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yourboyfriendsucks! 琪琪音像と広州コネクション

中国南方、上海から広州にかけて沿岸地域は、温暖な気候で人の気風もゆるい。地理的、文化的に香港や台湾との結びつきが強く、日本からの影響もわりあいと大きい。そうしたこともあって、北方(北京)とはまた違ったインディ音楽シーンが広がっている。
その象徴とも言うべきバンドが、広州の你男友係碌葛 yourboyfriendsucks! である。通称 YBS。
The Jesus and Mary Chain 譲りの素朴なシューゲイズスタイルが特徴で、ほのぼのインディポップだという声もある。
その代表曲「波蘭首都是上海(ポーランドの首都は上海)」は、今やどこへ行っても大合唱が起きる、事実上、南方インディーロックシーンのアンセムである。

すでに解散してしまっているし、実質的な活動期間はそう長くない。2010年の結成以来、マイペースな活動を続け、2016年にEPを1枚残したきり、ほとんど無名のまま活動を停止している。
しかし、このEPがじわじわと評判を呼び、2019年の再結成ライブには多くの観客が詰めかけた。2023年に再び再結成すると、友人バンドをゲストに迎えて9都市を回る全国ツアーまでしている。最終日の広州公演をもって正式に解散し、その歴史を終了した。

というわけで、今回はYBSとその母体でもある琪琪音像を中心に、広州のインディーロックシーンをざっくり紹介してみよう。
読むのがかったるいという向きは、以下のプレイリストを参照されたい。カバー写真は、お菓子の山に埋もれるボーカルの Zoeyさん (酒豪)。

2000年代広州地下音楽

ポップミュージックの中心地として栄えた広東の音楽産業は、民主化した台湾からのポップ音楽の流入、北京を優先する国の施策に適応できず、90年代後半頃にはすっかり衰退してしまっていた。
とはいえ、国内に流通する打口の多くは広州を通じて輸入されていたし、広州を拠点に発行されていた音楽雑誌「音楽天堂」は、西洋の音楽流行をいち早く紹介する重要なメディアだった。また、香港と近いこともあって、中国でもっとも開放的な雰囲気を持ったこの都市は、あいかわらず国内流行楽の発信地だった。

中国エモシーンの躍進

2000年代も半ばになると、インターネットを通じたMP3ダウンロードが一般的になり、海外での流行をほぼリアルタイムで手に入れることができるようになった。
国内エモ(エモーショナルハードコア)の潮流が活発になった。北京の TOOKOO を筆頭に、新しいスタイルを模索していたパンクやメタルの受け皿となる。

広州でも早い段階で車頭灯、CO2、大話@梅といったバンドがこの流れに乗り、全国的な知名度を持つようになる。また、Golden Cage、Monster KaR、殺虫水など、広州を代表するインディバンドが現れるのもこの頃だ。

ライブハウス

当時、この都市に時間貸しのリハーサルスタジオなんてものはなかったため、専用のスタジオを持つ大学のロックサークルの他は、使われていない民家や地下室などを各位創意を凝らして即席のスタジオへと作り変えることで必要を充たしていた。
また、アマチュアのロックバンドが利用できる音楽専用の会場も限られていたし、それらはおいそれと利用できるものでもなかった。彼らは舞台つきのバーや、ショッピングモールのオープンスペースなどに機材を持ち込んで演奏することが多かった。

2007年に広州初の本格ライブハウス 191spaceが開業すると、状況は変化を見せ始める。あとを追って独立系のライブハウスが次々とオープンし、音楽家たちの活動を後押しする。191spaceは、オーナー自身もアマチュアのミュージシャンで、昼は公務員だったりするとかなんと商売としては成り立たないものではあったが、独立音楽への情熱と献身によって運営されていた(今でもだが)。

広州バンド村

地下世界の入口

変化はライブハウスの登場だけではなかった。同じ頃、ゴミ置き場になっていた住宅地下の防空壕に目をつけたエモバンド大話@梅のメンバーらは、管理会社と交渉し、これを改装して共同スタジオの運営を始めた。バンド村の始まりである。当事者の談によると、香港のライブハウスだかアートスペースに触発されたそうだ。
運営は何人かの委員性で、厳格な規則のもとに行われた。もちろんきちんと家賃も納めていた。

