見出し画像

THE LAST EMPEROR

2023.6.1

⚠️映画「ラストエンペラー」の内容について言及しています。

大好きな映画が黄金町のジャック&ベティで上映中だと知って、飛ぶように会社を後にして、ついに観に行った。

一度DVDで観て心を奪われてから、配信で観るわけでもなくただまた観たいと常日頃思い続けていたけど、やっと機会を掴んだ。

前から行ってみたいと思っていた映画館だったのもうれしい。京急に乗って、慣れない駅に降りる。
映画館の近くのパン屋さんで、閉店間際にコッペパンのフィッシュフライサンドとチョココロネを買った。

印象的に用いられる黄色や赤色、中国の寒い地域の空気を伝える画面の色味、紅衛兵に捕らえられた人々の列などが強く記憶に残っていた。

けれど今回、何よりも胸を締め付けられたのは、
家庭教師のジョンストン先生と溥儀の別れの場面。元皇帝とその家族たちは紫禁城を追われ、ジョンストン先生は職を解かれ国に帰る。港につけた車の中で、「出会った時のように」と2人は長い、固い握手を交わす。

車を降りてコンコースを真っ直ぐ進み、先生は溥儀のいる方を振り返る。広い待合室に蛍の光が響く。親しい人との別れを歌った、スコットランドの民謡。哀しい頼りない二胡の調べが、遠くに行く親しい人への祈りの言葉のように涙をさそう。ジョンストン先生の知性と配慮に溢れた振る舞いは、翻弄され続ける溥儀の人生を思うとき、延々と続くやるせなさの中の光のようにも感じられる。


この映画のどの場面をとっても、迫力がありそして示唆に富んでいるけれど、最も圧巻なのは、釈放後の溥儀の晩年の描写だろう。

庭師として静かに暮らす姿、神のように崇められたかつての皇帝が、市井の片隅で丹念に植物に手をかける様子は、それだけでも胸に迫る。かつての尊大さや堂々たる態度は見る影もなく、全編で最も穏やかな表情をしている。溥儀が街に出ると、自転車の群衆や露店に積まれた野菜が映る北京の風景の中に学生たちの行進が現れ、途端に文革の空気が流れ込んでくる。

高らかにスローガンを叫び勢いよく進んで行く大勢の紅衛兵の姿に溥儀は「皆まだとても若い…」と呟く。昔の自分の姿を重ねたのかもしれない。学生運動の紅衛兵も、利用され、過熱化の挙句追放された。

紅衛兵の行進に連れられた逮捕者の中に、彼は自分のいた更生施設の所長を見つける。正義とされるものは短い間に移り変わり、溥儀の訴えが学生たちに届くことはない。

老人の溥儀が、人の消えた紫禁城へ入って行く。全編の内で最も叙情的で、正にクライマックスと感じる。移ろい消えてゆくものへの悲しさや虚しさ、やるせなさ、終わらない奪い奪われの連鎖への諦めや軽蔑、憎しみ、さまざまな思いが溢れ、言いようのない余韻は消えることがなく、そしてそのうち、またあの儚い栄華を見て憐みたい気持ちにさせられるのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?