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日本の教育の課題と解決策について考える

 現在、日本の教育は約150年間変わってこなかった教育システムに終止符を打ち、新たな一歩を踏み出すべく、さまざまな施策を実行に移しています。
文部科学省は、子供たち一人ひとりに個別最適化された創造性を育むICT環境を実現するため、2019年に「GIGAスクール構想」を掲げ、総額約4,800億円をかけて、学校に端末が一人一台割り当てられたりと、目に見える改革が行われてきました。しかし、それと同時に教育現場や児童生徒を取り巻く環境は極めて不安定なものとなっていると感じます。
 こちらでは、文部科学省が進める教育改革の一方で、学校現場が共通して抱えている課題と、その背景にある不登校児童問題について紐解き、課題解決策と日本が目指すべき、学校教育の方向性を提示したいと思います。
 教育分野については、様々なご意見があるかと思うので、この記事が教育について考え、皆様と意見を出し合うきっかけとなれば幸いです。

目次


1.学校現場の主な課題

日本の学校現場が直面している課題として大きく2つあると考えます。
教員不足
生き方の多様化への対応

 教員の負担軽減や子供たちへの個別最適化を目的として、文科省がトップダウンで進める「GIGAスクール構想」は、150年もの間変わらない教育システムのもと子供たちと向き合う学校現場を更に疲弊させているのではないかと感じます。
不慣れな端末操作により稼働時間は増えており、端末を活用することが目的化した授業は、教育の本質を見失わせるものとなっています。
実際に学校教員の生の声を聞きますと、ICT機器を使いこなせない学校現場が多いように感じます。ICT機器を使って人と人との関係を強化する(繋ぎ止める)ことは出来ますが、代用することは出来ません。
 「子供たちと一対一で向き合う時間がない。」や、「先生が忙しそうにしてるから、子供から話しかけられない。」という声を先生方からいただきます。業務が増える一方で、子供たちの生き方は多様化しており、さらに子供一人ひとりに向き合う時間が必要となっています。文部科学省は、これまでの公立学校とは別の選択肢として「学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)」の設置を進めていますが、既存の学校においても「多様化」した生き方に対する対応が求められています。

 先に挙げた2つの課題の根本の原因は「学校と地域社会の分断」にあると私は考えます。この分断がもたらす問題として近年明るみになっているのが「不登校児童問題」です。「登校」と「不登校」は、学校と地域社会の分断が生み出した分類方法であり、文科省ならびに教育委員会が数字を管理をするための使用されている言葉です。

2.不登校に分類された生徒の実態

AIイラスト:勉強がわからず学校で塞ぎ込む子供の写真

 NPO法人conpeitoとして不登校児童支援の現場に携わり、教育委員会や学校と連携をしていく中で直面したのは、「不登校」に分類された児童の、その後の実態です。
不登校児童に分類されると「登校」の道に戻るのは極めて難しいです。
理由として主に4つあると考えます。

教員の手が届かず、児童が孤立化
 学校に来れない児童の管理は極めて難しく、1人ひとりの自宅への訪問、保護者との対話、教育委員会への報告書作成など事務処理など本来生まれない業務が増えます。近頃では一校に対して、不登校児童数が30名を超えるケースも出てきました。先生方に課された事務処理や、空きコマを使っての自宅の訪問などが、先生の業務量を増やし、成り手を年々下げてる原因にも繋がっています。

親子間の溝
 NPO法人conpeitoでの不登校児童の居場所支援を通じて、保護者からのご相談を受けることがありました。学校に行くことが「普通」だと思っている保護者にとっては、学校に行けないことは許せず、親子間の溝は広がっていきます。無理やり学校まで連れていくことで、更に子どもの心の状態を悪化させますが、保護者への情報も選択肢も少なく、それ以外の方法が用意されていないのが現状です。親子ともに周りに相談出来ずに孤立していきます。

