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日々楽しく暮らす|小説のような何かを書いていきます|イラスト・コラム・グルメはTwitterにて発信|西野亮廣エンタメ研究所サロンメンバー

最近の記事

「11.内覧」

ガチャ… いつも家の扉を開ける時は憂鬱になる。帰って来ても、「おかえり」と出迎えがあるわけでもなく、誰もいない暗い家の中に向かってボソッと「ただいま」と言う作業には、正直ほとほと嫌気がさしている。 しかも、ファミリー向けのマンションなので、無駄に広いのが、また寂しさを増長させた。暗闇からなぜまた暗闇へと帰らねばならないのか。そんな思いをかれこれ10年近く抱き続けながら、同じ作業を繰り返してきた。 しかし、今日に限っては、確かに家の中は暗いのだが、なぜかいつもより明るくは

    • 「10.○○ハウス」

      「ところで、この街に来てもうそろそろ一週間ですよね。どうですか、この街の雰囲気は?」 「すごく落ち着きますね。色々なお店を覗いてみたんですが、皆さん良くしてくれて、温かい人が多い印象ですね。公園もあれから毎日行ってるんですが、平日は子連れのお母さんが多くて、見ててほのぼのしちゃいました。この街、好きですね」 「それは良かった」 僕はなんだか自分が褒められたような気がして、深い海の底に沈んでいた気持ちが急激に水面へと浮上するのを感じた。 やはり彼女は周りの人に対して、何か

      • 「9.きのこたけのこ戦争」

        その次の金曜日、再び僕は駅前のベンチに座る彼女と出会った。 連絡先を交換したものの、あれから彼女とは特に連絡を取り合うこともなく、朝早くから夜遅くまでの日常の仕事に忙殺され、すっかり彼女のことは頭の片隅に追いやってしまっていた。 やはり、生きていくうえで必要であるとはいえ、仕事は平日にある程度自分の自由な時間を確保できるくらい量であるべきだな。最近そう感じている。 その日、僕は新規契約を取りつけるために、朝から街中の会社に飛び込みで営業し、散々たる結果に終わってそのまま

        • 「8.ココロオドル」

          「よかったら、どこかお勧めのところ教えてくれませんか?」 店の外で日の光に照らされた彼女を見ると、改めてこの街に住む者とは全く異なるオーラを放っているように感じた。 恐らく、これまで彼女が旅をした先々でも、この独特な感じに地元の人達が魅了され、あれやこれや親切にしてしまうのだろう。 それはまるで、漆黒の闇の中、昆虫たちがキラキラと輝くライトに吸い寄せられるかのように。僕もまた、そのライトに群がる羽虫の一匹なのだけれど。 「あの…?」 彼女の戸惑った声で、どこか遠くの

        「11.内覧」

          「7.旅路」

          湯呑に入ったほうじ茶が目の前で湯気を立てている。ゆらゆらする湯気はまるで今の僕の心の状態をこの世界に映し出しているかのようだ。 ぼーっと湯気を見つめ、何も考えていない風を装ってはいるが、隣の彼女の一挙手一投足を全神経を集中させて逃すまいとしている自分に気付く。 なんでこんなに気になるのだろう。単純に、この彼女の人となりに興味を持ったのだろうか。 「旅行…ですか?」 ズズっとほうじ茶を飲みながら、伏し目がちに恐る恐る尋ねてみた。 これまでの人生、奥手で鳴らしてきた僕が、

          「7.旅路」

          「6.驚異」

          まさかそんな言葉が出てくるなんて思わなくて、再び僕は動揺した。 こんな華奢な体の一体どこに大きめの餃子が10数個と山盛りご飯が入るというのか。付け合わせにザーサイと唐揚げ2個と卵スープもあるんだぞ。それはいくらなんでも無茶というものだ。 僕は思わず声をかけていた。 「余計なお世話かもしれませんが、ダブルでいくんですか?しかもご飯も大盛りで?結構多いですけど、大丈夫ですか?」 「ふふふ、私、こう見えて結構食べるんですよ?あなたのそれを見て、なんだかお腹が空いちゃって。それく

          「6.驚異」

          「5.邂逅」

          明らかに場違いな客だった。こんなことを言っては、”みずほ”の店主やおばちゃんに失礼だが、この店にはおおよそ似つかわしくない出で立ちをしている。 大きなつばが特徴的な黄色の帽子を目深に被り、サングラスをかけているため、顔はよく分からない。無地の深い緑のワンピースを着ていて、足元はサンダル。傍らには黒い大きなキャリーケースが、華奢な彼女を守るボディガードのように鎮座している。 珍しいな、こんな街に旅行かな?そんなことをふと思ったその時、おばちゃんの元気な声がこだまする。 「

          「5.邂逅」

          「4.みずほ」

          「あら、いらっしゃい。元気だった?いつもの席空いてるから、座っといてね。」 元気よくおばちゃんが声をかけてくれた。この声を聞くと、実家に帰って来たような気がして、安心する。 定食屋”みずほ”は、なんでも創業50年の老舗らしい。先代の店主がこの地で店を構えてから、この街に住む多くの人達の胃袋を満たし続けてきている。僕もそのうちの一人だ。 50種類以上の定食がメニュー表に並んでいるが、食べたいものを言えばメニューにないものでも材料さえあれば何でも作ってくれる。こんな定食屋が

          「4.みずほ」

          「3.傷口」

          「少し早いけど、なんか食うか…」 キャラメルフラペチーノを飲んだばかりだというのに、もう胃が次のものを早く寄越せと催促してくる。 最近、お腹周りの余分なものがなかなか落ちにくくなっている。若いころは、いくら食べても太らないということが売りだったのに。今では食べたら食べた分だけ、自分の身体の血肉となっていくことが明らかに目に見えて面白い。いや、別に面白くはないか… もう口酸っぱく言ってくれる人もいないし、自分で自分に厳しく接しないと、歯止めがきかなくなってしまう。 気を付け

          「3.傷口」

          「2.出口」

          あてもなく歩き出したはいいものの、一体どこへ行こうか。時計の針は午前11時を少し回ったところを指している。木々を吹き抜けてやってきた心地よい薫風が顔を撫でていく。公園は幸せそうなカップルや、仲良くボール遊びをしている家族で賑わっている。 「そりゃそうだよな、土曜日だもんな」 僕が土曜日という休日を享受しているということは、すなわち世間もそれを享受しているということだ。土曜日という24時間は、皆に平等に与えられている。その限られた時間をいかに過ごすのか、生かすも殺すも自分次

          「2.出口」

          「1.苦痛」

          「あぁ、まただ。これで何回目だ?なんでこう何回も襲ってくるんだろう。もういい加減やめてほしいなぁ…」 先日、3年ほど付き合ってきた彼女にフラれた。お互いいい歳だし、もうそろそろ…と思っていた矢先に、彼女から別れを告げられた。 どうやら、なかなか踏ん切りがつかない僕に愛想が尽きたらしい。 先ほどから公園のベンチで幾度となく、胸をギリギリと締め付けられるような感覚に襲われている。 過去付き合ってきた人たちとの別れはそれなりに経験はしてきているが、今回は余程ダメージが大きかった

          「1.苦痛」

          「0.あらすじ」

          最近彼女にフラれた一人暮らしの男まもる。一応、定職にはついているが冴えない毎日を送っている。 そんな暮らしの中で、とある定食屋で偶然出会った謎の女サチ。ひょんなことから彼女となぜか一緒に暮らし始める。 出会い、別れ、再会。なんでもない日常を書いていきます。

          「0.あらすじ」