね、料理をつくる目的が大事。例えば誰かのために特別につくってあげたいと思った料理って、簡単料理・時短レシピではなくて、時間も手間もかかる難易度の高いメニューだったりする。初心者だからって簡単な料理からはじめる必要はないと僕は思います。技術がなくても参考書や動画を見れば、わりとつくれてしまうんですよ、実はね。

有賀:動画はレシピ本ではわからないことが、パッと見てわかるからやっぱりすごい。 「よく炒める」「火が通ったら入れる」と書かれていても、その状態を見たことがない初心者には伝わりづらい。それはレシピ本の、ある意味、限界だと思う。

でも料理動画は、「こんな感じまで煮ればいい」「火が通るとこんな見た目になる」を見て学ぶことができるから、意外と失敗しないんです。

つくれるようになりたいのか? うまくなりたいのか?

リュウジ:レシピ本や動画を見て、まずはレシピ通りにつくってみることを初心者にはおすすめしたい。

有賀:そうですね。レシピ通りにつくることってとても大切。わたしはレシピ本にも「何センチに切る」「塩小さじ1」とかできるだけ細かく書いています。

リュウジ:レシピ通りにやらなくてもおいしいものができる人って、もう初心者ではない。料理ができる人です。例えばレシピにない調味料や材料についても、自分で調整したり代替品を用意できないと思ったら、全部揃えてしまった方がいい。でないと絶対に事故るので。

事故が多発すると、もう料理を嫌いになってしまいます。いちばん大切なのは料理を嫌いにならないこと。

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有賀:料理って失敗しやすい料理と、わりと失敗にしにくい料理がある。例えばスープは失敗しにくい料理です。味が濃ければ少し水を入れればいい。でもポピュラーで好きな人が多いオムレツやオムライスは意外と失敗しやすい。

リュウジ:オムライス、めちゃめちゃ難易度高いです。

有賀:最初に、多少難しくても食べたい料理を作ればいいって言ったけど、みんなが知っているポピュラーな料理が必ずしも簡単なわけではないので、成功率の高い料理をつくってみるのもひとつですね。あとは、盛り付けを工夫することで見た目に満足度の高い料理をつくってみるのも意外といいかも。

リュウジ:あ、確かにそうですね。僕が「バズレシピ」としてTwitterとかで紹介しているレシピは簡単に気軽につくれることを重視しているので、正直見栄え的な美しさはそこまで求めていません。純粋に料理を勉強したい、うまくなりたいことが目的なら、やっぱり教科書どおりにいろいろな手法でたくさんつくることが大切。ちょっと昭和的かもしれませんが、死ぬほどつくればうまくなりますから(笑)。

有賀:それはある種事実だけどね(笑)。

リュウジ:レンジでチンするだけのレシピもよく紹介しますが、レンチン料理ばかりでは、フライパンを使う料理はうまくならない。

有賀:包丁を使わないレシピもありますけれど、ずっと包丁を使わなければ一生切ることはできませんからね。

リュウジ:そう、でも料理はつくれる。だから目標をどこに持っていくかっていうのもすごく重要です。

有賀:「簡単にそこそこおいしいもので空腹を満たしたい」「とにかく栄養を取りたい」ときには、別に料理をそんなに深くする必要はない。お惣菜を買ってきて、ちょっとした野菜サラダをつくってみるとかね。

正解・不正解を求めないこと。

有賀:料理の細かいひとつひとつの作業にも、目的は関係している。例えばあく抜きや皮むきにも。ニンジンの皮をむくときとむかないときがありますよね。基本的にむかなくて全然問題ありませんが、(わたしは)ポタージュをつくるときはむく。それは舌触りが滑らかになるから。作業ひとつ一つの意味が分かると、料理が一段と面白くなります。

リュウジ:でも見てる側って、たぶんどっちが正解なのっていうのを絶対……。

有賀:聞きたがる。

リュウジ:そう、絶対聞きたがるんです。

リュウジ:僕は視聴者さんには何回も言っているんですけど、料理に正解って別にないんですよね。ひとつもない。

有賀:そうですね。ただやっぱり、初心者の人たちが「よりどころ」を求めたい気持ちもわかるんです。どうすればいいか判断に困ったときに、すがれる何かが欲しくなる。

もちろんそれを強く言い過ぎてしまうと「正解か不正解か」で窮屈になってしまいますが、もし何か頼るものや指標にするものがあるとしたら何だと思いますか? リュウジさんだったら、リュウジさんのYouTube見るって感じかな?

