マナリ

小説を書いてます。良ければ読んでみてください。

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最近の記事

【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】ブルーアネモネ(8)

マサさんは一度、店の外へ出て行き、すぐに戻ってきた。 「今日は臨時休業にするよ。有紀ちゃんもいない事だしな。ゆっくり話そうか?」カウンターの中に戻りながら、マサさんがそう言った。 「えっ?いいんですか?」 「ああ、河端ゼミの連中は、今日から助教の大川君の引率で台湾に研修旅行で行ってるから来ないし、他の学生は札見てよそに行くだろう。まあ、たまにはいいじゃねえか。」 「ホント、すいません。」 「いいって、コーヒー飲むか?俺も飲むから。」 「はい」 マサさんは、コーヒーの粉を入れ、

    • 【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】ブルーアネモネ(7)

      ■ 9月もあと数日で終わりという日なのに、今日はずっと真夏みたいだった。でも、夕方5時に迫ると、流石に辺りの空気は夕方のそれとなり、少しだけ温度も湿度も下がったような気がした。僕はTシャツ一枚だけだ。何か羽織るものを持ってくればよかったなと思いながら歩き、ブルーアネモネに着いた。 ドアを開けると、カウンターの中にマサさんがおり、有紀ちゃんはいなかった。 「お邪魔します。」 「いらっしゃい。流石いつも通り、時間通りだな。」とマサさんが言った。 「いや、そんな…約束を破るのが怖い

      • 【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】ブルーアネモネ(6)

        ■ 午後3時には、検査は全部終わった。 午後5時に、おじいちゃんの秘書の大友さんが病室に来て、「和臣さん、帰りましょう」と言った。 「えっ?帰れるんですか?」 「ええ、すぐに検査結果を出してもらいましてね。流石はお若い。取り敢えず、何も問題ないようです。で、過労という体調不良という診断結果になるようです。」 「そうですか。では、明日からは会社に行ける?」 「いや、それは診断書に2週間の安静が必要との事で、私から会社へは提出するようにしました。」 「分かりました。従います。」

        • 【創作大賞2024応募作・恋愛部門】ブルーアネモネ(5)

          ■ 僕は一人で各停の電車に乗った。11時半、こんな時間に新宿行きの各停に乗る人は少なく、ガラガラの車内で僕は一人座った。 僕のマンションは大学時代から変わらず、高見が原駅から3つ新宿に近い駅が最寄りだ。高見が原は急行が停まるが、僕の駅はそれがないので、通勤には通勤準急を使う。そうなると、たった3駅遠いだけなのだが、高見が原は急に縁遠くなってしまった事を実感していた。 たった3駅、たった3駅遠いだけだ。それなのに、僕は全くブルーアネモネに行こうとしなかった。あの僕にとってかけが

        【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】ブルーアネモネ(8)

        • 【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】ブルーアネモネ(7)

        • 【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】ブルーアネモネ(6)

        • 【創作大賞2024応募作・恋愛部門】ブルーアネモネ(5)

          【創作大賞2024・恋愛小説部門応募作】ブルーアネモネ(4)

          ■ 大きめにカットされた抹茶のシフォンケーキの載った皿が出された。 その後、プリンが載っている銀の足付きの皿が回された。今日は、デザートも豪華で、ブルーアネモネスペシャルだ。 「シフォンケーキにホイップクリームがいるヤツは、これから回すから自分で好きなだけ取ってくれ。後、プリンのメイプルシロップもな。」とマサさんが言うと、クリームが入った三角形の大きな絞り器をアカネに手渡した。アカネが絞ると、次に回す。その後すぐにメイプルシロップのガラスの瓶が回される。これも自分の好みでプリ

          【創作大賞2024・恋愛小説部門応募作】ブルーアネモネ(4)

          【創作大賞応募作・恋愛小説部門】ブルーアネモネ(3)

          ■ コーヒーの後、すぐにサパーセットがみんなに配られた。 ブルーアネモネ特製のサパーセットは、トレーのような1ディッシュに、耳を切り三角形に二つ切りされたバターがたっぷり塗られている厚切りのトーストがあり、その横に小学校低学年が履くビーチサンダルほどの大きさの小判型のメンチカツが一つ。このメンチカツも分厚くて、厚みは2㎝以上ある。メンチカツには店特製のソースがかかっており、これが普通の中農ソースとは違う味がして、美味さを引き立てる。そして軟式野球のボールほどの大きさでスクープ

          【創作大賞応募作・恋愛小説部門】ブルーアネモネ(3)

          【短編小説】ご挨拶

          「えっええ、あっは、いやどうも、マイク、入ってる?声がおかしくないか?大丈夫?大丈夫。OK。えっええ、本来ならば、新郎のお父様から両家を代表してご挨拶いただくものだとは思いますが、新郎、新婦のたっての願いで、私からも、一言、お集りの皆さんへご挨拶申し上げます。私は、新婦、深雪の父、井原恭一郎でございます。本日は、皆さま、ご多用中の折り、この若い二人のためにご来臨を賜り、誠にありがとうございます。皆さまのお蔭をもちまして、かくも盛大な結婚式を執り行う事ができました事、花嫁の父と

          【短編小説】ご挨拶

          【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】ブルーアネモネ(2)

