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早めの秋はやっぱり学びの秋

 巨人軍は残念ながら早めに秋が訪れてしまった。今日時点でまだヤクルトとオリックスが試合をしているのが別世界の話のようだ。誰が悪かったとか、何が悪かったはもう終わった話で言いっこなし。時間は前にしか進まない。ただ、後ろに行った時間を活かすことは大切だ。

 10月に入り、3年ぶりに秋季練習の一般公開が行われた。私は12日、21日、27日(練習試合)の3回お邪魔した。通常の練習は9時開場、9時半練習開始だが、開場前には日に日に並ぶ人が増えていた。夜明かしをした人がいたのだろうか、2回目の見学時にはフェンスに「徹夜禁止」との表示があった。

 相変わらずのジャイアンツタイム。9時半練習開始は「9時半から体を動かしますよ」という意味で、朝礼のようなコーチからのお話は5分前には始まっている。軽いジョギング、念入りなストレッチ、工夫を凝らした連続運動。初日に見た時はライトからレフトまで一直線にダッシュし、着いたところで四股を踏み、またレフトにダッシュして、地面に置かれた縄跳びを掴み、二重跳び10回というまさに行き着く暇もない運動。多くの若手はみやざきフェニックスリーグに派遣されているため、アラサーの選手がヘトヘトになりながらこなしている。大勢投手や山﨑伊織投手はさすが若手と言った感じでアグレッシブだ。推しの大城捕手は何と言っても縄跳びと速く走ることがあまりお得意ではなく、難儀しつつも諦めず一生懸命ついていこうとする姿に心を動かされた。30分あまりのアップの後はユニフォームに着替えて打撃やノックなどの練習に移る。

 アップの際の個々の練習着も貴重だし、短パンにタイツなので足に無駄がなく筋肉が隆々としているのが分かるが、やはりユニフォームはかっこいい。見慣れたはずの白のホームユニフォームは秋の日差しに照らされ輝いて見える。まばゆいばかりのユニフォームだが、ノックで土に飛び込み、芝生に転がり、あっという間に真っ黒だ。だがそれもまた美しく感じるのだから、人間、一生懸命な姿が一番綺麗というのがよく分かる。

 選手の頑張りやコーチの献身と共に、この秋季練習では「裏方さん」と言われる球団スタッフの方のお仕事も目の当たりにすることができたのもまた貴重な時間であった。選手が来る前からストレッチマットを並べ、終わったら片付ける。縄を拾う。バッティングゲージの設置、ボールの準備、拾い、片付け、ノックの球出し、飲み物の段ボール運び、ビデオ記録などなど。トンボ掛けなどは選手が自ら行うが、最終的な整備は裏方さんが行っている。少しでも選手の負担を減らしてあげようという愛情。それと共に「自分が使ったところは自分で清める」という基本には手を出さず、どんなにすごいと言われる選手も丁寧にトンボ掛けをしているのが印象的だった。小さい頃からトンボ掛けをしているだけあって皆さん慣れたもの。名球会の坂本選手も、沢村賞経験のある菅野投手も、皆さん綺麗に自分の踏んだ土をならしていた。

 午後になると入れ替わるように2、3軍の選手の練習が始まる。宮崎派遣以外の若手と、故障明けなどの選手だ。松原選手、若林選手、増田大輝選手、中川投手など名だたるプレーヤーが汗を流す。故障を抱えている場合は状態に合わせ、足を使った練習を中心にしたり、キャッチするだけなど、故障部位以外が衰えないように調整している。若手は桑田コーチや小笠原コーチなど、名手に教えをこう姿が見られる。今の若い子は自ら聞いて来ないとか言われがちだが、これからの生活がかかっているのだから皆とても積極的だった。声出しも大きい。ジャイアンツの未来は明るいぞと思わせてくれるような素晴らしい練習だった。

 また、グラウンド外では手術後の立岡選手が歩行訓練をし、梶谷選手が黙々と室内練習場を走っていた。先の見えぬ日々の気持ちを慮るとつらいが、できることを一つ一つこなす姿が胸を打つ。

 気がつけば10月ももうすぐ終わる。日が経つごとに球団を離れる選手の発表があり、寂しさもついて回る。プロ野球選手は球団に雇用されているのではなく、個人事業主の集まりだ。会社組織にいるように身分を守られているのではなく、自身の出来やコンディションが生活や仕事を守るのだ。頑張っても頑張っても、相手が契約しないと言われたらそれまでなのだ。厳しい社会で生きている。
 
 公式戦が終わってしまうと、終わってすぐは悔しい気持ちなどが持続しているが、ゲームから離れることで自身の課題を見出すことが難しかったり、ややもすると目標を見失いかねないのではないかと素人目には思ってしまう。今年もコーチ陣の大幅な入れ替えがあり、新任のコーチが秋季練習の途中から参加しているが、今までと違うエッセンスを入れてくることで混乱もあるのではないだろうか。

 自らを律し、やるべきことを見失わずにこの時期の練習に取り組む難しさを考えると、シーズン中とはまた違った尊敬の念が生まれる。プロ野球はオフシーズンも私に学びを与えてくださっているのである。

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