見出し画像

【ヴァルコネ】天災トラウマホワイトデー

 チョコレイトの甘い香りが嫌になるほどそこらじゅうでプンプンしている2月中旬、ビューレイストとユミルはノルディシアの真っ白い路上をてちてちと歩いていた。
 最近のバレンタインはお世話になった人にもチョコをあげるらしいとの噂をキャッチした2人は、それぞれお兄ちゃんや仲間、友人にプレゼントを贈りたいと一念発起して買い物にやって来た途中で鉢合わせ、せっかくなので一緒に探そうと意気投合し話を弾ませている。

「うーん、ぼくは爆竹の中に防御魔法でコーティングしたチョコを入れようと思うよ!兄さんもこういうイタズラ心がある方のが面白くて好きだからね」
「やっぱりキミみたいにそういう面白さが時には必要なのかな?ボクもオーディンやフリームスルス宛ので何かどっかんとやってみたいよ」
「それじゃグレードアップして箱開けたら花火が出るようにしてみない?」

 純粋で思いやりのある発想は止めるものがいないが故のクレイジーさを発揮し、いつしかドッキリの様相を呈していた。
    2人は良さそうなカフェを見つけ、イタズラの最終確認に入る。

「イタズラなら任せてよって!とりあえず既製品にネズミ花火と爆竹を仕込むのは調整が大変だし、ぼくのチョコは手作りにするかな」
「チョコの箱から花火とかわくわくしちゃう…花火の形はどうするの?顔でも作る?」
「友チョコの箱を開けた瞬間に自分の顔の花火が上がるの?何それシュール」
「ついでにメッセージも再生されるようにしよっかな、何がいい?」
「愛してるよ…(イケボ)でどうかな」
「ウッフフフwww」
「あスイーツ来た来た食べよ」
「食べる前に写真撮っていい?」
「ちゃ〜んとぼくのこと可愛く撮ってよ」
「スイーツ撮ろうとしたのに自分が主役だと信じて疑わない自己肯定の化身…ちょっとときめいちゃった」

「「いただきまーす」」

 ネコミミスタンプやらキラキラペンやらを使って写真の情報量を100倍にするタイプのビューレイストは、もりもり沢山にトッピングされたパンケーキを見て幸せそうに食べ始めた。花畑と共に一眼レフの被写体になりがちな耽美タイプのユミルは、宇治抹茶アイスにウエハースをちんまりのせて目を輝かせて食べ始めた。
 話が途切れた時、ユミルがふと窓の外を見ると『最近のトレンドはフライングホワイトデー!』と書いてあるのぼりが目に入った。

「ホワイトデー?」
「バレンタインで貰ったもののお返しをする日だよ」
「そんな日があるんだ!すごーい!」
「3倍とか10倍にして返すところもあるらしいよ」
「こわーい…」

 何かホワイトデーについて思い出があったはずなんだけどな…?と首を傾げるビューレイスト。まぁいっかと食べ終えてカフェを出た時、大通りの向こうから真っ赤なニワトリが2人の目の前にわさわさ飛んで来た。

「こ、このニワトリは!ヴィ…ヴィゼ……………………焼き鳥!」
「ギャルルゥゥゥギュゥゥグワワ!!!!!!(我が名は神獣ヴィゾフニルだ始まりの巨人!!!愚弄するな!!!!!)」
「うわうるさ!鶏つくねが喋んないでよ」
「あユミルも話通じるんだね」
「仕様かな、ビューレイストも?」
「仕様って…ぼくは変装を極めるために言語関係をちょっと頑張っただけだよ。で、なんで焼き鳥はここにいるの?世界樹の巣に戻りなよ」
「グギャギャギャゲギャ!(ヴィゾフニルだ!神獣用のチョコとやらが美味で買いに来たのだ。だが個数限定らしく買えないと言われたので暴力で勝ち取る所だ)」
「これはどうでしょうか審判のユミル先生」
「完全にアウトですね。ご退場願いますイノセント・マリス!」

 暴力は全てを解決するらしいが、それ以上の暴力には勝てない。慌てて遮蔽物の陰に隠れる焼き鳥だが、生憎ユミルのASは敵全体である。始まりの少年の強力な一撃は、バフもなく弱点属性でもないのに焼き鳥の体力ゲージを全て削り、無残な宝箱へと変えた。ビューレイストの「もしかしてキミ緑グレード?余ってるオーブあげようか?」という発言も心に強力な一撃をお見舞いした。