          ■ ブルーアネモネは、外観に変化はなかった。それは当たり前だ。たった半年ぐらいで、急に古びたり、小さく見えたりしないものだ。でも、久し振りだから、ひょっとしたら何か違って見えるのではと思っていた。でも、全く変わりがなかった。 店のドアまでに外階段を4段上がると、入口の横の大窓から中が見える。日差しが強い日はブラインドが降りてたりするのだが、夏の終わりの今日は落陽の時間とはいえ、そんなに気にならないようで窓は全開だ。 僕はドアを開ける前に、窓から中を見た。 客はまだ誰も来ておら

          【創作大賞2024恋愛小説部門応募作】ブルーアネモネ(2)

          創作大賞応募作として「ブルーアネモネ」の連載を始めました。私にしては珍しく「録って出し」ですので、書きあがったものを順次上げていきますので、必ずしも定期的ではありません。宜しければお楽しみいただければと思いますので、何卒宜しくお願い致します。

          創作大賞応募作として「ブルーアネモネ」の連載を始めました。私にしては珍しく「録って出し」ですので、書きあがったものを順次上げていきますので、必ずしも定期的ではありません。宜しければお楽しみいただければと思いますので、何卒宜しくお願い致します。

          【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】ブルーアネモネ(1)

          ●あらすじ 私立清廉学院大学は、東京近郊の私鉄駅高見が原駅が最寄だ。駅前は栄えていて、大きな繁華街が広がり、商店街が伸びる。その商店街の端っこに僕たち清廉学院大学の河端ゼミの学生が足しげく通う店がある。「コーヒールーム・ブルーアネモネ」だ。 ブルーアネモネは、実は河端教授の自宅を改装した店で、店主(マスター)は僕らのゼミの担当教授・河端良平先生の義理の弟である正岡祥佑さんだ。 ブルーアネモネは変わった店で、夕方6時からオープンし、夜11時まで開いている。しかも店では酒は一切出

          【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】ブルーアネモネ(1)

          マナリです。引き続き創作大賞エントリーに関するお知らせです。ミステリー小説部門に完結している「探偵里崎紘志朗 My sweet dear」と、現在進行中の「探偵里崎紘志朗 Moonbow」も応募する事にしました。moonbowはこれから順次アップします。良ければお読みください。

          マナリです。引き続き創作大賞エントリーに関するお知らせです。ミステリー小説部門に完結している「探偵里崎紘志朗 My sweet dear」と、現在進行中の「探偵里崎紘志朗 Moonbow」も応募する事にしました。moonbowはこれから順次アップします。良ければお読みください。

          マナリです。いつもありがとうございます。「通じる」「通じるその後」を一つの作品「通じる」として、創作大賞の恋愛小説部門にエントリーしました。適えば応援していただきますと幸いです。何卒宜しくお願い申し上げます。

          マナリです。いつもありがとうございます。「通じる」「通じるその後」を一つの作品「通じる」として、創作大賞の恋愛小説部門にエントリーしました。適えば応援していただきますと幸いです。何卒宜しくお願い申し上げます。

          【短編小説】土砂降りの雨が降る

          8月、真夜中の銀座。 土砂降りの雨。 俺の車以外にタクシーはおらず、ただ一台俺だけコリドー街の近くの路地で無線待ちをしていた。 よく天気予報士が言う「バケツをひっくり返したような大雨」とは、今の状態を指すのだろう。 フロンドガラスを流れる雨水はもはや、粒ではなく、上から落ちてくる水の塊だ。 私は、アイコスをくわえ、ぼんやりと水に流れるネオンの灯りを見ていた。 少しの雨なら、売上が上がる。 しかし、土砂降りはダメだ。 こんなに暴力的な雨は、全くいただけない。 既

          【短編小説】土砂降りの雨が降る

          マナリです。先日、私が呟いた「そんなに遠くない…」カイトとメグリのビジュアルの件ですが、なんと「幸野つみ」さんにご協力していただける事になり、現在二人で構想をまとめている最中です。出来上がりましたら、本編の見出しと挿絵を更新させていただきますので、ご期待ください。

          マナリです。先日、私が呟いた「そんなに遠くない…」カイトとメグリのビジュアルの件ですが、なんと「幸野つみ」さんにご協力していただける事になり、現在二人で構想をまとめている最中です。出来上がりましたら、本編の見出しと挿絵を更新させていただきますので、ご期待ください。

          【短編小説】小生先生、走る!

          ■ 「では、これで添田先生のみんなの作文のコーナーを終わります。今日も添田先生、ありがとうございました。」 「こちらこそ、ありがとうございました。このラジオを聴いてくれてるみんなも、ありがとうございました。みんなまた、楽しい作文を書いて送ってくださいねえ。」 off… 「先生、ありがとうございました。」 「いや、ありがとうございました。では、私はもう行かなきゃ。」 「今日はどちらですか?」 「刑務所で慰問です。作文教室をやりに行きます。ああっと、もう時間がない。では、私は

          【短編小説】小生先生、走る!

          【ちょっとだけ推理小説】笑ってよ、ルーカス(3/3)

          ■ 私と、ルーカスは朝、病院から帰った。 家への帰り道、ルーカスが笑ったのを、私は問いただした。 「ルーカス、全部、分かったの?」 ルーカスは、鼻を鳴らした。 彼が鼻を鳴らす時は、まだ、という合図だ。しかし、真相には迫っているとみて間違いない。 「いいわ。じゃあ、分かったら教えてね。」 ルーカスは神妙な顔をして頷いた。 午後。署に出勤すると、形ばかりの捜査本部が設置されていた。 密室の殺人だが、家庭内暴力の行きつく先という様相を呈している今回の事件は、一人息子のヒカリ

          【ちょっとだけ推理小説】笑ってよ、ルーカス(3/3)