アルファベットそしてアルゴリズム

書評_038
ADL(慶應SFC松川研究室)
B2 藤原彰大

<書籍情報>

発行日: 2014年9月20日
著者: マリオ・カルポ
訳者: 美濃部幸郎
発行所: 鹿島出版会

<著者について>

マリオ・カルポ
建築史家。ルネサンス建築を専門とし、主に建築の表記法の歴史を研究している。イタリア出身。
著書に、
『Architecture in the age of printing』
『The Second Digital Turn: Design Beyond Intelligence』
がある。

<本の概要>

本書では、製造技術の歴史と建築を照らし合わせ、現在のデジタル技術が今後のデザインをどのように影響するかを推測している。

<要約>

本書は3章構成である。第一章では、「手による製造、機械による製造、デジタル技術による製造」の3つの技術の時代配列を明らかにし、建築がどのように変容してきたかをまとめている。第二、三章では、第一章のタイムラインをもとに建築の歴史における同一的なコピーの興隆と衰退を論じている。エピローグでは、デジタル技術がもたらす今後のデザインの未来を推測している。

はじめに、「手による製造、機械による製造、デジタル技術による製造」の3段階に製造技術の歴史を分割し、それらを比較している。
手による製造、つまりハンドメイドの物は、個々に合わせてカスタマイズしヴァリエーションを作ることが可能であり、可変性がある。しかし、個々それぞれが異なることや、生産効率が悪い事から、複製や大量生産には適していない。
機械による製造は、生産効率が良い事や同一のコピーを作り続けられることから、複製や大量生産に適している。しかし、機械は固定の型から同じものを生成し続けるため、柔軟性や可変性がない
これらに対し、デジタル技術はアルゴリズムから系列をなす無限のヴァリエーションをデザインし、大量生成することが可能である。生産効率が良く、無限の可変性があるのである。機械による同一的コピーの時代から、デジタル技術によるヴァリエーション生成の時代への変遷が、現在起きていると筆者は述べる。

では、「手による製造」から「機械による製造」への移行、つまり同一性のコピーの需要が高まったのはいつからだったのか。筆者は建築史の歴史から考え、印刷の発明が大きく影響していると考える。

印刷技術の発明以前、建築は文字や数字によって表記されていた。現在の図面に近いドローイングの表記は、複製される際に必ずミスが生じると考えられたからである。このことにより当時の建築家は明白な形が抽出できず、建物の建設者とのディスカッションを通じて最終的な形が決まっていった。つまり、建築に原作者性が欠けていたのである。

しかし印刷技術の発明により、ドローイングの同一的コピーを作ることが可能となった。このドローイングによる新しい表記法として「図面」がアルベルティにより発明された。

<レオン・バッティスタ・アルベルティ>(1404年~1472年)
ルネサンス初期の建築家、建築理論家。専攻分野には法学、数学、絵画、詩作などがあり、彼の『絵画論』では遠近法の手法を構築している。

図面の発明により建築は、実際に建造物として完成する前にその形が確定されるようになった。つまり図面が完成した時点で、その後の変更は許されなくなったのである。これにより、建物を「デザイン」する者と、それをそのままコピーし「施工」する者とに分断され、建築に原作者性がもたらされたと同時に、図面と全く同じものを作るという同一的コピーをつくることが求められていった。

しかし、デジタル技術の発展により、デジタル上でデザインをすることが可能になった。そして同時に、関数を用いることで、一つの固定の形だけではなく、無限のヴァリエーションを生成することが可能になった。その形は、全て異なっているが類似している。この関数は「オブジェティル」と定義されている。これにより、以前と比較してはるかに安く、スピーディーにヴァリエーションをデザインすることができるようになった。デザイナーはこれらの関数のパラメーターを操ることによって、効率的に形を排出することができる。(パラメトリックデザイン)

ここで著者は、「オープンエンドであることやインタラクティビティは、デジタル環境による可変性という考えの中に生来的に備わっているものである」と主張する。構想と建設を切断するアルベルティ的思考を否定し、より参加型なインタラクティブ・デザインを肯定している。この主張は「現在の新しいメディアをコラボレーションや<ソーシャル>な目的に利用するあらゆる様態への、現代の熱狂的な状況」を背景にしている。
これらのソフトウエアをオープンエンド化することで、多くの人が利用し手を加え、それぞれが求めるパラメーターを操ったり追加したりすることが可能になる。しかし、コラボレーションにより生まれた形には、原作者を認定することが不可能である。これまでの建築家の基盤となっていた「原作者性」が失われることになる。

結論として、筆者は原作者としての建築家の時代は、終わりを迎えていると主張する。また、それにとって代わるパラメトリック・デザインは二手に分かれると主張する。オブジェクティルをデザインする者と、オブジェクトをデザインする者である。オブジェクティルをデザインする者はシステムの原作者となり、オブジェクトをデザインする者はそのオブジェクティルのインタラクターとなる。

<本書を読んで>

本書で挙げられているオブジェクティルの主張は、まさに松川研の方針と合致していると感じた。特定のカタをもとにカタチを抽出する。カタのパラメータを操ることにより無数の形を生成するという考えは、生産効率や柔軟性が重視される現在に欠かせないものであると感じた。
筆者は、原作者としての建築家の時代は終わりを迎えているという主張は、多くのデザインがオブジェクティルにより効率的に生成されたものにとって代わるという主張に等しいと考えた。マリオは本書で、オブジェクティルを作るデザイナーと、オブジェクティルにより生成されたもの中から場合にあった最適解を見つける「インタラクター」となるデザイナーにわかれると推測していたが、私はその最適解を見出すというインタラクションさえも自動化できるのではないかと考える。
例として、ニコラス・ネグロポンテの研究があげられる。彼のSEEK projectは、AIがネズミの行動パターンを観察し、ロボットアームとブロックを用いることでネズミの軌跡を形にした構造物を作るというものである。[2]

彼はこのプロジェクトから、AIによる「学習する建築」を作ることが可能になると推測する。AIを用いることで、個人の行動パターンレベルでカスタマイズすることができる。

<議題>

パラメトリックデザインは、形の抽出の段階を自動化しているといえる。今回の書評ゼミでは、建築のプロセスはどの段階まで自動化されるべきかを議論したい。

<参考文献>

[1] マリオ・カルポ (2011)訳 (2014)『アルファベットそしてアルゴリズム』
[2]The Digital in Architecture: Then, Now and in the Future | SPACE10


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