潮田クロ

ポンコツ小説、他に文芸書や昭和歌謡の感想文などを書いてます。投稿にはフォトギャラリーを…

潮田クロ

ポンコツ小説、他に文芸書や昭和歌謡の感想文などを書いてます。投稿にはフォトギャラリーを使わせて頂いてます。クリエーターの皆さま、いつも有難うございます。 趣味で書いてますので、厳しいご批評はご容赦ください。オヤジをいじめないでください。仲良く、楽しくがモットーです。

マガジン

  • 新潮創刊120周年記念特大号を読む

    ネタバレアリです。

  • あの頃

    遠い昔。大学に入学した「あの頃」。これ、ほんとの話です。

  • サンドイッチとウィンナー総集編

  • 捜査員青柳美香の黒歴史総集編

  • 小説精読

    アイスネルワイゼン/桃/故郷/走れメロス

最近の記事

「独り剣客山辺久弥おやこ見習い帖」の構造

 笹目いく子さんのデビュー作である。売れ行きも好調のようで慶賀の至りである。感想も日々アップされ、可能な限り目を通している。それらを読むのはとても楽しい。 自分の感想は、まだこの作品が「調べ、かき鳴らせ」の題でネットに出てた頃書いたので、重複は避ける。避けるが、何か書きたい。ムズムズする。それで、作品の構造分析の真似事などしてみたいと思う。人の作品で勝手に遊ぶな、との批判もありましょうが、これも一興ということで、ご容赦願いたい。 物語で時に見られる構造に「繰り返し」という

    • 佐藤厚志「敦盛草」

       リアリズムの小説である。もう年いってるので、こういう小説を読むと安心する。  老夫婦の日常が描かれる。主人公の道子の夫は、二年前手術をしてから怒りっぽい。子供達は都会に出て戻ってこない。庭の敦盛草が盗まれる。自転車で転んで車に轢かれそうになる。一人暮らしの友達が孤独死する。もうすぐ近くのスーパーが閉店する。商店街はだいぶ前からシャッター通りだ。近くの信用金庫の集金鞄が盗まれ、鞄が家に投げ込まれる。干していたかぼちゃが盗まれる。  かぼちゃの件以外は解決しない。日常を淡々と

      • 朝比奈秋「雪の残照」

        春、雪解け頃の津軽の景色から始まる。主人公は僻地医療に派遣され村の診療所にいる。今から往診らしい。 題名が「雪の残照」なもんで、若い医師と美しい村娘との恋模様かと思った。 180度違った。ここは漁師町なのだ。ここでは漁師たちの前近代的な凄まじい土着の思考と行動が、罷り通っていた。なんというか中上健次的世界と言ったらいいか。ただし神話の要素はない。  村は新しく近代的な五階建ての病院を建てる計画がある。(診療所しかない漁村に、なんでそんなでかい病院建てるんだろう?) その承認

        • 石沢麻依「エコー、あるいはEの消失」

          物真似芸人は、日夜鏡の前で、その対象となる人を研究するそうである。声色。表情。口癖。仕草。ファッション。その人の言いそうなこと。その人の考えそうなこと。その人が怒りそうなこと。喜びそうなこと。悲しむこと。何に希望を持っているのか。大好きなこと。大嫌いなこと。憎む人間。自分の嫌いなところ。自分にしかわからないこと。自分とは誰か。突き詰めた芸人は、大概病院行きだと言う。 主人公の名前はエコーと言う。エコーには、こだま、反響、繰り返し、共鳴、模倣などの意味がある。だから、エコーに

        「独り剣客山辺久弥おやこ見習い帖」の構造

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        • 新潮創刊120周年記念特大号を読む
          28本
        • あの頃
          26本
        • サンドイッチとウィンナー総集編
          3本
        • 捜査員青柳美香の黒歴史総集編
          3本
        • 小説精読
          57本
        • 昭和歌謡名曲集
          65本