近隣で起きたビル火災のとばっちりを受け、2012年に立ち退きを余儀なくされるまで、ここを拠点に50近くのバンドが活動していたという。彼らは自分たちを村民と称し、それまで広州に存在しなかったインディ音楽のコミュニティを形成する。単に練習に使われるだけでなく、多数のギグやパーティーがここで開かれている。

シェルターをスタジオとして使用することは、中国ではさして珍しくもないが、バンド村ほどの規模で自主運営されている例はついぞ見られない。5年間継続していたというのもすごい。広東人のDIY気質が関係しているのか、ハードコアパンクなバックグラウンドに由来しているのかも知れない。

バンド村の閉鎖後、大話@梅ら運営者たちのは、広州のインディバンドによる430音楽祭の開催を経て、1850創意園に新たな拠点SDライブハウスを開業する。

2006〜2015 独立音楽コレクティヴ富力保

琪琪音像の前身として知られる独立音楽集団、富力保 Full Label も、バンド村で活動するグループの一つだった。もともとはインターネットや現場を通じて集まったロック愛好家のサークルで、2006年頃に当時学生だった小趙と小吉の出会いから始まったものと考えられている。
「Label」とあるものの、別にレーベルというわけではなく、その実態は、単なる仲良しサークルである。活動内容と言えば、ライブを見に行ったり、バンドを組んでライブを行ったりするのがもっぱらであった。
その名称は、行きつけの食堂「富記魚蛋粉」にインスパイアされたもので、「富記」を英語で表したのが「Full Label」、それをさらに音写し「富力保」になったということだ。

富力保の名前の由来となった西村富記魚蛋粉

2010年の pg.lost 広州公演の際、ライブハウスのトイレでライブを行い、ちょっとした話題にもなっている。
映像が残されているので、見てみると面白いかも。

自分たちのバンドだけでなく、市外省外国外のバンドを招いたりもしている。上海のパンクアクト Pairs の広州での公演を実現させた。
同時期に上海で活動していた2人組バンドPairs は、2人組という構成ながら、実験的なスタイルと激しいライブによって周囲に対して強い影響力を持っていた。
彼らの音源を聴いてすっかりファンになった小吉は、2010年、SNSの豆瓣を通じて連絡をとり、そこから上海のパンクアクトの広州公演が実現したということだ。こうした経緯があるものだから、YBSが前座を務めたというのも納得である。
これ以外にも市外バンドの公演を積極的に主催するようになる。その多くはパンクバンドであったようだが、あんまりジャンルにこだわりはなかったようだ。

富力保旗下独立楽隊

富力保は、その中から多数のバンドを輩出している。ただ、その場限りの思いつきだったり、それぞれのメンバーが複数のバンドを掛け持ちしていたりするため、すべてを網羅するのは難しい。バンド名が皮卡超 Pikaqiu (ピカチュウの広東話表記)だの Pocket Monster だの、検索しにくいものだったりするのも困った話だ。
音楽スタイルはてんでばらばらで、ロックに限らずラップグループを組んでいたりもする。広東アンダーグラウンドヒップホップのはしりでもある。
人員は流動的で、誰も把握できていないという話で、組織というよりは朋友圏と呼ぶ方が適切だろう。ある意味では、これもサークルには違いない。

yourboyfriendsucks! の誕生

The Jesus and Mary Chain という共通する嗜好をきっかけにYBSが結成されたのは、2010年頃のこととされる。
初期のメンバーは、2人のギタリスト小吉と史悲、ベーシストの羅密欧、ドラマーの施総からなる。当初は小吉がボーカルを兼任していた。2013年に羅密欧が広州を離れたため、同じく富力保の洋洋がベースを弾いている。ドラムの担当は何度か交代があったようだが、詳しいことはわかっていない。

JAMCへのオマージュを表現するため、ライブは毎回 Just Like Honey から始まるのだが、技術的な理由から、シューゲイズというよりトラッシュとかフリークと受けとめる人が多いかも知れない。初期の演奏であればなおさらだ。しかし、このことが幸いしてJAMCの持っていたポップなセンスがより克明になっているような気がする。

