フラクタル造形

書評_003
設計におけるフラクタルの意義の考察
松川研究室M2 林拓磨

書籍情報
著書:フラクタル造形
著者:三井秀樹

概要

”造形”とは何か?
私たちが”もの”を見る際に必ず認識するのは、その「かたち」である。そこからでしか、「かた」、「か」、「かち」といった目に見えないものを捉えられない。その「かたち」にする行為=”造形”とは何なのか。バウハウス[1]では造形要素として形、色、材料、テクスチュアの4つを挙げた。これらの造形要素と造形の秩序を体系的に研究する”構成学”が生まれ、現在の造形教育の根本になっている*1。

形の体系
本書では形を三つの手法で分類している。
A.概念による分類
B.定量化による分類
C.概念と定量化による分類

アートボード 1

図1.形の体系(「フラクタル造形・三井秀樹」p.27より引用)

フラクタル理論が提唱されるまで、自然界の非定形な形は造形の対象から避けられていた。定量化出来ない形は数値や数式に置き換えられないからだ。しかしマンデルブロはそういった非定型な形の中にも数式で再現可能なもの=フラクタルが存在していることを証明した。これによって人間は非定形なものも造形の対象に入れるようになった。

画像3

図2.マンデルブロ集合(フラクタル図形)

建築の造形科学技術の進歩により鉄やガラス、コンクリートの出現によって建築の様式は大きく変化した。装飾文化が否定され、最小限の材料で構造的機能を満たし、視覚的合理性が追及された機能主義のモダニズムが世界を席巻した。その反動により、モダニズムに部分的な装飾的を施した図像操作のポストモダニズムが現れたわけだがその本質はどちらも、普遍的な秩序による構築だった。

画像1

図3.サヴォア邸(ル・コルビュジエ・1931)

画像2

図4.東京都庁(丹下健三・1943)*3

そんな流れのなか、建築家たちがさらに自己のアイデンティティを表現し脱構築主義的な建築が出現した。普遍的な秩序であるユークリッド幾何学を排除し、不確実性を追求した造形が現れた。この非定形、非対称な自然をメタファーとした形や、シェル構造など自然のアナロジーを起源とした構造はフラクタルのカオスの様相とも共通する。

画像4

図5.MAXXI(ザハ・ハディド・2010)

考察

現代におけるフラクタル的な設計とはモダニズムやポストモダニズムはユークリッド幾何学を秩序とした「トップダウン」的な設計に対し、脱構築主義的建築は部分の秩序で全体を造る「ボトムアップ」的な設計であるともいえる。このボトムアップ的な設計の部分が、細胞単位の働きによって生まれた生物学的形態と生成の過程が似通っている。それ故に、脱構築主義的建築は広義にフラクタルと言えるのではないか。

ボトムアップ的な設計という点で人間と自然は共通するが、その秩序の決め方では大きく異なる。生物の進化による変化は特定の目的を持たないため、必ずしも形態は環境に適しているかわからない。しかし人間が行う設計においては目的の設定が可能である。数理化できるものであればそれに適したものにする秩序を作ることができ、全体の設計を行える。

そういう意味では人間は自然より優れた形態を設計できる可能性があるのではないか。自然から着想を得て、そこから秩序を作り全体を設計する。これは生物がまだ辿っていない、あるいは辿れていない形態の創出の可能性を秘めているのではないか。


注釈
バウハウス:1991年にワイマールに建設された美術学校。20世紀美術と造形教育に大きな影響を与えたとされる。

引用
*1:「美の構成学 バウハウスからフラクタルまで」・ 三井秀樹
*2:「フラクタル造形」p.27・三井秀樹著
*3:東京都庁HP(URL:https://www.yokoso.metro.tokyo.lg.jp/kengaku/index.html)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?