        記事

          高橋弘希「箱」

           中学校の道徳の時間にお話を読まされた。読んで感想を言わされたり書かされたりした。その後、先生がそれらしいことを言って授業を締めた。 今の子達はディスカッションなどさせられると聞く。パソコンに自分の意見を打ち込んで、似た意見がグループ分けされて、討論したりすると言う。誠に気の毒なことだ。生徒がホントのことを書くわけがない。教師が喜ぶようなことを書くに決まっている。或いはわざと反道徳的なことを書くかも知れない。何にせよ二、三回やると飽きるだろう。  中学生の時、読まされたお話で

          高橋弘希「箱」

          純文学の感想でネタバレすること

          「新潮創刊120周年記念特大号」全部読む、というマイ企画進行中である。その中でしばしばネタバレの粗筋を書いてしまう。今回はその弁明である。 勿論私とて、推理小説で犯人を書いたりトリックのネタバレなどやらない。ミステリーやクライムノベルで主人公の行末など書かない。なのに純文学ではなぜ書くのか。 端的に言って、純文学は何が書いてあるか、よく分からないからである。一読して納得できるものが少ない。読み終わって、うーんと考えて、もしかしたら、これはこういうことではなかろうか、といった仮

          純文学の感想でネタバレすること

          市川沙央「こんぺいとうを拾う」

          主人公はとげのある女性だ。自分のこだわりを曲げず公言するので、みんなに嫌われている。エスカレータでは、自分のポリシーを曲げず右側に立ち、突き飛ばされて入院する。それで仕事も失う。今はオルゴール専門店のオーナーに拾われて、そこで働いている。店に初めて来た時、主人公はチャイコフスキーの「金平糖の精の踊り」を聞く。  再就職して、主人公はエスカレータの左に立つ。とげのない人間になろうとする。その不快を抑える薬として、こんぺいとうを口にする。こんぺいとうは自作でとげがない。主人公はモ

          市川沙央「こんぺいとうを拾う」

          千葉雅也「プロンプト」

          これもまた分かりにくい話。分かりにくい時は、粗筋書くに限る。 まず、浮沈子の話がある。ストリートビューで、ロイヤルホストを見る話になって、大阪への引越しの話になる。勤めている広告会社の話になって、派遣バイトで肩パンされた話になる。大阪に行ったのは嘘で、広告会社の前にwebライターをやった。そこでAIを覚える。そしていたずらに日記を書き、AIに続きを書かせる。2024年の日記。2000年代に行ったロイヤルホストを訪ねる日記。 書かせておいて僕は、作り話にも動かしちゃいけない事

          千葉雅也「プロンプト」

          新潮新人賞受賞から十年ーー何を考え、どう書いてきたか

          上田岳弘、小山田浩子、滝口悠生のお三方の鼎談である。デビュー作、転機になった作品、今の時代で小説を書くということ、といったテーマで語られる。 私は、前二つも面白く読んだが、最後のテーマはことさら興味深かった。  コロナ、ウクライナ、地震、パレスチナ、AIといった現代に小説を書く意味は? 時代との向き合い方は?   こんなお題出される純文学の作家さんは大変だなぁ、て正直思う。そんな全員が大江健三郎じゃあるまいし、戦争経験しても「虫のいろいろ」書いてた人もいるし。別に「虫のい

          新潮新人賞受賞から十年ーー何を考え、どう書いてきたか

          閑話(無駄話)

          「新潮」、半分くらい読んだ。次は新潮新人賞受賞10年の作家さんの鼎談。申し訳ない、お名前を存じ上げない。でもだから楽しみでもある。どんな文学観をお持ちか。どんな感じの作品をお書きなのか。 昔は新聞に文芸時評てのがあった。読んで気になる作品は本屋で買った。今、時評が季評になって、更に新聞も読まれない。少なくとも僕は取るのをやめた。 じゃ、何を目当てにして人は本を選ぶのか、新聞が駄目なら文芸誌か。しかし、こちらの時評もなくなった。載るのは新人時評だけである。なんで? なんだか

          閑話(無駄話)