復学を良いものと思わない不登校児童支援施設
 「良いものと思わない」は大袈裟かもしれませんが、中にはそのような思想の方もいるかと思います。学校へ行かない子供たちが利用する不登校児童支援施設(フリースクールやオルタナティブスクールなど)は、学力向上を目指すところや、一方でテキストを一切置いておらず、自然の中で学ぶところなど、運営者ごとに理念や運営方法は大きく異なります。一般的に支援施設の運営資金は児童の月謝で賄われていますので、復学は売上減を意味します。復学を選択肢の一つとして提示するのが理想ですが、運営資金とのバランスが難しく、中にはSNSで学校に反対する団体も出てきているのが現状です。

学習遅延
 学習意欲の低下による学習遅延は復学を妨げる大きな要因の一つです。
不登校児童は「行き渋り期」から「回復期」の4段階に分けることができますが、それぞれの段階に応じた支援が必要だと感じます。家から出たがらない、社会との関係性を断絶している子どもに対して、いきなり学習支援はハードルが高いので、自然の中で遊びながら心のケアをしていくのが最適かもしれません。しかし、いつまでもそれで良いのかと言うと、そうではないケースがほとんどだと思います。小学生が中学生高校生と学年を上げていく中で、それぞれの段階に合った支援を講じることが必要ですが、不登校児童支援施設ごとの横の連携はほとんどなく、多様な選択肢を提示できていないことが更に学習遅延を起こす原因となります。

3.なぜ不登校児童支援は進まないのか?

AIイラスト:小学校と中学校における不登校児童生徒数は299,048人で過去最多。

文部科学省が2023年10月4日に発表した小・中学校における不登校児童生徒数は29万9048人です。前年度から5万4108人(22.1%)も増加し、過去最多となりました。不登校児童数は10年連続で増え続けています。
私は不登校児童支援が進まない理由は、2つあると考えます。

支援策が子ども一人ひとり異なる
 家庭の事情や学校での人間関係、その児童がもともと持っている性格、地域差による違いなど、不登校の要因はさまざまであり、A校で上手くいった事例は、B校で上手くいくとは限りません。そのため、学校間の連携で解決するものではなく、学校ごとに取り組む必要があります。学校や保護者、教育委員会、不登校児童支援施設など、その児童を取り囲む関係者が連携をとり、丁寧な対応が必要となります。令和5年度の文部科学省の歳出のうち、不登校・いじめ対策に51億円が割り当てられ、一つの学校に対して、スクールソーシャルワーカーなどを一人ずつ配置するなどの施策が進められていますが、未だに多くの学校に割り当てられていないのが現状です。また、割り当てられたとしても、一人で面倒を見ることができる人数には限界があり、手の届かない児童も出てきます。

行政は一法人を応援できない
 先述したように、不登校児童支援施設を運営する団体は、それぞれ理念も方針も異なるため、行政が一つの法人を応援することは基本的にはできません。すべての施設が足並みを揃えて不登校児童支援に取り組むことが良しとされているため、現状維持を続けているのが現状です。フリースクールなどの団体の運営は極めて不安定であり、売り上げを確保するために月謝が高額化(全国平均33,000円)します。そのため、現状としてフリースクールの利用率は3.7%と、利用がなかなか進まず、孤立する親子が多くなってます。

4.課題解決策と理想の学校の形

AIイラスト:地域と一体になってる日本の学校で先生と子供たちが楽しそうに話している

 私はNPO法人conpeitoとして日頃から学校へ行かない子供たちと接しながら、子供たちが求めている学習環境と居場所をともに模索し実践してきました。ここでは私の実体験をもとに、学校現場が抱える課題に対する解決策と、私が考える理想の学校の形を提示します。