「さてさて報酬は何かな?メダルチョコ12枚とマナ中瓶1つ?お給料いくら貰ってるの?トウモロコシ現物支給?」
「ホラジャンプして見せてよまだ持ってるんでしょ?ボク暇じゃないんだよ?またASをお見舞してあげようか?不死鳥だからリスポーン無限でしょ?」
「ギギャググギャギャギャギャ(やめろそんな闇の部分を出すな!ホワイトデーイベントに招待されなくなるぞ!)」
「あっ!!!!!!!」

 爆竹や信管を買い込んで詰めていたマイバッグがぼとりとビューレイストの手から滑り落ちた。そうだなんですっかり忘れてたんだよぼくのバカバカ。去年のホワイトデーは大変面白かったのに!兄2人が性格破綻キューピッドちゃんに傷物(語弊)にされて、一世一代の告白もとい砂糖も裸足で逃げ出すような甘いセリフを全世界に配信したのだ。ビューレイストは会場の直前で引き返し事無きを得たが、公開処刑を受けちょっとしょんぼりしている兄たちで3時間は笑ったし、乙女ゲーのような選択肢とテロップ付きの動画で1ヶ月は「ンハハwww」と思い出し笑いをキメるダメージを負った。

 そんなことよりもっと大事なのがコスチュームだ。ホワイトデー初出時はイベントで特効付き新キャラとして実装されたために特に何も無かったが、兄2人みたいなホワイトタキシード、結局ぼくには実装されてないじゃないか!
という話を要約して伝えると、ユミルとヴィゾフニルはふむむと考えた後口を開いた。

「もう厳しいかな?お兄さん達はもう多数出演してるんでしょ?実装するにはもうタイミングなくしちゃったかもよ」
「グギャゲギャ(そもそも孤高神や鴉神、慈神など他にも競争相手は居るでは無いか。現にお前の目の前に居るユミルも候補に十分入るぞ)」
「ゑ?」

 ビューレイストの中のイベント構想がガラガラと音を立てて崩れていく。もしくはシャッターを閉める音。自分より有力な候補がいることに気付いてしまった。知りたくなかった。きっともうこれ以上、傷つくことなどありはしないと分かっている。あの日の悲しみさえ、あの日の苦しみさえ………。とりあえず意志を確認しよう。

「そ、そっか……ちなみにユミルはコスチューム狙うつもり?いやでもホワイトデー今知ったのなら「始まりの少年ユミル立候補しまーーーす!!!」
「ギャギャギャギャギャギャ(ウワッハッハッハッハッハッハッハwwwwwwwwwwwwwww)」

 ライバルが増えた。当然の帰結だ。自分特注の衣装はみんな欲しいに決まっている。ビューレイストは何故か裏切られた気分になった。貴様もしやダークホースか。かくなる上はどちらがコスチュームを得られるか雌雄を決してやる。明日の朝日は拝めないと思え。

「グレードレッドも解放されてないクセに…ぼくと勝負しろ」
「メインストーリーに顔出してから物言いなよ新参者…受けて立つ」

 大爆笑していたヴィゾフニルをノルディシア警備隊に突き出したのちに2人は対峙した。勝負したいところだがどうにも題材が見つからない。緊張感が漂うなかふと場違いに明るいBGMが流れてきた。顔を上げ街頭テレビを見るととある動画が目に入る。

『PUIPUIフィルシーカー』

「「これだ!!!!!!!!!!」」


「というわけでカーレースで決着を付けようということになったんだよ。フギンもぼく達とやろう?君もコスチューム候補の一員なんだからさ(怨嗟の声)」
「誰がするか。俺は忙しい。第一ホワイトデー自体浮かれた人間の催し物だろう?お前達と遊んでいる暇などないんだ」
「そんな…!ボク達との関係はアソビだったのね!!」
「誰よその泥棒猫!裏切り者!」
「所詮ボク達は都合のいい存在だったってコト…まぢ無理…創世皇になろ…」
「なんなんだ全く!それ言いたいだけだろう!本当に今は忙しいんだ!審判くらいはしてやるが……」
「大好き」
「ありがとう」

