ショートショート(13話目)迷路の監獄
最初に目に飛び込んだのは藍色(あいいろ)の空だった。
入所初日の朝は暑かった。
ここは迷路の監獄だ。
〜〜〜
僕は殺人を犯した。
2年前、不景気で職を失い、お金がなくなって空き巣に入って物色をしているところにその家の住人が帰ってきた。
警察に捕まることを恐れた僕は、住人の首を絞めた。
殺す気はなかった。
だけど、殺してしまった。
強盗致死罪は死刑か無期懲役の2択だ。
僕は無期懲役となり、この監獄に入れられた。
通称、迷路の監獄。
迷路の監獄は5年前に完成した。
刑務所に一人収容するのにかかる費用は年間で300万円を超え、その費用の全ては税金で賄われている。
「国民の税金をなぜ犯罪者に使わなくてはいけないのか?」という意見から、この迷路の監獄はできた。
迷路の監獄に看守はいない。
あるのは『スポット』と言われる50m×50mのジャガイモ畑と、その周りを覆い囲む巨大な迷路だけだ。
スポットは監獄の中に26個あり、名称としてA〜Zがつけられている。
僕はスポットBで目を覚ました。
ここで、僕は一生を過ごすことになる。
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入所してから1か月が経った頃だ。
この監獄には出口があるという噂を聞いた。
迷路なのだから出口があってもおかしくはないが、僕らのような無期懲役の刑を受けた囚人が脱獄することなんて国が許すのだろうか。
僕は脱獄のために情報を集めることにした。
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脱獄に関する情報はすぐに集まった。
過去に脱獄を企てたものは、ほとんどが消息をたったそうだ。
唯一、帰還してきた囚人によれば、脱獄するために食料のあるスポットを離れて歩き続けたが、3日歩いても出口がみつからず、命からがらスポットに戻ってきたそうだ。
消息を立った囚人は、脱獄できたのか、それとも迷路のなかで死んだのか。
真実は闇の中だ。
僕は脱獄するかどうかを考えた。
スポットでの生活は退屈だったが、嫌いではなかった。
何にも縛られず、ここではゆっくりと時間が流れる。
あくせく働いていた時が馬鹿みたいに思えた。
〜〜〜
僕が脱獄することを決めたのは、入所から3年ほどが経過した頃だった。
同じような毎日に飽きたのが脱獄を決めた理由だった。
迷路のなかで迷ったら一貫の終わりだが、不思議と恐怖はなかった。
僕は同じスポットで暮らしていた囚人に挨拶をして、迷路へと向かった。
〜〜〜
1日目。
歩き続けていたら、日が暮れた。
たぶん、今日だけで12時間以上は歩いただろう。
当たり前だけど、迷路の中に食料はない。
迷路のなかで就寝。
星が綺麗な夜だった。
〜〜〜
2日目。
朝起きたら、足が棒のようになっていた。
スポットに帰ろうかなという考えが、早くも頭をよぎる。
この日は足が痛くて、思うように歩けなかった。
お腹もへったし、水も飲んでいないので、喉もカラカラだった。
スポットでの生活が恋しい。
〜〜〜
3日目。
昼から雨が降った。
めぐみの雨だ。
僕は雨水を飲んだ。
乾いた身体に水分が染み込む。
次に雨が降るのはいつだろう。
〜〜〜
4日目。
信じられないものを目にした。
囚人の死体だ。
腐敗してハエがたかっていた。
迷路を抜けられなければ死ぬ。
頭ではわかっていたけれど、実際に死体を目の前にして恐怖心は高まった。
死にたくない。
そんなことを考えながら、歩き続けた。
〜〜〜
5日目。
スポットを離れたことを激しく後悔しはじめた。
もう、後戻りもできない。
僕は迷路の中で死ぬのだろうか。
スポットで過ごした日々が懐かしく感じる。
迷路のなかにはたまに虫がいて、それを食べて飢えを凌いだ。
しかし、いつまでも持たない。
なんてかして、出口を探さねば。
〜〜〜
6日目。
太陽が照りつける暑い日だった。
この日、2体目の遺体を見た。
僕は遺体の前で手を合わせた。
僕が死んだら、天国にいけるのだろうか。
いや、人を殺したんだから、きっと地獄か。
そんなことを思った。
〜〜〜
7日目
身体は限界を迎えていた。
意識は朦朧(もうろう)としていて、目が回る。
このまま死ぬのだろうか。
地面にうつ伏せになり眠っていたら雨が降ってきた。
雨水を飲んで、また少しだけ身体が動くようになった。
僕は、身体の動く限り歩き続けた。
〜〜〜
8日目。
僕は夜通し歩き続けた。
すると迷路の先にひらけたスペースが見えた。
ついに、迷路をでられる。
ようやく、自由になれる。
自由になれるんだ。
〜〜〜
命からがら、行き着いた先にあったのはジャガイモ畑だった。
ジャガイモ畑にいる囚人に、ここはどこかと聴いたら「スクエアA」だと言った。
スクエアの先には何があるんだろう。
僕は腰を下ろして、ジャガイモを食べた。
いままで食べた中で、一番美味しいジャガイモだった。
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原作:清水裕也
絵:川本菜々
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