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25 炎の儀式、煙の儀式。そして謎の女・箕奈ミナコの話

トップ画像の中央、炎の向こうには、インドの三大神、ブラフマ、ヴィシュヌ、シヴァの三位一体の生まれ変わりである神人、ダッタトレーヤ尊者が鎮座ましましておられます。

昨夜の神を讃える儀式(アルティといいます)を執り行なっている最中に、丁度停電になったため、普段はお目にかかれない、闇の中、灯火だけが辺りを静かに照らす、厳粛な場面が訪れたのでした。

わたくしが寄宿している北インド、ハリドワルのベーロウ寺では、このダッタトレーヤの他に、本尊のアーナンダ・ベーロウのお堂とシヴァ神の陽根であるリンガを祀ったお堂があり、朝夕のアルティの儀式では、これらのお堂に加え、お堂の周りに祀られているもういくつかの神々に対して、初めはお香を焚いて煙により浄めの儀式を行ない、次には、綿をぐるぐる巻いて5本の大きな燈芯を作って燭台に載せ、油に浸して火を灯し、炎による儀式を行なっています。

このお香の煙と炎の儀式を行なっている間中、機械じかけで鐘と太鼓がきんこんどんどこ鳴り響き、さらには数人の行者が釣り鐘を鳴らしたり、ダムルーと呼ばれる双鼓の巨大なでんでん太鼓を鳴らしたりと、とにかく賑やかにやりまして、魔を払い、神を呼び寄せるのです。

騒音と言いたくなるほどのこの音のうねりに身を任せていますと、おもしろいことにそこにあるはずのない音が聞こえてくることがあります。

頭の中で音が飽和状態になり、倍音などの関係からある種の「空耳」が生じるのだと思いますが、「べいしゅまっ、はっはっ」みたいな人の声が、太鼓の音に刺激されて聞こえてきたり、また別のときには鐘の音の間から祭り囃子の笛の似た「ぴいーびうーー、ぴよーーおうーーっ」などという甲高い音が聞こえてきたりと、これがまたおもしろいんですよ。

さて、ヒンズーの行者たちがこうして神に捧げる儀式を行なっているのを見ていると、白装束の東洋人の女がひとり行者に混じって参拝客の整理などをしているのにあなたは気づくことでしょう。

こんなこてこてのヒンズー寺に北アジア系の女? チベットかネパールの女性だろうか。アッサムとかシッキムとかの可能性もあるな……。

インド周辺の事情に詳しいあなたなら、そう考えるかもしれませんが、この東洋女は名を箕奈ミナコ(仮名)といい、れっきとした日本人なのです。

ルパン三世に謎の女・峰不二子という登場人物がいますが、この呼び名を借りて、謎の女箕奈ミナコについて少し説明をいたしましょう。

この女、謎の女と呼ばれるくらいですから、正体がまったく不明なのです。

彼女がガンジス川の聖地バラナシに現れて、インド楽器屋にいたときのことです。そこに楽器屋の馴染み客の別の日本女性がやってきました。楽器屋が英語で、この人は日本の人だよ、とミナコのことを馴染み客の女性に紹介します。

けれども女性は不審な顔をしています。ミナコの身なり、振る舞いを見ても、話し方を聞いても、どうも日本人とは思えない……。

しばらく日本語と使って話したのに、最後にこの女性は「本当に日本人ですか?」と聞いて半信半疑のまま店を出ていったのですから、ミナコの身元不詳の具合が想像できるというものでしょう。

あるときは日本人と結婚した外人妻、あるときはタイの島のバンガローで働くビルマの少年、あるときはコルカタの宿の前でのんびり座ってるベンガルのおば様、そしてあるときはお岩さんもびっくりの顔に巨大なこぶがいくつも出たり引っ込んだりの妖怪変化、果たしてその実態は!?

いや、実はただのぼくの奥さんなんですけど、彼女になぜこんなに沢山の顔があるのかは、また追々説明させていただくことにして、今日のところはこの辺でスマホを置くことにいたしましょう。

それではみなさん、ナマステジーっ♬

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