 そこら辺を飛んでいたフギンをとっ捕まえて言いくるめに成功したや否や、2人の美少年は真冬の青空のような清々しい笑みを浮かべた。
 さてまずは車だ。2人は少年なのでカッコイイ車でレースしたかったが、運転免許証を持っていないので大事故を起こした時に言い逃れできる車体でなければいけなかった。運転技術はマ〇オカートで鍛えたので心配は微塵もないが、車ばかりはどうにもできない。
 敬愛する元主の友人を含む美少年2人に真顔で見上げられたフギンが、どうにでもなれとまじかるぱわぁでフィルシーカーを2台作ってくれた。ちなみに2人を乗せるには繊細なフィルシーちゃんがあまりにも可哀想なので、1/10スケールくらいの外ヅラだけ似せたキッ○ニアのレンタカーである。

 ガチャガチャと車を引いて並べる。身内にはどれだけ迷惑をかけてもいいと考えているビューレイストは、事故を起こした時に責任を擦り付けるためロキに変身した。エンジンをかけハンドルを握り、アクセルに足を掛け審判の号令を待ち………待…………………………………まだなの?

「おい待てここはノルディシアの大通りだぞ連続轢殺事件でも起こすつもりか?そのために変身したのか?先程焼き鳥を撃退した良心はどこへ行ったんだ、少しは他所でやるという発想を持て」

 普段は主以外どうでもいいような言動だが、完璧な従者であるために良識と常識は常にアップデートされている。フギンこそが本日のMVP。オーディン様も手放しでお褒めになるに違いない。

「わかったよ…じゃあボク達はどこでやればいいの?オーディンの館?」
「バッドエンド回収RTAでもしているのか?ヴァルハラはココナッツモールではないから即刻その考えを消せ。ふむ、そうだな、アルフヘイムなんてどうだ?ロキも居るだろうしついでにタイヤ痕を刻んでこい」
「なるほどそうか……弟を差し置いて別バージョンを持つ兄さんを許す訳にはいかないもんね…ありがとうフギン!行ってきます!」

 ナチュラルに審判役から逃れるように誘導したフギンと別れ、2人はアルフヘイムまでユミルのまじかるぱわぁで転移した。木々が鬱蒼と生い茂る中、小さな車2つは並び、フギンに貰った使い捨ての式神(折り鶴)の号砲を待つ。折り鶴からの中継を切ったフギンはひとつ伸びをした。嵐のような少年たちだ。もう関わらんとこ。


 ケーン!と鳴き声。スタートの合図だ。魔力を失った折り鶴が落ちると同時に、スタートダッシュを決めた2人は木々の間を器用にすり抜け、ブヴゥゥゥゥゥンと音を出しながら140km/hで爆走する。法定速度違反からの一発免停。フギンはスピードにリミッターを付け忘れていた。
 獣道を走っていると11時方向に崖が見える。ビューレイストがちらと横を見ると、ユミルと目が合った。何とかしてこのカーブで引き離さないと…!ビューレイストは何故か付けてあった音楽プレイヤーの電源を入れ音楽を流し、爆音で流れ出すD〇javuと共にアクセルを離しハンドルを少しづつ切った。

「か、慣性ドリフト…!」

 隠れた頭○字Dの才能は開花しビューレイストの車体は滑るようにユミルの横をすり抜けていった。負けじとユミルもスターの無敵BGMを爆音で流しドリフトをするが、マ○カーはドリフトにブレーキを少し使うので、豆腐屋の息子と化したビューレイストになかなか追い付けない。だが…そちらがそのドライビングテク路線でいくならこちらだって考えがある。焼き鳥からカツアゲしたメダルチョコを10枚ダッシュボードに置くと速度が上がり、ユミルはビューレイストに並んだ。まだまだ勝負はこれからだ!




 さて場所が変わって、ロキはお気に入りの木の根元でスヤスヤ昼寝をしていた。クレイジーブラコン長兄の襲来も無く、のんびりと過ぎる時間を堪能していた。最近はストーリーに出ずっぱりだったからとても疲れた、この平和がずっと続けばいいのにな。
 ピィィピィィピピピと小鳥が騒がしい。何事?と欠伸をして白魚のようにしなやかな人差し指を空に伸ばすと、示し合わせたように1羽とまった。話を聞いてみるとどうやら森に何か素早いモノが入ってきて競争してるらしい。ハ?人の昼寝の邪魔をするなんて…追い出して二度寝するか、と隠れ家の前のちょっと広い場所に出て…………

