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#6 火曜日の大売り出し

今日は火曜日だ。大売り出しの爆弾セールをやろう。インドでは爆弾のことをダマカという。そこらの店にダマカ・セールの貼り紙をよく見かける。

一体何を売るかというと、おれはこう見えてもプロの作家なので、文章を書いてそれを売るのだ。

といって別に、押し売りをするわけではないから安心してくれ。

きみは別に商品を手に取る必要すらない。

携帯の画面を撫で回すか、pcにつながったねずみちゃんをちょこまか動かしてかちこちボタンを押すか、そうして画面に現れる奇怪な象形文字と表音文字の羅列する呪文を、1450グラムの脳髄で素敵な仮想現実の銀幕に投影して、楽しい幻想風景を見ていただくだけのことなのだ。

ほら、きみの目の前にインドの蛇使いが座っているのが見えるだろう。奇妙な形の縦笛をびーびゃー吹き鳴らして、あぐらをかいた体の前の、籐の籠の蓋を頭でつついているキングコブラが、きみにはまだ見えないけれども、笛の音に刺激されて踊りを始めようとしてるじゃないか。

でもうっかり蛇使いの男と、目を合わしたりちゃならんぞ。目を合わせたらきみに食いついて、離れなくなるのが彼らの商売だからな。

びーうびーびゃ、びーうびーびゃ、びーびゃびーびゃびーうーびゃと奏でられる異国の旋律で心がいっぱいになっても、男の目だけは見ちゃいかん。

よし、そうだ、男の目からは視線を外して、白く輝く画面に映し出される、黒くうねうねとのたくる陰影の線画に意識を戻してやるんだ。

何しろ火曜日の大売り出しはもうこれでおしまい。看板だおれの湿気た線香花火が、夏の終わりにそっときみにだけ見せてくれる、裏さみしさに溢れているのに、どこか懐かしい苦さとともに、ふやけた汗臭さが漂ってくる、東の果ての島国の場末の幻へとやがてすべては収斂していくことになっているのでね。

さよなら三角また来て四角、函館行くなら五稜郭、よい夢を見て明日にはすっきりと目を覚ますために、今宵はさっさと床につこうじゃないか。

出鱈目な大売り出しに散財することなく、空き時間の無害な詰め草を笑い飛ばして、横になってさえしまえば、安らかな眠りが来るか来ないかには関係なく、とにかく体を休めて果てしのない明日に備えるだけの人生さ。

(北インド・ハリドワル 2021-08-24)

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