2011年の夏、リードシンガーとして Zoey が加入し、今見る yourboyfriendsucks! の姿がおおよそ確立する。
彼女 の歌はめちゃくちゃうまいというわけではなかったが、温もりと親しみやすさを感じさせ、以後のバンドのキャラクターを決定づけるようになった。英語、ドイツ語、普通語、広東語の4ヶ国語を用いる歌詞も彼女の担当だ。

こうして態勢の整ったバンドは、2012年に初アルバム『死』をリリースする。と言っても、よく見ると収録曲は1曲目『波兰首都是上海』のタイトルをそれぞれ別の言語へと訳しただけのもので、まったく同じ曲が11曲入っている! と聴く人を困惑させるものだった。ほんと好き勝手やってはる……という印象だ。

稚拙、聞き苦しい、学生バンドに過ぎない、などといった批判を受けるものの、彼らメンバーに堪えた様子はなく、むしろそうしたコメントを面白がっている風もある。

アマチュアのバンドにはよくある話だが、観客が5人しかいない(対バンのメンバー)こともざらにあったといい、それでなくとも観客のほとんどは知り合いか、またはその知り合いばかりだった。そのことについても本人らは気にしていなかったようで、というのも、バンドをやる理由というのが「自分たちが楽しむため」だったからだ。

このポリシーはYBSをはじめ富力保旗下のバンドすべてに通底するもので、彼らは彼ら自身の欲望に従ってライブを繰り返していく。演奏できるとあらば機材を担いでどこへでも出向き、あちこちで突発的なギグを行った。大学の屋上、地下室、本屋、スケボーショップ、ファーストフード店の軒先、人の家の庭など。開始10分で追い出されることもあり、ここまでくるとハプニングアートかとも思えるほどだ。
そうしたアヴァンギャルドな演出に限らず、たまにプロパーなヴェニューでギグを主催したり、地元の音楽祭にも出演したりしているので、そこらへんは安心していいと思う。

興行

よその土地へ招かれギグをすることも増えていく。ちょっとした旅行気分で気軽に出かけていたような感じである。
草の根的交流によって、あちこちに散らばっていたロックファンやバンドは互いに情報を交換し合ったり、刺激を与え合ったりしていたのである。

2014年には、富力保の主催で、秘密行動Stolen や鳥撞Birdstriking も参加する(比較的)大規模なイベントが開かれる。武漢の Chinese Football と廈門のThe White Tulips が面識を得たのも、この合同ライブあってのことだった。

富力保の活動に刺激を受けたのか、はたまたそういう時期だったのか、複数の都市にまたがるバンドやレーベルが徐々に連携をとるようになり、シーンとも呼べないようなものが緩やかに形成されていく。朋友圏でいいんじゃないのかな。

この当時、彼ら南方沿岸部のインディロッカーたちを結びつける共通言語となっていたのは、少々意外な展開ではあるが、1980年代のUKインディ音楽だった。彼らの間で、C86という言葉が合い言葉のように交わされる。

みんな Sarah Records が好き

広州で富力保が活躍していた同時期、深圳の独立レーベル無聊制造 Boring Productions が、隣の都市のサークルと同じようなコンセプトで活動を開始した。バンドを組んでギグを企画したり、バンドを招いてギグを企画したり、である。自然と両者は友誼を交わすこととなり、一緒に行動することも多かった。
創設者の Jovi は、イギリスの短命な独立レーベル Sarah Records に心を奪われた学生のひとりだった。どうやら会う人会う人にこの伝説的なレーベルを勧めまくっており、さながら布教活動である。しかし、こうした熱意は伝染性のものであるから、Sarah Records は付近一帯の地域で(限られた人々の間ではあるが)非常なポピュラリティを獲得する。富力保の面々がファンジンを作り始めたのも、彼に見せられたレーベルのドキュメンタリー映画にインスパイアされてのことだったという。

Sarah Records の解散20年にあたる2015年8月、2つのグループは共同でレーベルのトリビュートアルバム『Our Secret World』 をリリースする。このとき、Boring Productions がCDを、富力保がカセットテープをそれぞれ担当している。

