雑貨商人トット・バリー

"ドナ砂漠を越えた先にある大国キンジャまで、来る戦争に備えて製造した武器を輸送されたし。なお、遠洋の島にて秘密裏に製造したモノゆえ、引き渡し時まで輸送貨物の内容物は『決して』第三者に知られぬこと。"

不道徳の世界において武器商人ナヘルム・カリンの名はいついかなる時も戦火に照らされ、足もつかぬ血の海と、目も利かぬ硝煙の霧の中でも決して霞むことは無かった。
受け渡しに寸日の狂いもなく。如何なる悪路でも荷車からは火薬のひと匙さえ散らさず。
武器を求むる声あらば、諸国に戦の影あらば、例え世界の裏側にでも武器を売りに行く女商人。世界が球の形をしていると解き明かされる前の話である。

経歴の一切は不明。包帯で覆った面貌と、その評判だけが独り歩きをしていた。

今回は『クライアントがよそで密造した武器の輸送』というやや本業を外した仕事であったが、ブツの運搬能力と徹底した仕事人気質であることを買われ、数多のイリーガルな仕事をこなしてきた彼女をしてもなお、法外と判断しうるインセンティブを呈示されたことが重なり、この度キンジャよりの使いからの依頼を承諾した。

自分に関する情報を可能な限り秘匿することを旨とするカリンにとって"物品の秘匿"など当然至極であり、指図されるまでも無かった。
『誰が見ても"自分には興味がない品を扱う商人"』を装い、目的地まで誰からも声をかけられずに踏破することもできる。
彼女は自分がこのビジネスを普段通りにこなし、普段以上の報酬を得る未来を確信していた。
……していた、のだ。


「武器商人の方ですよね。ボクと一緒にキャラバンを組んでくれませんか?」


出発して五日目の彼誰時。
苔ラクダと蔦アルパカに荷車を引かせている少年が、砂漠のど真ん中で包帯のほどけた素顔をあらわにして寝こけていたカリンの顔を覗き込みながらそう言った。

「ボクは銃を撃つと反動に負けて、全身が痺れしまうので代わりに護衛してほしいです!」

【続く】


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