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登校拒否は、半年ほどつづきましたが、小春はなんとか、登校をはじめたのです。

ですが、中学にあがると、小春の不登校は、より多くなってしまいました。

同級生の男子は、男っぽくなります。


そして、上級生は成人男性と、そんなに体格がかわりません。

さらに、心ない女子生徒が、小春に対して、的外れな陰口をしていたと聞いたことがあります。


『自分のことかわいいと思ってる』と。


その陰口を、私は直接、耳にしたことはありません。


ですが、もしかしたら小春は、登校したときに、間接的にでも聞いてしまったことがあるかもしれないです。

それでも、テストのときはちゃんと学校へきて、保健室で受けていました。

成績は、私なんかよりずっとよかったのです。


休みの日は、小春と一緒によく出かけました。

中学の友だちの子と3、4人で遊ぶこともあったのです。


小春は、中学校にはほとんど登校しなかったのですが、ちゃんと中学の友だちは、いました。

私たちの通う中学校は、遠足のときは私服だったのです。

私は服を選ぶのが苦手なので、小春に選んでもらいました。

そして遠足の当日、私は小春に選んでもらった服を着て行ったのです。


小春のお陰で「咲ちゃんおしゃれだね」と、たくさんの子に言ってもらえました。

私はうれしくて「小春が選んでくれたんだよ」と、こたえていたのです。


そうしたら「小春ちゃんと一緒に服を買いに行きたい」と、ふたりの子が言ってきました。


学校の子と、服を買いに行くとなると、休日の混雑した場所になってしまいます。


混雑した場所はどうしても、男性との距離が近くなってしまうこともあります。


そういったところへ行くのは、小春には無理でした。


小春は服が好きで、よくリサイクルショップへ、古着を見にいっていたのです。


そのときも、店内に男性のお客さんが多いと帰ってきていました。


気軽に買い物に行けないのは、間違いありません。


私はふたりに「小春は買い物に行けないんだ」と、伝えたのです。


そうしたら、その子たちは「そっか」と、すんなり小春の事情を汲み取ってくれました。


そして、「小春ちゃんに、服の選びかたを教えてもらえることってできないかな?」と、聞いてきたのです。


私は「小春に聞いてみる」と返しました。


私は遠足から帰って、小春が選んだ服をみんなにおしゃれだね、と言われたことを伝えたのです。


小春はうれしそうにしていました。


つづいて私は、小春に服の選び方を教えてもらいたがっている、ふたりのことも伝えたのです。


それを聞いて小春は「えっ、私そんなことできるかな」と、言っていました。


ですが、私は「いいじゃん、大丈夫だよ」と話を進めたのです。


そのいきおいで私は、同級生を施設に呼ぶ許可を、職員さんにもらいに行きました。


そして、ふたりは休みの日に、私たちの施設へ来てくれたのです。


ふたりは積極的に小春へ質問しました。

小春はそれに、遠慮がちですが、丁寧にこたえていました。


私は服に関して、うといので、小春とこいう話ができません。


好きな話をできる友だちが、小春にできてよかったと思ったのを、おぼえています。


さらに、ふたりがその日に着ていたものと、私たちの服を使ってふたりをコーディネートしたりしました。


そうして、一通りファッションの話がおわったあと、ふと沈黙がながれたのです。


私は、なぜかその沈黙を何とかしないといけないと思って「公園にでも行く?」と言いました。


私は、言ってから後悔したのです。


小学生でもないのに、公園だなんて。


ですが、遊びに来てくれたふたりは「公園なんて行くのひさしぶり」と、私の案にのってくれたのです。


そして自転車にのって、4人で公園へむかいました。


梅雨があけたあとで、外は日差しが、つよかったです。


公園には、だれもいませんでした。


私たちだけです。


その公園の近くには、遊具が充実した、別の大きな公園がありました。


なので、みんなそちらへ行くのです。


こちらの公園は、さびたブランコと、小さなすべり台、あと背のひくい水飲み場だけでした。


中学生の私たちには、あきらかにサイズがあわないすべり台を、一回だけすべったのです。


つづいて、ひさしぶりのブランコで、すこしだけ、はしゃぎました。


私たちは、すぐにこの公園でやることがなくなってしまったのです。


そして、ブランコの持ち手のさびが、手についしまってていたことに気づきました。


それで、私たちは水飲み場へ手を洗いにいったのです。


上と横に蛇口がついているタイプの、水飲み場です。


横から突きでている蛇口で、順番に手を洗っていきました。


最後に、遊びに来てくれた子のひとりが、手を洗いおわって立ち上がるときでした。


もうひとりの子のほうが、上についている、水を飲むための蛇口をひねっていたのです。


そして、水のでる穴を指でふさいで、すこしだけ隙間をあけて、水圧を利用して、立ち上がった、その子に水をかけました。


私と小春は、あっけに取られていました。


ですが、水をかけたほうも、かけられたほうも大笑いしていました。


そして、もう一度おなじように水をかけたのです。


けれど、今度はかけられた子も、おとなしくしていませんでした。


水飲み場の横の蛇口から出した水を、両手で受けて、それで反撃をしました。


反撃をされた子は、逃げていったのです。


反撃した子は、さらに両手に水を汲んで、追いかけていきました。


追っかけられながら、きゃーきゃーとたのしそうに叫んでいました。


小春はそれをみて笑いながら、出しっぱなしの横の蛇口を、しゃがんでしめたのです。


私は、おなじく出しっぱなしだった上の蛇口をつかって、立ち上がる小春にむけて水をかけました。


小春も私も、大笑いでした。


そこに、追っかけていった子が、水飲み場へかえってきました。


追っかけているうちに手からこぼれてしまった、水を補給にもどってきたのです。


両手に水をためて、また追いかけにいくと思ったら、両手の水を私にかけました。


もう濡れていない無事な子はいません。


そこからは、はちゃめちゃでした。


敵も味方もありません。


誰かに水をかけにいくと、その後ろから誰かに水をかけられます。


水飲み場へ水を補給にいくと、上の蛇口で攻撃されます。


さっきまで、服の話をしていたのに、みんな服はびしょ濡れになって、おしゃれもあったものではありません。


「もういい加減やめようよ」と、ひとりが言いだしました。


私たちは「うん、わかった」と、返事をしたのです。


「水だしっぱなしじゃん」と、みんなで蛇口をしめにいきました。


ですが、「やめようよ」と言いだした筈の子が、上の蛇口をしめるフリをして、手のひらで噴水口を押さえつけました。


水は、いきおいよく手のひらのあいだから飛び散りました。


その子は自分にかかるのもかまわず、みんなに水をかけたのです。


私たちは、また「きゃーっ」と逃げだしました。


そして「ほんとにもうやめよ」と口をそろえて、また水飲み場へ蛇口をしめにいきます。


ですが案の定、裏切られ、水をかけられて、はしって逃げる。


「もうなしだからね」と言いつつ、また誰かが裏切って、水をかける。


それを、こりずに何回も、バカみたいに繰り返していました。


本当に楽しくて、しかたなかったのです。


あんなに笑って、きゃーきゃー叫んだのは、後にも先にもなかったかもです。

いまでも、あのとき楽しかったね、という話を小春とたまにします。


ふたりとは、そのあとも、何回か遊びました。

 

 
 
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