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偶然性の効用 6

過去にあげた動画のテキストをあげております。その6です。

こんにちは。前回も引き続き科学研究の手続きに関する話をしました。 この中でも頻繁にキーワードとして、「偶然性」ということが出てきました。

一連の話の中で私はやたらにこの偶然性の効用を強調してきました。 これはゆえあるものだということをこれからお話ししします。

ここでもまた科学研究の実例を用いようと思います。

初めに、素晴らしい科学研究の成果とはどういうものなのかということについて考えてみたいと思います。

大きな利益をもたらす発明やノーベル賞などの有名な賞を受賞する研究はたしかに素晴らしいわけですか これらを支える根源的な価値として、先ずこの研究自体が「面白い」と思えるものなのか、ということが存在することを述べたいと思います。

少なくとも研究者自身の日々の努力としては自分が面白い、素晴らしいと思うことを目指しているといえます。これはちょうど美しい絵画を描いたり、音楽を奏でたりすることに通じます。科学はその営みの根元に芸術的追求に似た側面を持っています。

では研究者が感じる面白い科学とはどういったものでしょうか? 様々な答えがあり得ますが、 1つの側面として「意外な発見をする」ということがあります。

意外性とはすなわち。今知られている情報と、新たにわかった情報とのギャップの大きさのことを指します。

意外性は予測不能性と言う言葉に置き換えられます。面白い研究的発見とは、予測不能性を内包する、すなわちここで偶然性が結びつくわけです。

では次にこの予測不能な研究成果を合理的な努力でに導く方法はあるのか、という要求が生まれるかと思います。実は現在の生物学ではこの方法は割に昔から利用され、確立されています。

これはスクリーニングと言われる手法です。

研究をスタートした時、私は酵母、あのパンを膨らませるあれです、を用いて研究を開始することになるのですが、 そこでこのスクリーニングに初めて出会い、なるほど大したものだと言うふうに思ったのです。

その当時の目的は細胞の中の遺伝子の働きを調べることでした。

細胞には万単位の数の色々な遺伝子が存在し、それらが機能していると思われているのですが、それぞれの遺伝子がどんな働きをしているかはわかっていなかった状況でした。現在研究は進みましたが、今でもある程度そういう状況です。

これを調べる方法はとてもシンプルでした。薬剤を酵母にふりかけてランダムに遺伝子を変化させます。次にその中から自分が興味を持っている現象、例えば酵母が大きくなる、とか小さくなるとか、そういった酵母だけを集めてきます。ここだけを聞くと品種改良のようですね。

実は酵母の中の遺伝子の情報が文字配列として刻まれているので、その配列を読むことでどういった遺伝子の働きによって、酵母が大きくなったかということがわかるのです。この部分はここ何十年で遺伝子の配列を簡単に読めるようになったからこそできるようになった内容です。

この過程でどんな遺伝子が変化した酵母が見つけ出されるかは、全く予想できないわけです。それゆえ自分が想像もしなかったような遺伝子の働きを見つけ出せるかもしれません。

こういうことを続ければ、発見の大小は別にして、ある確率で、ある期間で、何か今まで世の中で明らかになってないようなことがわかるかもしれないと当時強く思いました。

スクリーニングに関して、もう一つ、自分が研究の世界にいた時に感心した解決策についてもお話もしたいと思います。

これも細胞の中にある、ある働きを持った遺伝子を見つけ出すことを目的にした研究でのことです。

この機能を担う遺伝子は50−60種類程あることはわかっていましたが、そのうちいったいどれがそのものなのかと言う事は誰にも分かっていませんでした。 そこでこの研究者はとにかく全部の遺伝子に関して個別に確かめていきました。全部調べるのは不可能ではありませんでしたが、なかなか骨が折れる作業だったので今まで誰もやっていなかったのです。

結果見事にこの中から候補を特定して、優れた成果であったとして現在もその研究は継続してさらに発展しています。

これらの例が示してくれる教訓は 偶然性や意外性の発見という一見手のつけようがない問題を、手間をかけてでも取り組めば何らかの答えが必ず出る形に落とし込んで、 後はそれを実際にとにかくやってしまうという事かと思います。

自分の身の回りにある問題の中で、複雑でどうやって手をつけていいかわからないようなものに関して、 その複雑性は自分の想像の及ばない問題に関して これらの例が与えてくれる教訓は解決策を導き出すヒントになるかもしれません。

どんとこいサイエンスアンドテクノロジー 。意外性を必然的な手続きに変えて検討することで 大きな飛躍を導き出す。 今回はそういうお話でした。

たどたどしい動画も是非。チャンネルではもう少し軽い動画もあります。


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