憲法記念日に考える岸田文雄首相の改憲への本気度

今日は憲法記念日です。

憲法記念日のたびに注目が集まる話題のひとつのは、憲法の改正の可能性の有無です。

確かに、今年1月の施政方針演説において岸田文雄首相が「自分の総裁任期中に改正を実現したいとの思いに変わりはなく、議論を前進させるべく、最大限努力したいと考えています。今年は、条文案の具体化を進め、党派を超えた議論を加速してまいります。」と改憲への意欲を示したこと[1]は、改憲の期限について国会で言及するという点で異例の出来事でした[2]。

しかし、歴代首相の中でも特に改憲に強い意欲を示していた安倍晋三元首相が、折に触れて憲法改正に言及しつつ、各党各派の合意の形成という実現の度合いの低い事項を重視する姿勢をとっていたことは、安倍氏が改憲を党是とする自民党内の求心力を維持するとともに保守的な有権者の支持をつなぎとめるために改憲を用いていたことを示します。

また、自民党結成以来、鳩山一郎、岸信介、中曾根康弘といった、改憲を主要な政策に掲げた首相たちも、実際には改憲の実現ではなく改憲の主張を通した政権の維持を目指していました。

何より、岸田首相が何よりも誇りに思ってきた旧宏池会は、創設者の池田勇人が日米安保条約の改定問題で評面会した社会の分断を経済成長政策の強調によって乗り越えたように、伝統的に改憲問題とは距離を置いてきました。

とりわけに岸田首相の前に最後に宏池会出身の首相となった宮澤喜一が現行の憲法の不都合が認められない以上、改憲の必要はないとしたことは、宏池会の憲法改正に対する態度を明瞭に表現しています。

それだけに、改憲の意欲をことさらに強調する岸田首相も、関連する発言をそのまま受け取ることは難しく、政権の維持のための方便として憲法改正問題を利用していることが推察されます。

その意味で、憲法改正を推進する人たちにとって岸田首相の発言に過度に期待することは大きな失望をもたらすものですし、改憲に反対する、あるいは抑制的な人たちは、岸田首相の態度に敏感に反応することは事態の真相を見誤らせることになります。

憲法改正を巡る政権担当者の姿を理解するためには基本的な事柄だけに、憲法記念日に改めて確認する次第です。

[1]第二百十三回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説. 首相官邸, 2024年1月30日, https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2024/0130shiseihoshin.html (2024年5月3日閲覧).
[2]国会 憲法 軽んじる政権. 朝日新聞, 2024年5月3日朝刊2面.

<Executive Summary>
How Can We Evaluate Prime Minister Fumio Kishida's Attitude for Constitutional Amendment? (Yusuke Suzumura)

The 3rd May is the Constitution Memorial Day of Japan. On this occasion, we examine Prime Minister Fumio Kishida's attitude for constitutional amendment.

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