リュウジ:どうだろう(笑) 僕が紹介するレシピの中では比較的手順が多いけど、おすすめのレシピを紹介する「至高シリーズ」では、かなり基本的なところから紹介しています。

リュウジ:なぜ皮をむかないのか、なぜここであくを取らないのか、とか。有賀さんの言う通りで、あくをとる料理もあれば、とらない料理もどっちもあるんですよ。料理によって野菜の剥き方や、茹で方も違うことは、僕を含め料理をする人の中では当たり前になっているけれど、初心者にとっては料理ごとの、ではなく素材や作業単体での正解・不正解論になりがちなのかもしれない。

自分にあう料理研究家探し。

有賀:わたしは料理本や動画を見て、この料理研究家さんが気になる、この人の料理を食べてみたい、と思うレシピを見つけたらまずつくってみる。つくって食べてみて、塩味や脂っ気、あるいは組み合わせとか「あ、この人のレシピ好きだわ」と感じたら、その人の本なんかを1冊買ってつくりこんでみる。これは指標や、拠り所を求める意味でもおすすめです。

リュウジ:そうですね。自分に合った料理研究家さんを見つけるのってすごく大事ですね。不思議なことに、僕と有賀さん、両方好きな人もいるんですよ。味付けはまったく違うんですけどね。僕も有賀さんの料理が好きだし。

有賀:わたしもリュウジさんの料理は好きですよ! よくつくっています。

リュウジ:ありがとうございます。僕は何となく普段発信している料理からもこってり・がっつり系のイメージがあると思いますが、有賀さんの素材の味を生かしたような、ちょっとあっさりした料理もすごい好きなんですよ、実は。

有賀:たぶんわたしとリュウジさんの両方が好きっていう方は、きっと料理に向かう肩の力の抜き加減に共感してくれているのかも。

リュウジ:同じように力が抜けているのかもしれないですね、もしかすると。

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有賀:そうそう、「ゆるくやっていこうよ」「楽しくやっていこうよ」っていうメッセージを受け取ってくれているのかな、とわたしは勝手に自分でいいように解釈しているんですけど(笑)。「ゆるくやっていくこと」「肩肘張らずに楽しんでいくこと」って、料理の初心者や、これから料理始める人、料理ってちょっと難しいと感じている人たちには必要なメッセージだと思うんです。

皮はむかないといけない、あくは取らなきゃいけない、こうじゃなきゃいけない、正しくやらなければいけない……と考えすぎてしまうと、どんどん窮屈になってしまう。それはもったいないですよね。料理の世界ってすごく幅広くて、あっさりして滋味深い料理もあれば、パンチが効いて、「もうこれを食べたら1日元気に動けるぜ!」みたいな料理もある。生きていれば疲れた日もあれば元気な日もあるように、そのときのコンディションや気分に合わせてつくれるようになるといいよね。

自分がどうしたいか・どうなりたいかを大切に。

リュウジ:これだけはずっと言い続けているのですが、料理をするときには、「自分がどうしたいか・どうなりたいか」を大切にしてください。僕の場合は自分が食べたいから料理をしていますが、自分の気持ちが乗らないと、やっぱり続けられないと思うんです。

僕は、料理動画でもお酒飲みながら、つまみながらつくっていますが、視聴者さんはそこに面白さを感じてくれて、料理をはじめるきっかけにしてくれる。個人的には「みんな本当に面白いのかな?」ってたまに疑問に思いますけども(笑)

だから、誰かのためにつくる料理ももちろん素敵ですが、僕のところには誰か(家族や、パートナー、子ども)のためにつくるのがつらいというメッセージもたくさん送られてきます。そういう人はあくまで自分のために楽しむことでモチベーション上げたほうがいいんじゃないかな。

有賀:自分が楽しむためにできることってなんだろう。

リュウジ:SNSかな。

有賀:いいですね。わたしのスープも、実は朝撮ったスープをSNSに載せているうちに、周りのみんなが、「毎日スープをつくってすごいね」「面白いね」と言ってくれたところから続いているんです。

リュウジ:もう載せましょう、有賀さんみたいに。僕も、もしかしたらみんなのいいねがなければやらないかも。そんなもんだよ、たぶんね。

有賀:日々家庭で料理をつくっているシュフが、つらいと感じてしまうのは、頑張ってつくっても誰も褒めてくれないから、というのもひとつの要因だと思っていて、だからその本人よりは周りの人に言いたい、もっと褒めてあげてよって。

それは外でも一緒で、お店や、友人・知人の家でも、料理をつくってくれた人においしいって言ってあげてほしいんですよね。それをみんなが習慣にして、あいさつのようにおいしいねって言うのが普通になったらとても素敵ですよね。「この間のあれおいしかったよ」の一言が、つくる人を勇気付けると思います。

リュウジ:おいしいって言われて嫌な気持ちする人、絶対いないですからね!