課題解決策は大きく2つあると考えます。

学校を更に魅力的な場所にする。
 学校へ行くことが当然のこととされてきた時代においては、生徒間でいじめが起きたとしても、子供たちが不登校となる恐れはほとんどなかったかと思います。しかし、SNSが流行し、誰もがオンラインで繋がれるようになったことや、「体罰問題」が取り上げられるようになり、誰もが「不登校児童」を問題視してからは、些細な問題が不登校に直結するようになりました。1クラス30名ほどいる中で、一人ひとりに目を配るのは不可能に等しく、これまでの業務に加えて、日々生まれる問題に先生が疲弊しているのが現状です。その状態では、子供たちに向き合うことは二の次になってしまい、不登校児童の数は膨らむ一方です。
 この問題の解決には、先生が余裕を持って子供たちと接することができるような労働環境を作ることが必要となってきます。先生は子供たちとのコミュニケーションに専念し、それ以外の業務に対して、専門の部署を作ることで、先生が本来の仕事で最大限に能力を発揮できるようになると、学校の魅力は更に高まると考えます。不登校児童支援に特化した事務局や、学習遅延を補助する補講室、保護者を心理的にサポートする心理カウンセリング室、ICT教育を補助するIT人材など、様々な専門家を置き、業務を分担することで、不登校の原因をなくすことに繋がります。退職教職員の活用や、ボランティアの募集、業務のアウトソーシングにより、適材適所で人材を配置する必要が出てきます。
 先生方は事務作業の分担によって空いた時間を使い、授業の組み立てに専念することができます。先述したように不登校児童支援においては事例の横展開は難しいかもしれませんが、子供たちの自主性を引き出すような授業の組み立て方や企画は共有して活かすことができると思います。他の先生方の良い点を真似し、自身の授業に活かすことで、日本全体の教育のレベルを引き上げていくことが可能です。周りの良い意見を参考にする時間や余白を生み出すためにも、まずは抱えている業務を分担することが先決だと考えます。

学校と社会の分断をなくす。
 先にも挙げたように、学校が抱える課題の根本の原因は「学校と地域社会の分断」にあると私は考えています。それぞれの学校が孤立して問題に向き合うのには限界があります。
 学校と地域社会の分断をなくすための具体的な施策を2つ提示します。
 一つ目は、学校と地域、行政が連携をとることです。そこで、不登校児及びそれに近い状況下にある児童生徒の学校教育のあり方についての意見や情報交換、実践発表等を通して、その改善に向けた学習支援の具体的な方策、役割分担の明確化する必要があります。義務教育段階における不登校児童にかかわる関係者が連携し、学校が抱えている課題を拾い上げ、他機関で解決できることを割り振っていくことが学校の孤立化を防ぐと考えています。
 二つ目は、街に開かれた学校づくりです。外部の専門家を招いたキャリア教育の実践や、学生を主体とした地域を巻き込んだイベントの開催を通して、学校と地域社会の間にある壁を崩すことができると私は考えます。NPO法人conpeitoとして、これまで携わってきた教育イベントでは、学生を主体としており、プログラムの中で課外学習として地域の学校に参加してもらいました。複数校を呼んでの合同発表会・交流会を企画し、学校間の関係構築や学校教育の新たな発展につなげることができました。また、様々な専門家を招き、子供たちの主体性を引き出し、創造性をくすぐるような授業を企画しました。これまでの基礎学習の上に、実体験から得た「生きた学び」を積むような授業や、街に出て実践していく機会と多様な選択肢を学校が提示することが大事になってきます。

5.まとめ

 「学校と地域社会の分断」がもたらす様々な課題に対して不平不満を言うだけでは現状は変わらず、不登校児童数は増えていく一方です。そもそも地域コミュニティが希薄化しているなど、別の問題にぶつかるかもしれませんし、地域によって全く原因も異なるかもしれませんが、地域に点在する学校を中心に地域住民が一体となってこの問題に向き合う必要があります。行動する人を真っ向から否定して叩くのではなく、「じゃあこうしてみたらどう?」と、違った視点で意見をする姿勢や挑戦を応援する環境が増えてくると社会は徐々に変わってくる気がします。そんな希望を胸に今日も理想の教育を追い求めて活動していきたいと思います。この記事が、日本の教育について考えるきっかけになれば幸いです。

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