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活動其者が実在である

さっきまでオンライン読書会で西田幾多郎の『善の研究』を読んでいた。

宇宙の現象はいかに些細な者であっても、決して偶然に起り前後に全く何らの関係をもたぬものはない。必ず起るべき理由を具して起るのである。我らはこれを偶然と見るのは単に知識の不足より来るのである。

善の研究/第2編 第5章 真実在の根本的方式 96p より

朝8時過ぎ。妻は仕事に出かけた。わずかな洗濯物を干してから妻が出勤のために車を出して開け放たれたままになっている車庫のシャッターを下ろしに行く。車庫のシャッターを下ろしたら朝の僕の仕事はすべて終わった。

今日はいい天気だ。裏庭の草引きでもするか。庭仕事用のジーンズに履き替え上着も庭仕事用のジャンパーに。ゴム手袋をはめ帽子をかぶったら準備完了だ。草引き用の小さな鍬を右手に裏庭に出る。2週間ほど前に庭掃除をしたばかりだから荒れてはいない。それでも春先の雑草はどんどん生えてくる。目を凝らせば結構ある。土のうえにひざまずき草引きに取りかかる。

小一時間ほどして休憩。昼御飯は何にしようかと考える。たしか夕べのお好み焼きの残りがあったはず。レンジで温めるだけだ。それでいい。

昼飯を一人でというのも何だ。いま流行のZOOMで誰かを誘ってみよう。オンラインで昼御飯を一緒に。誰か来るかな。

「お昼御飯を一緒にしませんか。もちろんオンラインZOOMです。12時少し前から1時ぐらいまでです。接続アドレスはメッセージください。お知らせします。」

Facebookに投稿したのは11時を過ぎていた。さて誰が来るか楽しみだ。しかし今日は水曜日だぞ。いくら在宅とかが増えたからといってこんな暇人に付き合ってくれる人間がいるのか。しかも1時間足らず前の案内で。

とにかく投稿したんだから準備だけはしておこう。

裏庭の真ん中あたりにアウトドア用のテーブルと椅子を運ぶ。スマホとノートパソコンの2台でZOOM接続の準備もする。楽しみだな。

それから昼御飯の用意だ。冷蔵庫から夕べのお好み焼きの残りを取り出す。他に何かないかな。そうだ。昨日はじめて買ってみた冷凍食品の「極上ヒレかつ」。あれだ。食べてみよう。

冷凍庫から「極上ヒレかつ」を探す。4個入りだ。多い。今日は2個あれば十分だ。説明には2個の場合は500ワットで2分と書いてある。わかった。

お好み焼きもレンジで温めねばならん。「極上ヒレかつ」とお好み焼き、どっちを先に温めるかな。悩む。よし。ここはヒレかつが先だ。お好み焼きは冷めるとまずい。冷めてもまだ我慢できるのはヒレかつの方だ。

そうと決まったら急ごう。ヒレかつをレンジにセットする。手動ボタンを押してレンジを設定する。500ワットで2分。スタートボタンを押すとレンジが指示通り動き出した。その間にお盆とお箸をセットして。それから少し早いかも知れないけど茶碗に御飯をつぐ。

ヒレかつが温まったら、次はお好み焼きだ。ラップのかかったお好み焼きをレンジにセットして、あたためのボタンを押す。レンジは指示通り動き出す。お好み焼きがレンジにいる間に、ヒレかつにソースをかける。適当なところでレンジからお好み焼きを取り出し皿にうつす。御飯、ヒレかつ、お好み焼き、それに箸を盆にのせて裏庭に運ぶ。

時計を見たら11時50分だった。12時までまだ時間がある。少し手際よくやり過ぎたか。しかしせっかく温めたのに冷めてしまうのは勿体ない。もう12時までは待てない。食べることにしよう。この時間になっても誰も連絡がないということは、誰も来ないということだろう。来たら来たときのことだ。

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裏庭の真ん中、強い陽射しのなかで僕はひとり昼御飯を食べた。食べ終わって時計を見たら12時5分だった。1時まで、まだ55分もある。

誰か来るかな。少しだけ期待して待つ。

結局、誰も来なかった。予想通りの展開。やっぱりだ。でもこれはこれでおもしろかった。負け惜しみでなくそうだ。1時。裏庭の真ん中に出したテーブルと椅子を片付ける。

午後からはかねてから気になっていた物置を片づけた。山のようになっていた段ボールの空箱を整理し捨てた。

夕方5時過ぎには妻が帰って来る。それまでにと急いでカレーをつくった。今夜はカレーだ。5時までにカレーの目処が立ったので庭先の花たちに水をやることにした。水やりが終わるころ、車庫のシャッターが開く音がした。妻が帰って来た。

普通には何かの活動の主があって、これより活動が起るものと考える居る。しかし直接経験より見れば活動其者が実在である。この主たる物というは抽象的概念である。我々は統一とその内容との対立を互に独立の実在であるかの様に思うから斯の如き考を生ずるのである。

善の研究/第2編 第5章 真実在の根本的方式 96p より

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