有賀:あとはシンプルに形から入る。いい包丁やすてきなエプロン買うとか、やっぱり包丁は切れると、すごく料理が楽しくなります。キュウリを切るだけでもすぱっと切れて楽しくなるので、例えば趣味でも道具や環境を整えることから入るような人は、ぜひ。

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どんなにおいしいレストランも敵わない、自炊の価値とは。

リュウジ:あとはメリットを明確にすることですね。僕は料理についてはとにかく「楽しもう」と言っていますが、そもそも自炊するメリットってものすごく大きい。例えば、基本的に節約になります。それから最大のメリットは、体調管理がしやすいということ。

有賀:それはある。

リュウジ:出来合いの料理だと、もう完成されているから、調整は難しい。僕は1日トータルで考えているので、お昼に野菜足りなかったら、夜は野菜中心のごはんにする。逆もしかりで、お昼が炭水化物と野菜が多ければ、夜は胸肉でタンパク質を摂取したり。料理を続けていくと、材料さえ見ればある程度栄養素や、カロリーなんかも計算できるようになって、体調や健康の管理がしやすくなります。あんまり食欲がなければさらっと食べれるものをつくる、とかね。

有賀:自分の体に合わせて食べるものをつくれるのってすごく楽なんですよね。

リュウジ:自分の舌に合わせられるからね、(自分でつくる)料理は。人って好みが結構分かれるじゃないですか。薄味のものが好きな人もいれば、濃い味のものが好きな人な人もいる。
辛い味の方が好きな人がいれば、酸っぱい味の方が好きな人も。僕自身は、酸っぱい味があまり得意ではないから、自分のレシピではあまりお酢を使いません。それも自分で調整できるんです。自分の舌に合わせた最高のコンディションの料理を食べられる。

自分がいちばんおいしいと思うものって、実は自分しかつくれないんじゃないかな。味の好みはもちろん、その日の体調や、舌のコンディションは自分にしかわからない。有名料理店のシェフも、お弁当屋さんの店員さんも、お客さんのコンディションまで見られるわけではない。その日の気分や自分の好みを、全部計算していつでも生み出せるのは、相当なメリットだと思います。

有賀:細かい調整までいかなくとも、ちょっと野菜不足だと感じたときに、自分で野菜を切ってサラダをつくって食べるだけでも満足できるはず。自分が野菜不足だと感じたときに野菜が取れたっていう達成感がね。そういうことの繰り返しが続けることのモチベーションにつながっていくんじゃないかな。

リュウジ:そもそも無理に料理する必要はまったくありませんが、あえてメリットを挙げるとしたら、そういうところなのかな。

料理を知ると優しくなる。

リュウジ:料理をしない方は、料理をつくるのにどれくらいの時間が掛かるのか、どれくらい材料を用意するのか、知ったほうがいいとも思います。例えば、肉じゃがってつくるのがすごく面倒くさいんです。「男性が女性につくってもらいたい料理ナンバーワン」ってよくいわれますが、「みなさん、肉じゃがをつくってもらえる方は幸せに思ってください」と言いたい。料理動画を上げたときにも話しましたが、時間もかかるし、野菜もいろいろ使うし、とにかく面倒な料理なんです。

リュウジ:料理を知っていると、外で出してもらった料理の隠れた手間もわかるわけで、「うわ、こんな、皮も全部むいてある…すごい…」となる。自分が料理をしなくとも、勉強するのはいいことだと思うんです。

有賀:知るってすごい重要ですよね。いただきますって手を合わせる気持ちになる。料理を知ると人に優しくなれるのかもしれません。

リュウジ:優しくなる。教養のひとつとして知っておくのはすごくいい。なので、料理動画やレシピ本で、料理がどうなっているのか見てみて欲しい。

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有賀:裏側を知るってすごい重要なことですよね。

リュウジ:社会科見学と同じですよね。「あ、お醤油ってこうやって造られてるんだ」「お酒ってこうやって造られてるんだ」って見たあとは、感謝しながらそれをいただきたくなります、僕は。

有賀:家庭内社会科見学みたいなね。

#今日は料理しない日 のnoteはこちら。