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代理出産の影

2022年10月14~16日に六本木でおこなわれたFemtechFes2022のイベントで代理出産斡旋企業が出展していた。

果たして「代理出産」とは女性のためのフェムテックと言えるのだろうか。
依頼する女性にとってはそうなのかもしれない。でも代理母となったり卵子提供する側の女性にとってはどうだろう。
代理出産を宣伝することによって利益を受ける側が提供するキラキラする情報だけでなくて、なかなか表に出てこない代理母や卵子提供者となった側が語るネガティブな側面も知らなければ、自分の考えをまとめることができないと思うのでわたしは『こわれた絆――代理母は語る』を読むことにした。

「こわれた絆――代理母は語る」

この記事では代理出産や卵子提供をした女性たちの体験談をまとめた『こわれた絆——代理母は語る』という本について取り上げる。

何かしら契約を結ぶとき、契約書には注意書きがものすごく小さい字で書いてある。保険に加入して何かしら問題が生じた場合、分厚い契約のしおりに書いてある「約款」を自分でもよく確認する必要がある。

ならば「代理出産」という契約の場合はどうなるだろう。

代理出産契約は、規制の持つ誤謬を明らかにさせる。契約は常に、「売り手」と「買い手」の不平等な関係に基づいている。すなわち異性愛者であれ同性愛者であれ、経済力で勝り、親になりたい「買い手」と、いわゆる〈代理〉や〈卵子供給者〉と呼ばれ、しばしば周縁化された民族や階層、階級に属する、経済的に恵まれない女性の「売り手」である。

p.210 おわりに

「人の本性が出るときは権力を持ったとき」と聞いたことがある。
まさしく代理出産契約において権力を持っているのは明らかに依頼者側だ。
この本は字が大きいほうだしページ数もそこまで多くないのにかかわらず、あまりにも依頼者カップルたちの自分勝手な振る舞いとそれに振り回される代理母の境遇が理不尽で、わたしは怒りのあまり少しずつしか読み進められなかった。

卵子提供・代理出産は時に予測不可能なことが起き、状況は常にうまくいくとは限らない。
・妊娠糖尿病や妊娠高血圧腎症の発症
・卵子提供のためにおこなうホルモン注射の副作用
・卵子提供自体のリスク
・流産してしまった場合は?
・もし障がい児だったら?
・もし依頼者の女性が代理母に対して嫉妬の感情を向けて攻撃的な態度をとって嫌がらせをしてきたら?
・過受胎(=代理母が自分自身とパートナーの子を妊娠していることを知らなかった状態で依頼者の希望する胚を移植し、妊娠している女性が重ねて妊娠し、代理母自身と依頼者カップルのふたりの子を同時に妊娠出産すること)の場合はどうなる?
・代理出産の経験によってうつ病になってしまったら?

事が悪い方向に向かい始めたとき、代理母に有利なことは何一つない。
身体的にも精神的にも被害を受けるのは代理母側であり、契約に縛り付けられるのも代理母側だ。

問題になるのは「商業代理出産」であって、親族間の「無償代理出産」ならば大丈夫?
とんでもない。
この本でつらい経験を語る代理母たちのなかには親族女性から依頼されて「善意で」代理出産を請け負ったものの、その過程や出産後における親族からの嫌がらせや過酷な訴訟によって、訴訟・報酬未払いによる金銭的損害だけでなく、身も心も疲弊して一生のトラウマになってしまった人もいる。

(オーストラリアの動物虐待防止法によると)仔猫や仔犬でさえ、生後7週間より前に授乳している母親から引き離してはならない。なのに養子縁組や代理出産では、人間の赤ん坊が、まだその乳を吸ってもいないうちに、産褥の母から合法的に引き離される。(p.29)
これは母子の絆の明らかな破壊であるが、子どもにとっての新たな法的、社会的環境は、その子にとっての生物学的な実態が破壊されたうえで構築される。
代理出産によってつくられる「近代家族」は、母子の二者関係を犠牲に成り立っているのだ。

代理母や卵子提供者になることはさぞ素晴らしいことであるかのように、関係者全員がポジティブな話しかしない。
Facebookにある代理母のグループでは悪いことは何も書かれていず、幸せな話や人が人を助ける話ばかりだ。しかし、Facebookのグループで少しでもネガティブなコメントをしようものなら、全員がその人を攻撃するという状態なのだ。(p.77)

あまりにも情報が偏っているように思う。
ネガティブな情報を流さないのは「善意」で代理母や卵子提供をしようという女性たちの目から影の部分を隠したいからではないか。

代理出産とは、断絶の完全形態である。つまり母を母の身体から、母の身体を子どもから切断する。そしてその子は、IVFクリニックと仲介業者を介して赤ん坊をオンライン注文した人々に売られる。これらは、ネオリベラル家父長制的資本主義者の道具なのだ。

p.21 はじめに

代理出産に反対であれ、賛成であれ、よく知らないから考えを保留中であれ、この代理母たちの声に耳を傾ければならない。
セレブが代理出産によって子を持ったニュースに「おめでとう」とコメントするならば、少しでも代理出産について考えるならば、その光の部分だけでなく影の部分にも目を向けなければならない。
経済的資源である「妊娠保有者」「卵子の売り手」という名の工場かつ原料と見なされうる女性ならば誰しもが代理母・卵子提供者たちの現実を知る必要があるだろう。

2023年2月9日に開催されたばかりの「生殖補助医療のあり方を考える議員連盟議 第21回総会」では主に代理出産について取り上げられ、文字起こしを拝読したところ
・依頼主経験者からのヒアリング
・少子化対策としての代理出産
という、この本を読んだ後ではとても恐ろしく感じられるようなことが議題として取り上げられていた。(文字起こしありがとうございます)
代理出産の話題は日本でも全く他人事ではない。

(↑では「女性市民の会(仮)」さんのnote記事を貼っていたのですが、アカウントを消してしまわれました)

最後に「おわりに」で紹介されていたグローバルな運動「今こそSTOP!代理出産」の署名サイトを紹介する。

「代理出産を問い直す会」のHPに声明の日本語訳がある。
ぜひあわせて読んでほしい。

ドキュメンタリー「代理出産――繫殖階級の女?」

代理出産に少しでも関心があるひと(特に女性)はぜひ『代理出産ーー繁殖階級の女?』(日本語字幕つき)をみてほしい。

ゲイカップルのために、自身の卵子を使用して人工授精により妊娠、女児を出産した例
「ママ 私達おなじ髪ね 目もおんなじ ここは パパに似てる ここはママ」
この家にいる間、毎日のように言うんです
私達の同じところ 違うところ 似ている 似ていない
その話ばかり
他の3人の子についてもここが同じとか違うとか
幼い頭では理解できず無邪気に聞いてくるんです
「髪もおなじ 目もおんなじ
なぜママは私をあげて 他の子をとっておいたの?」
5歳の子はこれが理解できることのすべて
「私達そっくり なぜ私をあげたの?」

「代理出産――繫殖階級の女?」より

代理出産によって産まれたこの子どもの疑問に対して、大人はなんて返せるのだろう?

女性は空っぽの容器ではない
子宮はモノではありません
女性の下層階級を生む危機です
懐胎が役目の女性です
女性は繁殖者ではないし
子どものことも考慮すべきです

「代理出産――繫殖階級の女?」より


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