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【す】 墨古沢遺跡 <旧石器電子辞書>

                             川端 結花

【位置と立地】
 墨古沢(すみふるさわ)遺跡の所在する千葉県印旛郡酒々井町は、下総台地のほぼ中央部で印旛沼の南岸にあたる。町の中央を東西に流れる高崎川は、八街市・富里市を水源とし佐倉市で鹿島川と合流して印旛沼に注ぐ。
 遺跡は北に高崎川、南に高崎川支流の南部川に挟まれた台地上に位置し、標高は約35m。この台地も下総台地に特徴的な複雑な樹脂状を呈しており、谷津部には多くの湧水がみられる。環状ブロック群は、印旛郡酒々井町墨字小谷津1381-1ほかに所在する。

墨古沢遺跡 範囲と環状ブロック群の位置図

【発見と調査】
 日本道路公団による東関東自動車道水戸線酒々井パーキングエリア増設事業のため、平成11年7月から1年間にわたり財団法人千葉県文化財センターのよって発掘調査が実施され、環状ブロック群の西側半分が検出された。平成17年3月に調査報告書が刊行されているが、遺跡名は「墨古沢南Ⅰ遺跡」となっている。
 その後、平成27年度から史跡指定に向けての範囲確認調査が酒々井町により実施され、残された東および北側の発掘が4度にわたり行われた。遺跡名は平成30年3月に墨古沢遺跡、墨古沢南Ⅰ遺跡、墨古沢南Ⅱ遺跡の3遺跡が統合され「墨古沢遺跡」となり、令和元年10月に国史跡に指定された。

【環状ブロック群の概要】
 酒々井町による範囲確認調査は保存が重要視されたため、放射状にトレンチが設置されており、現状で環状ブロック群の全容把握について推定も含めないといけないが、出土石器ブロック数61か所(推定70か所以上)、出土石器数4386点(推定1万点以上)、円環部推定径は南北70m×東西60mである。財団法人千葉県文化財センターによる調査部分は既に失われているが、国内最大規模の環状ブロック群であると評価され国史跡に指定された。

墨古沢遺跡環状ブロック群石器分布図

 出土層位は、立川ローム層Ⅸa層下部である。炭化物による14C年代測定の結果は、較正年代(Cal BP)で34000年代から33000年代に集中し、樹種同定ではトウヒ属、ヒメバラモミといった針葉樹が多かった。
 出土石器4386点の器種別組成は、台形様石器71点、ナイフ形石器2点、彫刻刀形石器2点、削器2点、石錐2点、楔形石器27点、斧形石器調整剝片4点、二次加工のある剥片76点、微細剝離痕のある剥片51点、折断剝片511点、剥片2932点、砕片518点、バルバースカー片1点、石核165点、敲石2点、礫6点、礫片14点である。
 台形様石器にはペン先形や折断剥片素材の多様な形態のものがみられ、接合資料も存在、制作過程を知ることができる。不定形剥片素材が多く、石刃技法は存在しない。
 石材別組成は、ガラス質黒色安山岩3275点、安山岩5点、玉髄300点、トロトロ石251点、流紋岩204点、珪質頁岩96点、硬質頁岩52点、頁岩27点、黒曜石25点、砂岩16点、粘板岩21点、チャート7点、緑泥片岩2点、ホルンフェルス3点、石英1点、ノジュール塊1点である。
 黒曜石の原産地推定結果は、7点が高原山エリア、1点が和田エリア、4点が諏訪エリア、3点が神津島エリア、5点は近い位置にプロットされており信州産の未確認原産地の可能性がある。
 ガラス質黒色安山岩の産地分析では、武尊山産の可能性が高いとされた。
 また、ハンドボーガーボーリングによる台地の基盤土層調査、発掘調査時のⅨ層上面埋没等高線の作成により、環状ブロック群中央部が凹んでいることが確認されていることも注目される。

墨古沢遺跡出土石器

【墨古沢遺跡の今と今後】
 史跡指定された遺跡の現状は畑で、遺物は近くの酒々井コミュニティプラザに常設展示されている。町教育委員会による普及・啓発活動として、シンポジウムやミニ講演会などが度々開催されている。今後は維持・活用のための見学者向けガイダンス施設等の建設計画も期待される。

【引用・参考文献】
財団法人千葉県文化財センター 2005『酒々井町墨古沢南Ⅰ遺跡-旧石器時代編』東関東自動車道水戸線酒々井PA埋蔵文化財調査報告書Ⅰ
酒々井町 2019『墨古沢遺跡総括報告書-下総台地に現存する日本最大級の旧石器時代環状ブロック群』墨古沢遺跡保存整備事業報告書(1)
酒々井町教育委員会 2019『墨古沢遺跡パンフレット
酒々井町教育委員会 2021『史跡墨古沢遺跡保存活用計画書』
酒々井町 2021『墨地区自然科学分析報告書-墨地区低地採取ボーリングコアの分析からみた古環境』墨古沢遺跡保存整備事業報告書(2)

※ 写真は2019『墨古沢遺跡総括報告書』の表紙から、地図、分布図、遺物写真は『墨古沢遺跡パンフレット』等のものに加筆修正し転載した。
※ 同パンフレットは、全国遺跡報告総覧から無償でダウンロードできる。
  こちら 墨古沢遺跡パンフレット




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