ショートショート(14話目)レジの行列

レジが進まない。

僕は苛立っていた。


僕は3日に1回ほどのペースで自宅近くのコンビニへ買い物にいく。

いつもはこんなにレジに行列はできないのに、今日に限って行列がすごい。

理由は分かっている。


まず、理由の一つ目は、いまがゴールデンウイークということだ。

僕は観光地といわれるところに住んでいる。

観光地のコンビニは連休になると大変な賑わいを見せる。

普段はがら空きの、このコンビニの駐車場もいまは満車だ。

しかし、レジが行列になっている理由はそれだけではない。


理由の二つ目は、なぜかコンビニの店員が一人しかいないということだ。

通常、ゴールデンウイークのような書き入れ時は人員を増やすのがセオリーだ。

レジ打ちが2人になれば、レジの処理速度も2倍になるため、行列も半分になる。

このコンビニは普段でも店員が2人はいる。

それなのに、なぜ今日に限って一人なのだ。

考えられる理由としては、スタッフが風邪をひいたか、ゴールデンウイークなのでシフトを入れなかったかどちらかだ。


そして三つ目の理由は、客の大量買いだ。

お昼どきに家族の昼食を買っているのは分かるが、かご一杯に弁当やパスタやドリアをいれている。

そのため、1人に対するレジ打ちの時間が長いのだ。

当然、レンジでの温めもする。

弁当は温めない人もいるだろうが、パスタやドリアはこの状況なら99%の人が温めるだろう。


そして最後の理由は、お客の現金払いだ。

僕は現金払いしかしない人に激しい不信感を抱いている。

考えてもみてほしい。

いまやスマホをかざすだけで会計が済む時代だ。

簡単なアプリの初期設定をするだけで、現金を財布から払う手間と受け取る手間を省けるというのに、なぜ殆どの人がいまだに現金払いなのだ。

いや、現金払いはまだ許すとして、なぜ合計金額を提示されてから財布を開ける?

もはや嫌がらせとしか思えない。


(10分後)

長い長い時間を経て、ようやく僕のレジの順番がきた。

僕は地域の指定ゴミ袋を三つ、店員に差し出した。

店員は手早くバーコードを読み込み「450円になります」と言った。

「スイカで支払いをお願いします」


スイカ。

ありとあらゆる決済を一瞬で完了させてしまう電子マネー。

半年ほど前にスイカのアプリを導入してから、僕の買い物時間は飛躍的に短縮された。

これを使い始めてから、現金というものを全く使わなくなった。

『すべての人がスイカを導入すればレジ行列などなくなるのに』と、僕は思っている。



「あの、地域の指定ゴミ袋は現金決済しかできないのですが。」

店員から信じられない言葉が飛び出した。

「え?なんでですか?」

「あの、このゴミ袋は行政が委託して作成しているものなので、現金でのお支払いしかできないんです。」


信じられなかった。

僕はコンビニの店員に激昂した。


「なあ、おかしくないか?


新型コロナウイルスによって、緊急事態宣言などといって人の流れを止めようとしている行政が、もっとも人の手に触れるであろう現金でしかゴミ袋を売らないなんて。


感染症対策をするのであれば、まず行うべきはキャッシュレス決済の推進のはずだろう。


キャッシュレス決済の手数料はせいぜい3%ちょっとだ。

その3%が惜しいというのであれば、このゴミ袋の価格を3%値上げすればいいだけだ。

1個150円のゴミ袋が154円になったところで市民から苦情はでないだろう。


だいたい、ガス料金や電気料金などの公共料金も、現金でしか支払えないのもおかしい。

行政がそんな体制だから、日本は電子マネー後進国だと諸外国から笑われているんだ。

韓国では96%以上の人がキャッシュレス決済を導入しているんだぞ。

日本はいまだに20%程度だ。

いったい、日本人は何を考えているんだ。


そもそも、行政が指定したゴミ袋しか回収しませんというシステム自体がおかしいだろう。

だれがそんな法律を作ったんだ。

昔は普通のゴミ袋でも回収してくれていたじゃないか。


僕は毎年毎年、市民税を収めている。

この街にどれだけ貢献したと思っているんだ。

それなのに、こんな仕打ちを受けるなんて思わなかったよ。


とにかく、僕はいま現金をもっていない。

財布は自宅に置いてきた。

だけど、絶対にいまゴミ袋が必要だ。

だから、売ってくれ!」



「そういわれても、無理なもんは無理なんです。それに…」

コンビニの店員はちらりと僕の後ろをみた。


僕の後ろには信じられないくらいの行列ができていた。

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