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【ひ】 ピリカ遺跡

【ぴりか いせき】 旧石器電子辞書
                             寺崎康史

                     
【位置と立地】
ピリカ遺跡は、北海道渡島半島中央部、桧山管内の北端、瀬棚郡今金町字美利河257番地他に所在し、東経140°00′06″、北緯42°25′50″に位置する。
遺跡は、後志利別川の支流ピリカベツ川左岸の丘陵地の複数の段丘面に載っており、遺跡全体の範囲は約20万平方メートルにおよぶ。標高130~180m、川との比高は30~80mである。
なお、国史跡指定範囲内をピリカ遺跡、それ以外を美利河1遺跡と区別しているが、ここではそれらを合わせて「ピリカ遺跡」と総称する。

ピリカ遺跡 全景

【調査の経過】
1978(昭和53)年北海道開発局函館開発建設部が美利河ダム建設にあたり、築堤材料(粘土)の適否に関する土質調査を丘陵一帯について行ったところ、試掘坑から石器が発見され、旧石器時代の遺跡であることが判明した。
ダム建設のための粘土採取に先立ち、1983・1984(昭和58・59)年に財団法人北海道埋蔵文化財センター(以下、道埋文)により1,585㎡を対象として発掘調査が実施された(A・B地区)。出土遺物点数は11万点を超える。
その後、1991(平成3)年には今金町教育委員会(以下、町教委)が農地造成のため、A・B地区よりもさらに高位の段丘面に位置するC地点の発掘調査を実施し、150㎡の範囲から約12,300点の旧石器時代の遺物が出土した。
1994(平成6)年にはA地区の西側99,090㎡が国の史跡に指定された。史跡整備事業に伴い、2000(平成12)年度から2002(平成14)年度にわたり史跡指定区域において発掘調査を行った(D・E地点)。3ヵ年の調査面積は合計約346㎡、出土遺物の総点数は約47,300点である。
 また、1996(平成8)年からは國學院大學が考古学実習として、C地点から北東へ60m離れたK地点を発掘調査しており、8年にわたる調査により、148㎡の範囲から約35,000点の石器が出土した。

石器の出土状態(ピリカ旧石器文化館展示)
美利河技法の接合資料(①の峠下型細石刃核石器群に含まれる

【遺構と遺物】
A・B地区からは16の石器ブロックが発見され、①峠下型細石刃核を中心とする石器群、②蘭越型細石刃核を中心とする石器群、③尖頭器石器群、④広郷型細石刃核を中心とする石器群、の主に4つのグループに分けることができた。層位により上下関係を確認し、①(下)→③(上)、②(下)→④(上)の新旧関係を明らかにでき、層位的出土事例が少ない北海道にあって貴重な出土例となった。また、豊富な接合資料が得られ、細石刃製作方式として美利河技法が提唱され、長さが33㎝と日本列島では最大級の尖頭器、旧石器時代では珍しい装身具の発見など多大な成果を収めた。
C地点・K地点・E地点からは長さ30㎝を超える石刃や石刃核などを含む広郷型細石刃核を中心とする石器群が出土している。
D地点からは峠下型細石刃核と尖頭器石器群が出土している。

②蘭越型細石刃核と細石刃
彫器(上段)と ④広郷型細石刃核(下段)
③尖頭器石器群 (中央は33cm)

【石器群の編年】
北海道の旧石器文化は細石刃石器群の出現を画期としてそれ以前を前半期、以後を後半期としており、北海道の細石刃石器群の出現年代はおよそ25,000年前で、日本列島ではもっとも古く位置づけられる。前半期を3期、後半期を5期に細分できると考えられるが、ピリカ遺跡では、前半期の石器は未確認で、後半期の6期を除く石器群が出土しており、下図のように整理できる。この地において、およそ1万年の長期間にわたり旧石器人の暮らしが繰り返し営まれていたことがうかがえる。

ピリカ遺跡の旧石器編年

【研究課題】
ピリカ遺跡の各地点からは高密度に珪質頁岩製の石器が出土する。しかも、それらは互いに接合し、原石に近い状態に復元できる例が多い。これらのことから、各地点は珪質頁岩の原石を持ち込み、そこで石器を製作している石器製作跡といえる。これらの石材供給源は現在の河原で採取できる石から見る限りでは、遺跡西側の後志利別川水系ではなく、丘陵丘頂部東側の国縫川水系が考えられる。今後、岩体を中心とした遺跡周辺の調査が必要である。
また、日本で最初の旧石器時代の玉製品発見となったが(巻頭写真)、肉眼観察から玉の原材料はダナイトという岩石であるという結果を得ている。その後の蛍光X線分析の結果、はんれい岩およびその関連岩石とダンかんらん岩が緑泥石化という変質作用を受けているものであることがわかった。玉類の起源は北海道以外に求める必要があることが指摘されており、これについても今後の課題である。

【収蔵と見学】
ピリカ遺跡の具体的情報を知ることができるガイダンス施設として、「ピリカ旧石器文化館」があり、遺跡の概要説明、 出土遺物の展示、体験学習ができるようになっている。史跡内には石器の出土状況を展示している施設「石器製作跡」がある。

ピリカ旧石器文化館

【文献】
(財)北海道埋蔵文化財センター 1985 『今金町美利河1遺跡』 
今金町教育委員会 2001 『ピリカ遺跡Ⅰ』
今金町教育委員会 2002 『ピリカ遺跡Ⅱ』
今金町教育委員会 2003 『史跡ピリカ遺跡整備事業報告書』
宮尾 亨 1997 「北海道今金町美利河1遺跡K地点」『第11回東北日本の旧石器文化を語る会予稿集』
岩崎厚志 2004 「北海道今金町美利河1遺跡K地点」『第17回東北日本の旧石器文化を語る会予稿集』
長沼 孝・寺崎康史 2022 『氷河期の大石器工房 ピリカ遺跡』 新泉社

※ 本文中、石器写真小川忠博氏の撮影による。


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