東方創想話における秘封倶楽部作品についての感想的なもの

 秘封倶楽部を愛読する人や書いたことがある人は大抵理想の秘封倶楽部というものを持っていて、もちろん秘封に限らずですが、完全で理想的なものを読んだ、もしくは書いたと胸を張って言える人は少ないのではないかと思います。少なくとも私はそうですし、何なら完璧な秘封倶楽部というものが自身の頭の中にぼんやりとあるばかりで、完璧な言語化はできません。

 東方全体にも言えますが、キャラクターや世界観が二次創作によって独り歩きし、多様性を持つことが多いように思われます。そしてそれは個人の頭の中に混濁した状態であるから、他人と見比べた際にどうしても差異ができてしまうのです。

 ほとんど完璧だけど、この部分だけは理想と違うとか、そういうことを理解したうえで、隔たりの距離を測りながら読むのも二次創作の醍醐味であると私は思います。私の中では秘封倶楽部は、その微妙な差異を最も楽しめる組み合わせだと思っています。

 彼女らだけの独立した世界観で、幻想郷と少し離れた場所に在り、なおかつ覗き見ることのできる第三者という特殊な立ち位置にいる二人です。しかも人間ですから、妖怪に比べて少し近くにいる気もします。

 そんな二人を定義するのは、公式のブックレットだけでは足りません。

 ZUN氏がどこまでを構想しているのかは想像もつきませんが、すべてが公にされることがない以上、日々不毛な考察やふざけた妄想を繰り返し、各々がこれぞ秘封倶楽部だというものを探訪し続けているのだと思います。いまだに議論が絶えないのは、彼女らが魅力的でありながら、定義ができないからだと思います。

 長くなってしまいましたが、私が秘封倶楽部とは何ぞやと思い直すきっかけを与えてくれた東方創想話に投稿されているうち、三つの秘封作品の、感想のようなものを書かせていただきます。


1、 “妖精憑きのマエリベリー”

著 よみせん氏
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/227/1578312894/1#body

 言わずと知れた近年の傑作です。今更長々と語るというのも変な感じがしますが、非常に面白く、2020年の創想話の秘封作品を代表するものだと思うので書かせていただきます。

 緻密にサイエンスとファンタジーの融和がなされた作品でした。不便で残酷で、それでも楽園的である幻想郷と対になる科学世紀には、利便性とそれに付随するディストピア感があるような気がします。

 作中で科学世紀を生きる大人であるグレッグ先生は、メリーの見る不思議な夢を拒絶しているように思えますが、その一方であまりにも力強く、かつふわふわと前に進み続ける、蜂と蝶みたいなメリーに振り回される中で、抑制するべきか否か、ひたすら誠実に迷っているように映りました。幻想を拒絶することが科学であると定義してしまえば、それはいささか閉鎖的であり、支配に満ちた文明の成れの果てのように思えますが、そこがまた絶妙なバランスでして、不穏分子を除こうとする働きかけこそあるものの、決してお互いを完全に否定することはありません。

 アンバランスな世界で、底抜けに秘封倶楽部の二人が前向きであったため、初めて読んだ時は、物語全体がぱっと明るい印象を受けました。科学が飽和状態にある中で、時折謎めいた幻想が顔を見せること(狐のぬいぐるみなど暗喩的で好きです)、そしてその歪な関係性を大人であるグレッグ先生が受け入れてくれたこと、そこに美しい融和を感じ取りました。
 勿論、秘封倶楽部の出会いの物語としても面白かったです。キャラクターとして二人とも好奇心のままに突き進むイメージがあったものですから、二人ともとても気持ちよく動いてくれていて、よしいいぞ! やったれやったれ! みたいなテレビを見て野次を飛ばす気分で読むことができました。楽しんだ後の余韻に浸る間、科学世紀とは何ぞやと、思い直すことができました。


2、i really really really...

著 tama氏
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/229/1589728808

 この作品を読み解くことはいまだにできていませんが、強烈なインパクトがしばらく私の脳を揺さぶった作品であります。読むと辛いので、できれば読み返したくないです。ですが素晴らしい作品ではあります。

 秘封倶楽部とは不穏因子である、と言わんばかりにこの蓮子は一般的な倫理から逸脱した行動をとり続けます。父親の子を孕もうとするシーンなど、あまりにも衝撃的です。そこには確かな矜持のような何かがありますが、完全な狂人とも思えないのです。というのも、蓮子の感情は作品内で何度も揺れ動いており、自身の行いを顧みて後悔や絶望に至ることすらあります。そのことを落ち着いてから負け惜しみのように嘲ることも。そこに人間味を見出してしまいました。気分が大きくなり調子に乗って酒を呑み、酔っ払いまくって吐いた時に後悔するのと同じなんじゃないかと、そんなはずがないのですが、それだけこの作品内の世界観に浸ってしまうパワーがありました。なんというのでしょうか、奈落に引きずりこまれ、吐きそうなほど鬱屈とした空気の中、一輪の百合の花を見た感覚です。あまりにも人間や現実が露悪的に表現されていて、かと言って幻想が花畑のように描かれているかと言えばそうでもない、地続きである絶妙な距離にあり、隣の芝は青く見えてるだけで、ただ蓮子がそこに救いを求めているようにすら思えます。

