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卒業、ありがとう

 昨日の、時計の心拍数を見たら、160分も運動したことになっている。そんなわけあるかい。

 でも、自分の体全部が心臓になったんじゃないかってくらいどきどきしていた。そう、昨日は卒業式。



 会場に着いて、代表で何かの動きをする子と一緒に中へ入った。席に座って、その練習が終わるのを待った。結構長いように感じた。

 1回やってみて、返事はできなかった。でも、担任は全くそのことに触れないし、「返事できると思ってるだけでいい」って言ってくれていたのに、最後は私に意識させないようにしているみたいだった。

 そして、全体練習が始まって、全員が動きを確認する時間になった。名前も呼ばれる。ここで初めて、階段下にいる進路の先生と、私と、担任の連携をしてみた。先生どうしでは何回か練習したみたいで、私も担任とは練習したので、初めて合わせた感じはしなかった。

 進路の先生がサインを出したら、私が担任の方を向いて、担任がうなずいたら私が前に向き直したのを確認して名前が呼ばれる。

 何も考えていなかった。考えられなかった。ただ、その連携に集中していた。1人でも、何度も訓練していて、息を吸うところとかを決めていたのに、それも忘れた。でも、いつの間にか息を吸っていて、それを吐くのと同時に、私は返事した。

 ちょっとかっこ悪い感じの返事にはなったけど、証書を受け取って、階段を降りた。どこを通って席に帰るかも、ちゃんと確認する。

 ほぼ勢いでできてしまったので、本番が心配にはなったけど、いろんな先生が「できたやん!見てたよ。ばっちり!」と言ってくれて、緊張もあって笑うしかなかった。緊張するとなぜか笑顔になってしまう。でも、最後の中ボスはクリアした。それがいちばんの自信になった。

 本番が始まる前に、昔の先生たちの名前が来賓席の机に貼ってあることに気づいた。まじかよ。高専の担任なんか、議員さんの隣にある。しかもみんな壇上。私がいちばんびっくりしたと思う。だって、来賓8人中3人が私の関係者なんだもん。すごいな。愛されてます。

 席に置いてあった封筒に、高専の倫理の先生からと、中学校の理科の先生からのメッセージが入っていた。2人には私が学校から手紙を送っていたので、学校を通して返ってきたというわけ。久しぶりに文字から気配を感じて、嬉しかった。

 とりあえず、そうこうしていたら式が始まった。一同、礼をしたらいきなり証書授与。中学校の先生たちはいたけど、まだ高専の担任はいなかった。私は最後の方に呼ばれるので、それまで体全部が心臓になったみたいなままだった。できるかな。

 待機列で並んでいるときには、もう覚悟は決まっていたみたいで、すぐに私は階段を上っていた。前を向く。進路の先生だけを見ていた。サインが出る。担任の方を向く。担任がうなずく。前に向き直す。名前が呼ばれる。

「はいっ!!」

 物理的にも、精神的にも、これはいきなり呼ばれる名前じゃなかった。何度も練習して、信頼を確かめるために、先生と私の間に私の名前があった。自分がどういう声を出したのかは全く覚えていないけど、大きい声が出た自覚はある。できたんだ。すごいよ。やったぜ。

 来賓紹介で、いつの間にか座っていた高専の担任とか、中学校の先生2人は「おめでとうございます。」とちゃんと議員さんに負けずに言っていた。さすがです。

 気づいたら、一同、礼をして、式が終わっていた。担任たちからのありがたいお言葉を聞いて、解散!となったんだけど、私の担任は舞台袖から出てきていちばんに私の方に歩いてきた。寄り道もせず、一直線に。「よかったよ。卒業おめでとう。頑張るんやで。」と言われた。寂しくて素直にうなずけなかったけど、きっとそれも伝わってる。一緒に写真を撮った。

 高専では、話せる友達はできなかったけど、高校では2人できた。実行委員の男子2人。一眼のカメラで写真を撮ってもらって、「じゃあな」という感じで私はホールを出た。来賓の方々に会うために。

 そもそも学校の種類も違うので、中学校の先生2人と高専の先生はほぼ会ったことがない。大好きと大好きが融合して、どうなるんだろうとずっと楽しみにしていた。笑顔がこぼれる。先生たちのところに近づくと、早々「めっちゃ笑顔やん。」「私もこんなに笑顔なところ見たことないですよ。」「そうですよね!私もです」と聞こえてきて、夢の中にいるのかなと思った。中3の担任に、「返事できたやん」と言われた。にこにこうなずく。思い出しても笑顔になる。そこは私を理解してくれている人しかいない場所、居場所だった。全員に、「来賓席なんやったら先に言ってや。知らんかったんやけど。」と言われた。いや、私も知らんかったんですよ。

 高専の担任が「写真撮ってもらっていいですか、報告したい人がたくさんいるので」と父に携帯を渡して、中学校の先生たちは写らないように少し離れたけど、「先生もどうぞ!」と高専の担任が言うから、4人で写った。ここに載せたいくらい幸せな写真。この先生たちが集まることはもうないだろうな。中学校の先生2人から花束をもらって、最後まで一言も出てこなかったけど、私の姿と笑顔で気持ちは伝わっていた。忙しなかったし、舞い上がっていたので、高専の担任に書いた手紙を持って行っていたのに、渡し忘れていたことに、あとで気づいた。自分のばか!と思いながら、宛先を書いてポストに入れた。

 私の先生たちは先にさっさと帰ってしまったけど、私が帰るまで、高校の担任たちのうち、ほとんどの先生から「卒業おめでとう。返事聞こえたよ。かっこよかった。」と言ってもらった。あまり何も言えなかったから、笑顔でありがとうを表現した。伝わっているといい。

 会場を出て、先輩と待ち合わせしたところに向かった。大きい荷物と一緒に先輩は座っていて、その荷物は私のためのものだった。花束とプレゼント。誕生日の分も一緒にだって。返事できたと伝えたら、「私もその場におりたかったわ」と言っていた。臨場感溢れる文章で書くようにしたから、この文章でそこにいた気になってください。

 この3年間、自分の気持ちを伝える方法を模索して、直球の言葉だけじゃない表現を見つけて、信じすぎはよくないけど、分かってくれる人は分かってくれると信じてきた。しんどかったら人を頼っていい。何も怖がることはない。寂しいけど、まだ味方でいてくれる人はたくさんいる。理不尽なことも、素直に受け入れられないことも、なんとか折り合いをつけて乗り越えてきた。だから。



 卒業、ありがとう。

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