「居たぞ兄さんだ!突っ込め!」
「天誅!天誅!」
「ハ????うわ!!!!!!!」

 ドン!!!!と炸裂弾ブーメランが派手に隠れ家を粉砕して末弟と始まりの巨人が登場した。ココナ〇ツモールとnig〇t of fireが合わさってゲーセンみたいに混沌としたBGMが爆音で流れている。突然の訪問に鳩が豆鉄砲を喰らったような顔のロキ目掛けて少年2人はアクセルをベタ踏みした。ロキに当たるその瞬間、2人の車は急ブレーキをかけてスピードをガッと落とした。すかさず木の上に跳び乗って逃走するロキを後目に、運転手達は呆然としていた。

「な、なんで轢けなかったの…?ブレーキは踏んでないよ?車に轢かれる程度じゃ兄さんは傷1つ付かないのに」
「もしかしてフギンがAEBS(自動ブレーキAI)付けてたんじゃ……!!!」

 大正解である。流石にノルディシア連続轢殺未遂を起こそうとした2人に何も枷が無いのは良くないとフギンがオプションとして付けていた。スピード制限は忘れてたのに!だいたい兄さんを轢けって提案したのはキミじゃないか全くもう!とオプションをまじかるぱわぁで外しながらビューレイストはぷんぷんと怒った。単純な運転技術だけでなく兄さんをどちらが轢けるかチャレンジも決着がつかなかった。他の案を考えるついでに追跡しよう。切り替えてエンジンをかけ、2人はロキを追った。


 ロキはひたすらに走った。どこで恨みを買ったか心当たりしかなかったが、過ぎたことを後悔するのは命に代えられない。後ろから追ってくる2人エレクトリカルパレードを振り切るために、勝手にシェルターと呼んでいるヴィーザルの隠れ家を頼ろうとまじかるぱわぁで脚にブーストをかけた。

「ねえ!!!!アンタのとこ!!!!泊めて!!!!!」
「なんだ煩いな…またお前の兄か?」
「や、弟」
「弟!?」

 結界を強引にこじ開けヴィーザルの隠れ家に転がり込んだ。ヴィーザルは不法侵入したロキに眉を顰めたが、焦燥した様子の彼やその理由を聞いて1日くらいは匿ってやるかと考えた。身内に追いかけられる恐怖を誰よりも知っている。いけ好かない男ではあるがこういう点についてはかけがえの無い仲間なので目をつぶろう。ヴィーザルは投擲しようと思ったフォークやスプーンをしまい、芝生に倒れ込むロキにブランケットを放り投げ、少し離れた所でサルと戯れていた。



 一方、何処から取り出したのか分からないユミルの甲羅を受けてビューレイストは転がった。その隙を突いて場所を特定しつつユミルが前に躍り出す。

「兄さんはどこに行ったのかな?」
「待っててボクがちょっとサーチしてみる」
「ヴィーザルのとこかな?」
「探知に引っかからないからそうみたいだね、行こう」

 なるほど場所が分かれば後は追うだけだ!とヴィーザルの森付近までかっ飛ばす。といっても中まで入った事がないため結界がある位置はボンヤリとしか分からないので、2人はまじかるぱわぁを纏い手当り次第に突っ込んだ。
    適当に探しても存在するならいつかは見つかるもので、140km/hの車体2台の衝撃とまじかるぱわぁを受けた結界はサヨナラバイバイ粉微塵になってしまった。すると異変を察知したここら一帯の主が向こうからやって来た。

「貴様らがヤツの追っ手か?は?ロキ……???何故そこに?いや待て結界!!!」
「いたよ!ホワイトデーコスチューム最有力候補だ!」
「ハ??????」
「ぼくのバンパーの餌食にしてあげる!!!」
「え、は、?ぼく?????くっ!!!」

 ヴィーザルは突撃して来た車をオリンピックで金メダルを取れそうな程華麗なバク宙で躱し、「ロキ!!!」と叫んだ。直後、ギャギャギャと金属の悲鳴をあげマウンテンバイク2台で突撃して来たロキが、ヴィーザルの服の背中を掴み遠くに放り投げた。瞬時にビューレイストの変身とロキの思惑を理解したヴィーザルは、一緒に投げ飛ばされたもう1台のマウンテンバイクに乗るついで、友人のサルから押し付けられたバナナの皮を少年2人に目掛けて投げた。          
 クルクルとその場でスピンする車から逃れようと、青年2人はマウンテンバイクを141km/hで漕いだ。リミットバースト ツール・ド・アルフヘイム。味方全員にみかわし100%と闘化×5ターン。火事場の馬鹿力である。