 蓮子は非道ですが、狂気に満ち溢れているというより、単に肌が幻想郷の空気に合っていただけのように感じます。

 狂人に徹したのはむしろメリーの方だと感じました。ずっと妄念に囚われた蓮子の傍らに在りながら、リアリズムを保ったうえで秘封倶楽部に依存しているようで、あまりにも化け物じみています。最後のシーンでそう強く思ったのです。ハッピーエンドを否定して、物語を頑なに終わらせようとしないその姿に、私は恐れを抱きました。私は悪辣非道な敵役であっても、植物や動物が好きとか、重い過去を背負っているとかそう言う描写がなされると、その部分の甘みを存分に享受してしまう都合のいい舌を持っているのですが、このメリーはずっとメリーであり、最後の最後に嫌な後味を残していきました。最初から最後までニガヨモギの味が抜けない作品ではあるので、読む際苦痛を伴いましたが、それでも頭から離れない強烈さがありました。


3、中卒メリー2.0’

著 カニパンを飾る氏
https://coolier.net/sosowa/ssw_l/236/1622474960

 中卒メリーってなんですか? 新たな概念にぶつかりました。中卒メリーは決してマエリベリー・ハーンではないのですが、間違いなくマエリベリー・ハーンであります。

 この作品は皮肉に満ちてはいますが、それでも秘封倶楽部という存在の懐の深さと暖かい肯定の意を感じ取りました。秘封倶楽部というものが神格化されていて、それに群がり神様になろうとする一般人が沢山いて、その人たちの中でもあぶれたはみ出し者が今作の主体としてある秘封倶楽部なのだと思います。

 中卒というのも、秘封倶楽部は大学生であるという要素、あるいは概念ををことさら強く揶揄した表現だと思うのですが、それでも中卒メリーには理性や彼女なりの思考が存在して、魅力的であります。カフェでの会話や墓場に鉄パイプを持っていくという描写が印象的かつ象徴的だと思うのです。突飛な行動をしますが、狂気や無知、阿呆ゆえ、もっと言うとマエリベリー・ハーンというキャラクター故ではなく、彼女なりの行動基準があるからで、自我を持って生きています。

 秘封倶楽部だけど、秘封倶楽部とは別物である、という二重思考を抱きながら、それでも己を肯定しながらマエリベリー・ハーンに徹することができるのは、強い自我をちゃんと持っているからだと、私は解釈しました。

 蓮子がそんな中卒メリーとの出会いや語らいの中で、自身を見つめ直し、諦念を抱きながらも再起に至れたことが、非常に愛おしく思えるのです。

 中卒メリーは紛れもなくマエリベリー・ハーンであるという強い肯定、秘封倶楽部を1.0として、メタフィクション的な読み方ですが二次創作を2.0と仮定すると、中卒メリーは二次創作のメリーでありながら、2.0ではない。それでも秘封倶楽部として成立していて、蓮子がそれを自覚し、前向きに歩み始める物語だったのではないかとそう思うのです。

 全くの余談ですがこの作品を読んで、私は今回の妄想を書き連ねようと思い至りました。神秘性と親近感を合わせ持つ秘封倶楽部という概念は、頭の中で何度も上書きされ、正直なところ、わけがわからなくなっております。所謂秘封界隈というのも、現状もそんな感じなのではないかと。そんなカオスを小馬鹿にしつつも丸ごと肯定してくれた作品だと、私は思い込んでしまいました。



 さて感想をつらつらと書きましたが、やはり秘封倶楽部はいまだに定義できません。むしろ妄想の幅が広がるばかりで、拗らせてしまうのではないかと。今回は比較的新しい三作だけでしたが、幻想を垣間見る秘封、死と向き合う秘封、カフェテラスで駄弁る秘封、摩訶不思議な秘封、依存的で欲望の渦中にある秘封、人間を描く秘封、等々魅力的な作品で溢れており、私の秘封感はこれから何度も上書きされ続ける予感がしています。

 ここまでだらだらとした感想とも批評とも称し難い文章を読んでいただきありがとうございます。最後に宣伝させていただきます。読んでいただけたら幸いです。

鉄くずの街        https://coolier.net/sosowa/ssw_l/229/1590671490

学食の日           https://coolier.net/sosowa/ssw_l/229/1593179846

……いずれ科学世紀に真っ向から切り込んだ作品を書いてみたいです。


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