マガジンのカバー画像

ゆっくり動く乗り物で~都バスの走る風景

7
東京の自治体専門紙、都政新報に掲載されたイラストエッセイを再録しております。テーマは都バスです。
運営しているクリエイター

記事一覧

ある年、馬とすれ違う。【ゆっくり動く乗り物で~都バスの走る風景7】

急な団子坂を慎重かつ大胆に駆け上る都バス。 草63、「団子坂下」停留所付近(2017年) 余談だが、若い男女の会話劇、森鴎外の短編『団子坂』(『鴎外全集5巻』岩波書店所収)は魅力的。  人生には上り坂、下り坂、「まさか」があると言われるが、バスに乗車すれば少なくとも上り坂と下り坂は経験できる。  文京区の千駄木にある団子坂。この坂道を運行するバス路線は草63系統。池袋駅と浅草寿町とを結ぶ、都バスとしては比較的長距離を走る路線である。幕末から明治期にかけ、菊人形(全身を菊

安全安心…バスの本領【ゆっくり動く乗り物で~都バスの走る風景6】

 品川駅港南口から波01出入系統に乗車する。この系統は品川車庫からの出入庫を兼ねているだけに本数が非常に少ないため、事前に発車予定時刻の確認をしておくと安心である。  発車してほどなく、御楯(みたて)橋、浜路橋、五色橋と、橋のつく停留所が続く。首都高速に覆われて上空の見通しは良くないものの、五色橋を過ぎた頃から、海がちらちらと見えてくる。「この先、レインボーブリッジを渡ります。カーブが続きますのでご注意ください」というアナウンスが流れ、バスはダイナミックにループ橋を走破する。

そのバスでデビューする。【ゆっくり動く乗り物で~都バスの走る風景5】

<バスを撮っているように見えるが、本当は雷門を撮っているだけの女の子。> S-1系統「東京→夢の下町」、「浅草雷門停留所付近(2016年) デザインに特徴のある銀色のバスを描いた。 ※執筆当時、S-1系統には全便専用車(L代)が配車されていましたが、徐々に除籍が進み、2019年12月13日のL654号車の最終運行をもって、すべて一般車両に置き換わりました。  S-1系統、通称「東京→夢の下町」は、錦糸町駅前と上野松坂屋前とを結ぶ路線である。特別に改造された銀色のレトロ調

コイバナの夏【ゆっくり動く乗り物で~都バスの走る風景4】

<動く光と、これから動くもの。> 草41『千住桜木』停留所付近(2016年) 「足立の花火」終了時に備え、待機する発車する都バスを描いた。  「足立の花火」は、明治期に千住大橋の落成を祝い、打ち上げた花火が起源と言われている。大正13年、千住新橋の開通を記念して「千住の花火大会」と銘打ち、以後本格的に開催されるようになった。戦時および河川改修にともなう二度の中断期を経て名称を変え、現在に至っているが、例年隅田川花火大会よりも早い7月中旬に開催されることから、東京の夏の始

市場のバスはゆっくりと。【ゆっくり動く乗り物で~都バスの走る風景3】

<市01『築地中央市場』停留所付近(2016年)>   執筆当時、豊洲市場の移転日は2016年11月7日でしたが、その後延期が決まりました。実際の移転日は2018年10月11日となっております。(築地市場の最終営業日は2018年10月6日)  本文中、「座席がビニールシート仕様となっている」とありますが、これは執筆当時の状況であり、その後、車両の除籍にともない、すべてビニールシートではない一般車両に置き換えられました。  都バス 市01系統は2018年10月11日より行き

史跡に入浴-青梅市-【ゆっくり動く乗り物で~都バスの走る風景2】

<岩蔵温泉郷へようこそ> 梅74甲・梅74乙『岩蔵温泉』停留所付近(2016年) ※企画の構成上走行するバスを描いておりますが、実際にはこのような状況ではバスに乗ることはできません。青梅地域の都営バスは本数が非常に少ないので、事前に時刻を調べ、余裕を持って乗車しましょう。  五月病とは「4月に入った大学新入生や新入社員などに、1カ月を経た5月頃に見られる、新環境に対する不適応病状の総称」(大辞林第三版)。正式な医学用語ではないが、皆さんの間でも広く浸透した言葉なのではな

歩道橋から桜の丘へ【ゆっくり動く乗り物で~都バスの走る風景1】

<王40・草64・王55系統『飛鳥山』停留所付近>   年度替わりの時期、池袋駅東口から王子駅方面へ向かう都営バスに乗車する。滝野川二丁目を過ぎると、自動アナウンスが飛鳥山停留所の名称と、そこが桜丘中学・高等学校の最寄りであることを告げる。バスを降り立つと、文字通り、つきあたりに桜の丘が見えてくる。混雑がなければ15分もかからない。校名に桜のついた中学・高等学校の生徒たちは、春になるとこの花びらに思いをはせるのだろうか。放課後、桜の丘に鎮座する蒸気機関車や昔の都電のそば