          保坂和志「書く、前へ前へ」

          2ページのエッセイである。保坂さんは、以前、好きな作家だった。「この人の閾」で芥川賞をとって、読んだらとても面白かった。で、「プレーンソング」まで遡って、「季節の記憶」まで読んだ。「カンバセイション・ピース」で挫折して、それから読んでない。 「書きあぐねている人のための小説入門」という本もあって、とても面白かったが、内容は忘れた。 保坂さんは、小島信夫をかっている。彼の小説をやたら褒める。ここでも褒めている。 どこがそんなにいいのかというと、彼は結論を求めずに直感で書いている

          保坂和志「書く、前へ前へ」

          中村文則「満員電車」

          人が密集すると熱狂と歓喜が生まれる、と昨日書いた。 だが、満員の通勤電車でそれは生まれない。自ら望んで密集するものと強制的に密集させられたものとの差だろう。だから後者では、みんな自分を守るため必要以上に攻撃的になり自己中になり粗暴になる。外の世界で、たとえ戦争が始まっていたとしても。 絵が動かない。ずっと満員の電車の中だ。人々はその中でひどく押され悪態を吐き続ける。事態は一向に好転しない。ただ押され、我慢し、その捌け口のように、悪態をつき続ける。みんな自分のことしか考えてな

          中村文則「満員電車」

          松浦寿輝「接触の瞬間」

          毎回、どう読むのか忘れる。ジュキ?じゃないだろうな。ヒサキ。ああ、そうだった。絶対32回くらい悩んで、七回くらい調べた。でも、すぐ忘れる。ジュキ?じゃ、ないだろうなあって。 東京大学仏文科の名誉教授である。東大の仏文と言えば、太宰治から大江健三郎まで、作家の宝庫である。昔は、文学なら仏文だったのだろう。 よく知らないが、大学でフランス語始めて、そんなペラペラ読めるものなのか。まして、文学とか哲学とか。謎である。 松浦寿輝氏もその流れにいる。芥川賞を獲った「花腐し」なんて日本

          松浦寿輝「接触の瞬間」

          平野啓一郎「鏡と自画像」

          平野啓一郎さんは京大在学中に「日蝕」で芥川賞をとる。「薔薇の名前」ばりの西欧中世の話を擬古典調の華麗な文体で書いた。と思う。読んだがもう忘れた。また、去年だったか「三島由紀夫論」を発表された。雑誌連載の頃、とびとびだけど読んでいた。とびとびだけど、読んだところは、とても面白かった。今、男子純文学界の希望の星らしい。知らんけど。 で、本作であるが、わたしには全くついてけない。論理が錯綜して、頭の中で整理できひん。円城塔さんに続き、トホホである。もう仕方ないので整理できないまま

          平野啓一郎「鏡と自画像」

          「新潮創刊120周年記念特大号」全部読む、というマイ企画継続中。普段名前は知ってても手に取らない作家さんの短編、楽しく読んでます。好き勝手に誤読させてもらってますが、皆さん流石です。唯一無二の確かな自分の小説世界を持ってらっしゃる。誰にも似てない。すごいなあ、と感嘆しきりです。

          「新潮創刊120周年記念特大号」全部読む、というマイ企画継続中。普段名前は知ってても手に取らない作家さんの短編、楽しく読んでます。好き勝手に誤読させてもらってますが、皆さん流石です。唯一無二の確かな自分の小説世界を持ってらっしゃる。誰にも似てない。すごいなあ、と感嘆しきりです。

          円城塔「天使とゼス王」

          SFは苦手なのでよく知らないけれど、それでも伊藤計劃さんと円城塔さんの御高名は伺っていた。 その後、円城塔さんは純文学方面にも進出され、文学界新人賞の「オブ・ザ・ベースボール」は話題になった。空から人が降ってきて、それをバットで打ち返す。漏れ聞いた筋に、到底私には読めないと敬遠した。芥川賞では全否定だった。 次に「これはペンです」が芥川賞の候補になった。この次で受賞するのだが、今回と次回、選考委員の意見が真っ二つに割れた。大体の図式は、慎太郎さん輝さんのぶ子さんが反対に周

          円城塔「天使とゼス王」