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読書ノートリスト

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筆者が読んだ本のノートです。
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記事一覧

霜月たかなか『コミックマーケット創世記』|読書ノート#9

〖2023年8月9日更新〗 ファーリーファンダムは、擬人化された動物に興味・関心を持っているファンたちが構成する文化的な共同体だ。ひとことに擬人化といっても、ファンによって興味・関心のある擬人化動物の幅(レンジ)はさまざまなので、細かい話はここでは言及しないことにする。ポケモンをポケモンと呼んでいることとだいたい同じとお考えいただきたい。 SFファンダム、コミック(漫画)ファンダム、アニメファンダム、そしてファーリーファンダムを渡り歩いて生涯書評を書き続け、アメリカの各種

パット・シップマン『イヌ 人類最初のパートナー——ハイイロオオカミからディンゴまで』|読書ノート#8

〖2023年7月7日更新〗 邦題がNHKの『イヌ 人類最古のパートナー』(〈地球ドラマチック〉シリーズ)と極めて接近している。 原著は『Our Oldest Companions: The Story of the First Dogs』(2021)。パット・シップマンは、2015年に著書『The Invaders: How Humans and Their Dogs Drove Neanderthals to Extinction』(邦訳書:河合信和 監訳、柴田譲治 訳

佐伯緑『What is Tanuki?』|読書ノート#7

〖2023年6月4日更新〗 《これからも極みを目指し、大いなる狸想を掲げ、狸念を重んじ、真狸の追求を続けることを誓う》(p. ii)——本著は動物生態学者であり、極真空手の有段者でもある著者、佐伯緑氏のタヌキに対する並々ならぬ熱意が篭められている。全体的に研究者の文体で認められているが、それもそのはず、120ページほどの本論(第1章〜第6章)に、30ページほどの引用/参考文献が付されている。 第1章では生態学/動物行動学、第2章では進化生物学、第3章では国際的な枠組みでの

サリー・クルサード『羊の人類史』|読書ノート#6

〖2023年5月18日更新〗 原著は『羊によるところの世界の小史(A Short History of the World According to Sheep)』(2020)。邦訳では人類史と意訳されているが、内容としては前半がほぼヨーロッパ世界、後半がほぼブリテン諸島(イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドなど)における歴史が中心となっている。なお、要旨は訳者(森)による後書きに体よくまとめられているため、それとは異なるアプローチで本著の内容を振り返りた

ハロルド・ハーツォグ『ぼくらはそれでも肉を食う——人と動物の奇妙な関係』|読書ノート#5

〖2023年5月2日更新〗 原著は『Some We Love, Some We Hate, Some We Eat: Why It’s So Hard to Think Straight About Animals(ときに愛し、ときに憎み、ときに食べる——動物についてまともに考えるのはなぜこうも難しいのか)』。本邦版の装画には、「ムツゴロウ」の愛称で知られる畑正憲のアクリルガッシュ画『次は何だろう?』(2001)、『日暮れ』(2002)が使われている。 「anthrozo

メアリ・ノリス『カンマの女王——「ニューヨーカー」校正係のここだけの話』|読書ノート#4

〖2023年5月17日更新〗 原著は『Between You & Me: Confessions of a Comma Queen』。著者はアメリカの老舗雑誌『ニューヨーカー(The New Yorker)』のヴェテラン校正者(copy editor)。英語という言語にまつわるあれこれや、校正(copy editing)という仕事にまつわるあれこれについて、「between you and me(ここだけの話)」とことわりつつ、著者の体験談を交えながら紹介している。 タイ

ミシェル・パストゥロー『図説 ヨーロッパから見た狼の文化』|読書ノート#3

〖2023年4月2日更新〗 原書『Le Loup: Une histoire culturelle』をAmazon.frで検索したところ、下記の投稿がレビュー欄にあった。 「狼は人間を襲う/襲わない」は、どうやら現代においても論争となっているようだ。上記のとおり、本書でパストゥローは「(史実に鑑みて)狼は人間を襲った」と主張する側に立っている。その中でも、狼に対する危懼(きく)は中世よりもむしろ近世(〜近代)に形成されたのだとする彼の記述は、筆者にとって新しく感じた。

清水知子『ディズニーと動物——王国の魔法をとく』|読書ノート#2

〖2023年3月22日更新〗 全体的な感想として、ロマン主義とダーウィン主義の両者がせめぎ合うアメリカにおける動物や自然に対する眼差しと、挫折を繰り返しながらそのときの時流に応じた軌道修正を重ねてきたウォルト・ディズニーの挑戦について、この本から垣間見ることができた。 ディズニーははじめから権利の運用に慎重だったわけではなかった。今日ディズニーを象徴するキャラクターとなっている「ミッキーマウス」は、いわば三度目の正直であり、その前には「アリス」と「オズワルド」があった(両

奥野卓司『鳥と人間の文化史』|読書ノート#1

〖2023年3月11日更新〗 ざっくり大別すれば、前半は「花鳥風月」という言葉の裏に隠れている日本人と鳥との関係(特に江戸期)、後半は日本における鳥を扱う営為(鷹狩、鵜飼、養鶏、鳴き合わせ、バードウォッチングなど)を取り上げている。そのため、全体的な内容からして「鳥と日本人の文化史」と言う方が近そうだ。 江戸期の記述では、「鎖国」と「生類憐れみの令」にまつわる誤謬を糺すことに多く紙面を割いている。いずれも後世における通称であって、その直前にあった文化を拒絶する意図が垣間見