「マズイ、このままだとアルフヘイムが破壊される!うちの長兄に匿ってもらうくらいしか今は手がない」
「良いのか?拉致監禁END一直線になるぞ」
「マナの中瓶とスピチケとオーブの欠片を落としてダウンするよりはマシだ!それにあっちにはユミルがいる。3人共消耗して平和が戻ってくる可能性に賭けたい」
「そうか、ではそうしよう」





 今日はヘルブリンディにとって最高に素晴らしい日だ。ツンツンツンデレなロキが自分から友人を連れて家に来てくれた上、近くにビューレイストの気配もする。ビューレイストは照れているのだろうか、入ろうとする気配は無い。ならば迎えに行こうか。いつか3人で幸せに暮らすことを夢見ているヘルブリンディにとって千載一遇のチャンス、逃すわけにはいかない。ルンルン気分で死んだ目のロキをお姫様抱っこして家を増築するヘルブリンディを見ながら、ヴィーザルは冷や汗をかいてロキを連れて来たお礼にと出された高級そうな茶菓子をもそもそ食べていた。緊張で味がまったくしない。先程仲間などと思っていたのが全くの嘘みたいだ。本当に他の手はなかったのか?ああもう家に帰りたい。



「ロキ兄さんがヘルブリンディ兄さんの所に入った!?」
「苦肉の策だろうけど、最善ではあるよね。ボクは潰しあいを期待されてると思うけれど。どうする?突撃する?」
「そうだね!ヘルブリンディ兄さんは轢けないだろうけど、ロキ兄さんは助けるよ。この間監禁ENDから助けてもらったし。潰し合いとは言うけれど、計画立てるタイプのヘルブリンディ兄さんはぼくの初見殺しに対応できないはず。やっちゃえ」

 やっちゃえと言った瞬間、2人は車にまじかるぱわぁでブーストをかけ、一直線にヘルブリンディの家に向かってすっ飛んでいった。
    家の前で立っていたヘルブリンディは変身している末弟の姿を見るやいなや両手を広げ、捕まえようとまじかるぱわぁを放った。

「クッ!」
「強いね?弟のことになると全ステ10倍になるのかな?これは手がかかりそうだよ…!」

始まりの少年の方が魔力は強いが、溢れる愛で増強されたヘルブリンディを抑えるには最近新たに追加した拘束具の指輪を外す必要があるかもしれない。オーディンから貰ったものだからできれば外したくない……とユミルはビューレイストに視線を送った。視線に気づいたビューレイストはユミルにフッと口角を上げ、兄の懐に潜り込んだ。予想外の行動で一瞬固まった兄が戻る前に変身を解除し、真っ赤な包みを押しつけ、反動で距離をとった。

「ハッピーバレンタイン!コスチューム持ちの兄さんにぼくからのチョコだよ!」
「何だって!!!!!チョコ!?!?!?」

 ドカンと1発初見殺し爆竹が炸裂した。今はまだチョコ作ってないから付属品だけ!後でね♡とヘルブリンディの傍らをすり抜けざまにビューレイストがウインクを贈る。そのまま炸裂弾ブーメランで壁を破壊し、長兄を破砕物と硝煙で撒きつつ次兄と腐れ縁を轢きボンネットに乗り上げさせ、200km/hでまんまと逃げ果せた。アクション映画の最後のワンシーンのように長兄の家が爆発するのを見ていた4人は、それまでのバトルも忘れて笑いあった。いつの間に忘れ去られたカーレースは、4人の仲直りと審判の不在で引き分けとなった。

 


 後日、ユミルからのチョコを内心でウキウキして開けたオーディンとフリームスルスは、愛のメッセージと自分の顔の花火で何とも言えない微妙な顔をした。見てしまったフギンはストレス性の胃痛を発症した。
 結界が5倍にアップグレードされたヴィーザルの森で、ビューレイストから贈られてきたチョコを開け爆竹の犠牲になったロキは心労が祟り気絶した。憐れんだヴィーザルは枕元にチョコを置いて手を合わせた。薄れゆく意識の中ロキはオレは人が巻き込まれるのを見たいだけで自分が巻き込まれるのは嫌なんだよ、と涙を零した。


おしまい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?