ショートショート(45話)日本の未来

20xx年

深刻な少子高齢化を迎えた我が国では、今後どのように国を再建していくかの会議が行われていた。



「さて、本日は我が国の少子高齢化について議論していきたい。若い世代が少なくなり、高齢者の人口が増えていることによって様々な問題が起きている。そこを解決するためにどうするかを議論しよう」

議長がいうと、そのほかの議員が話しはじめた。

「私は、少子よりも高齢化が進んでいることが大きな問題だと思っています。最も大きな問題は年金問題です。年金の支給額は年々増え続けているというのに、それを支える若い世代が少なくなっています。若い世代の人たちで年金の支払いを拒んでいる人も増えてきました」

「年金を払わないなんて、いまの若い世代はどうかしてるぞ。我々世代は年金を払うのは当たり前だった」

「お言葉ですが、それは年寄り世代の考え方です。いまの若い人たちは、年金を支払った額より貰える額のほうが圧倒的に少ないんです。だから、支払わないほうが本人からしたらお得なんです。誰が好き好んで原本割れが確定している投資商品を買うというのでしょうか」

「だからといって、仮に若い世代全員が年金支払いを拒んだら、年寄り全員が生活できなくなるぞ。若い世代にはなんとしてでも年金を払ってもらわなくては困る」

「そんな押しつけは通らない世の中になってきてます。若い世代は年寄りを延命させるために生きているわけではないのです」

「では、年金の財源確保はどうする気だ。」

「そうですねぇ。理想としては、いまの若い世代に酒やタバコなど、税率が高いものを購入してもらい、身体を壊して年金受給前に亡くなってもらうというのがいいんですがね」

「おいおい。とんでもない考えだな」

「ええ。とんでもない考えだというのは重々承知しています。ただ、考えても見てください。若い世代が、車も持たず、酒もタバコもやらず、みな100歳まで生きたとしましょう。それこそ、我が国は破綻します」

「まあ、それはそうだが」

「タバコの税金をあげてからというもの、タバコを消費する人は格段に減りました。その上、受動喫煙防止のため、いまはどこに行ってもタバコを吸えなくなりました。また、タバコを吸わないことにより、以前よりも格段に長生きをするお年寄りが増えました。それなのに、お年寄りはお金を消費することが少ないから経済も回らない。悪循環ですよ」

「タバコの税率をあげたことであんなに喫煙者が減るとは思わなかったからな」

「ええ。金銭的に辞めることを余儀なくされた人は沢山いるでしょう。それに、タバコ税をあれだけ納めているにも関わらず肩身が狭い思いをするのも嫌なのではないかとおもいます」

「確かに財源を一時的に増やすためだけに安易に増税をしたのは失策ではあった。まさか、そのせいで長生きする人が増え、年金問題まで逼迫するとは予想もしなかった」

「だからといって今更昔のようにどこでもタバコを吸えるようにはできません。なぜなら、この100年で喫煙者の方が圧倒的にマイノリティになったからです。そんなことをマニュフェストに掲げたら、我が党の支持率は一瞬で落ちるでしょう」

「では、どうする気だ。君は現状の問題がどうして起きてるかを述べているだけだ。解決策をいいなさい」

「はい。解決策は、尊厳死です」

「なんだと」

「今のお年寄りに尊厳死の権利を与えるんです。年金受給がはじまる60歳から5年おきに。つまり、60歳を過ぎたお年寄りは5年おきに自らで命を断つ権利を得ることができる。尊厳死を選んだ年齢によって、遺族には金銭を残すことができる。60歳であれば1500万円、65歳ならば1000万円、70歳ならば500万円という具合にです」

「ちょっと待て。尊厳死のシステムを導入するなんて、我が国の法律が許すわけがないぞ。それに、いままで長く国のために働いてきた者に対して、仕事を辞めたら死んでもいいですよなんて、倫理的にまずいだろう」

「倫理的にまずいのは承知のうえです。こうすることによって年金の支出を抑えることができます。さらに、尊厳死を選んだ人には相続税がかからないようにするというのがいいでしょう」

「そんな法案が通るわけないぞ」

「では、これからどうやって年金問題を解決していくおつもりですか。もう年金システムの破綻は時間の問題です。破綻が見えてくれば、若い世代の方は年金を払わないという人も増えてくるでしょう。そうなれば、もう手の施しようがない」

「うーむ。仕方ない。その案で実際にやってみよう」


ー翌年の会議ー

「さて、本日は尊厳死導入後の状況について議論する。状況としては、この1年で尊厳死を選んだのは13321名で、その大半が余命の少ない末期がん患者で、健康なお年寄りでこの制度を適用したのはわずかに8名だった」

「ふむ。人間の生存意欲の高さが伺えた結果になりましたね。」

「末期がん患者であれば余命は少ないのだから、そもそも残された寿命内での年金支給金額は少なかった。我々は本来かからなかったお金を国民にプレゼントしてしまったようなものだ。」

「そうですね。この政策はあくまで健康体の人が尊厳死を選んだ場合にのみ、年金の負担額が少なくなる仕組みでしたので、もともと受給年数が少なくなる見込みの人が適用されたらむしろ赤字です。残念ですが、この制度は今年から撤廃しましょう」

「で、どうする。更に状況は厳しくなってきたが。」

「尊厳死を選ぶにあたり、健康であることの証明が必要、、、、としたいところですが、健康なお年寄りは尊厳死を選ばないことも証明されてしまいましたし、これは参りましたな」

「参りましたな、じゃないよ。ほかになにか良い案はないのか?」

「長生き税を導入しましょう。85歳を超えた場合、年間10万円ずつ年金から棒引きするというシステムはいかがでしょうか」

「結局、年金受給額を減らすということか。まあ、85歳を過ぎていればそれほどお金を使うこともないだろうとは思うが、年間10万円は少しやりすぎな気がするけどな」

「まあ、大丈夫でしょう。月8000円程度なら反論も少ないはずです」

「では、それでいきましょう」



ー翌年の会議ー


「昨年の長生き税の導入ですが、国民からそれほどの反論もなく進んでおります」

「それで、どのくらいの支出をカットできましたか?」

「85歳以上人口が現在我が国では1300万人いたので、年間で1兆3000億円ほどの支出をカットできた」

「素晴らしいですね。では第二弾として、今年は税額を2倍にあげましょう」

「いきなり2倍ですか。流石にやり過ぎではないですか?」

「なにをいっているんですか。我が国の年金問題は深刻化しています。早く手を打たないと大変なことになります」

「むう。わかった。」


ー翌年ー

「さて、いまから会議を始める。昨年、自民党が長生き税の税率を2倍にしたことで、お年寄りの支持を得られず、わが民主党が政権を得ることができた。われわれは選挙権の大半を占める高齢者の支持を得続けるための案をだしていこう」



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