聖護院マンドレイク

「それはさあ、お喋りなデブのあだ名とかじゃないの」

私がふと話の流れで『聖護院マンドレイクって知ってる?』と訊ねると、ヨシダくんは間をおかずそう返した。
どうやら物事をつまらなく解釈するということに対して彼は比類なき天才であり、並々ならぬ情熱を注いでいるようだった。
今日に限らず彼はこれまでの対話においても、話を振った際の第一声が『あっそ』『ふーん』『どうでもいいや』が殆どを占めていた。
彼は“世はつまらなくありき”を信条に定めているのだろう。そうとしか考えられない。でなければ、彼は何に対しても自然とつまらないように解釈するという悲惨すぎる思考ルーチンを備えていることになり、そんな人間が毎日大学に来て講義を受けるわけがない。
あくまでもヨシダくんには“何事もつまらないように解釈しよう”という積極性があるはずなのだ。
そうでなければ彼があまりにもかわいそうだが、よく考えたら仮にそうだとしても彼はあまりにもかわいそうだった。

私がヨシダくんに提示した聖護院マンドレイクという単語は、京野菜で有名なあの『聖護院大根』の蕪めいて丸いその特徴をマンドレイクという実在するナス科の植物と同名の怪奇植物に当てはめたものと解釈できよう。人によってはまんまるでラブリーな、ファニーに擬人化された大根のマスコットを思い描くだろうか。
もっとも、聖護院マンドレイクという頓珍な単語も彼の脳内では人間に向ける蔑称でしかないらしいが。
さて聖護院マンドレイクの解釈だが、今言ったような“聖護院大根のように丸い人型植物”という解釈で間違いないらしい。
…何せ。

「『見た』って人がいるんだよ」

スマホから目を離さないヨシダくんにそう告げても、ヨシダくんは「へー」と返すばかりだった。

「もっと言うとさあ…そいつ、“見た”だけじゃないんだよ」

「“食べた”んだって。マンドレイクを」

彼のスマホを触る指が、ぴたりと止まった。

「…出してる店で、さあ」

【続く】

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