11 「情死男」太宰治と「寝盗られ男」辻潤

昨日の記事にも書いたけど、太宰と辻は一見正反対のようでいて、深いところでは共通しているところがあるんだよね。

多数派の社会に馴染めない、少数者からの熱烈な支持を受けているところなんか重要な共通点でさ。

太宰は希死念慮が強くて、何度も自殺や心中を繰り返してる。

最初の心中のときは一緒に海に入り、女だけ死んで自分は生き残った。

自殺も本当に死ぬ気はなくて狂言自殺だという人もいる。

最期は妻子のある身なのに玉川上水で女とと水の中へ。女に殺されてから、女によって水の中へ引き込まれたのだという説もある。

それに対して辻潤は、生にも女にもそれほどこだわらない。

20代半ばで女子校の先生をしていた辻は、郷里に帰った卒業生が、見合い結婚をすっぽかして東京に家出してきたのを匿う羽目になり、高校を辞職してその教え子と結婚。この卒業生が、のちに女性運動家として有名になる伊藤野枝だ。

辻は何も知らない田舎娘の伊藤に平塚らいてうの雑誌「青鞜」を紹介し、そこから彼女の活躍が始まる。また辻の交友関係から福田英子、渡辺政太郎といった人物を通してアナキスト大杉栄とのつき合いも生まれる。

この自由恋愛論者の大杉栄が、やがて辻から伊藤野枝を寝盗り、辻は「寝盗られ男」として名を馳せてしまうのだ。

関東大震災後のごたごたの中で、甘粕という軍人が、大杉栄と伊藤野枝、そして二人がたまたま連れていた大杉の甥っ子を惨殺するという事件によって、「寝盗られ男」辻潤の名が歴史に残ることが確定する。

この辺りのいきさつは辻の随想「ふもれすく」に詳しく、青空文庫でも読めるので、興味のある方はどうぞ検索してお読みください。淡々としていながらも、うっすらと寂しさを湛えた辻の心情が伝わってくる名文です。

さて、こうして二人を比較してみると、自らのエゴで突き進む太宰と、流れに身を任せる辻潤という対比が見えてくる。

持って生まれた性質が違うから、処世の方法が違うのだ。

けれども、多数派の常識に従うことができず、また従う気もない、という点では二人の生き方は重なり、そこにおいて多数派社会に違和感を持つ少数派からの強い共感を得るわけである。

太宰のファンと辻のファンはおそらくほとんど重ならないだろう。

ぼくのことを言えば、太宰の生き方については理解はするが共感はしづらい。ぼくの中には太宰のように他者を巻き込んでまで自分の世界を強化しようというエネルギーはないからだ。

巻き込まれ型という点では辻に似るぼくの場合、飢えて孤独死をするという形で即身成仏を遂げるほどの徹底はないものの、煙のように大気の中に、あるいは春の水のぬるみに氷が溶けるように、自我の境界をとろけさせて浮世から離れてしまいたいという意味では、太宰よりも辻の生き方に強く共鳴するのである。

というわけで今日も2本の親指の赴くままに、言の葉を紡いで繭作りに励みました。

相変わらず何かが不完全燃焼なのを感じながら、今日はこの辺で携帯をおくことにします。

それではみなさん、ナマステジーっ♬

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[ネットで拾った辻潤の写真]

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