このコンピレーションには、バンド村で活動していたエモバンド Golden Cage の Hover や、中国版ミッドウエストエモ Chinese Footballの徐波なども参加しており、他にも現在の南方シーンの錚々たる顔ぶれが揃い、インディロックの世界がいかに狭いものであったかを改めて実感させてくれる好例ともなっている。

その後、ボーナストラックとして洪申豪の曲が追加されているのだが、これには翌年の透明雑誌中国ツアーと何か関係があるのかも知れない。

『Our Secret World』は、今でも富力保とBoring Production 双方のBandcampアカウントで配布されているので、暇があったら聴いてみるのもよろしかろう。

Sarah Records のファウンダーが、あるときこのコンピレーションと、同時期にリリースされた、Chestnut Bakery のアルバムに目に留め、BPに宛てて感謝と称賛のメッセージを送ってきたという。そのときの Joviさんの心境を考えると少しうるっときてしまういい話である。

2015〜現在 琪琪音像の時代

『Our Secret World』リリース後、富力保の活動は唐突に途絶える。記録を探してみたところ、10月に行われたギグの主催が最後となっている。
サークルの発起人、小趙がロック生活から足を洗ったからではないかと考えられるが、実際のところはわからない。これ以降、独立音楽の話題に彼の名前はさっぱり登場しない。最近どこかで見た話だと、音響機器のレンタル業をやっているということだ。

どんな理由があったにせよ、富力保のメンバーたちは、小吉を中心に新たな団体、琪琪音像 Qiii Snacks Records を設立し、その後も音楽活動を続行する。

琪琪音像のロゴマーク

ビンの蓋をモチーフにしたロゴデザインは、デザイナーでもあるレーベルのメンバーのひとりが手がけたものだ。炭酸飲料を飲むときのわくわく感を表現している。
また、琪琪音像という名前は、メンバー行きつけの食堂「祺祺小食」を起源に持つ。ビデオショップを意味する「音像」を組み合わせて名づけられた。ネット配信が席巻しビデオショップが息絶えて久しいが、中国でもやはり同じようにノスタルジーの対象となっているらしい。「祺」の字を「琪」という字にすることで、女の子の名前を表すみたいな話をしていた気がする。キキあるいはチチとなり、どちらにしても日本のアニメのキャラクターを連想させる。
前部分を見れば富力保とほとんど同じような成り行きであるし、単なる改名にも思えるが、あくまで仲良しグループだった富力保より、琪琪音像はレーベルとしての色合いが濃いようだ。

琪琪音像の名前の由来、祺祺小食德政路店の前にたたずむ小吉と阿靖(Die!ChiwawaDie!)

透明雑誌を呼ぼう

レーベルとしての琪琪音像の活動は、まず透明雑誌の中国公演の企画から始まる。はっきりとしたことは言えないのだが、琪琪音像という組織自体が、このツアーを実現するために設立されたという証言もあったりする。ライブするためなら持ち出しも辞さない姿勢から、サスティナビリティを意識しはじめたともとれ、バンド活動に対する考え方に変化がうかがえる。経験を積むにつれ、楽しく遊ぶためには継続するための仕組みが必要だと気づいたのかも知れない。

2010年代の南方では、エモシーンの中から発展したミッドウエストエモやマスロックが大きな権勢を振るうようになる。武漢では2011年に Chinese Football が結成され、広州からは富力保から2012年に無高潮 Nein Or Gas Mus、杭州の鬼否 GriffO は2014年に活動を開始している。
北方ではあまり見かけないこのスタイルがこの地域の特産みたいになっているのは、ポストロックからのアプローチもあるのだろうが、台湾の透明雑誌の影響によるところが大きい。

それぞれのメンバーが手分けして資金を工面し、自分たちの手で宿の手配、交通チケットや会場の予約などをすべて行って、このエモバンドの4都市ツアーの実現にこぎつける。正確を期すため補足しておくと、富力保の頃から親交のある香港のポストロックバンド Emptybottles とのスプリットツアーである。
彼らの地元、広州での公演は、かねてから付き合いのあるSD Livehouse で行われ、小吉のバンド Die! Chiwawa Die!(ハードコアパンク)と無高潮(ミッドウエストエモ)が共に舞台に立った。

このツアーはインディレーベルにちょっとした収益をもたらし、その後の活動の原資となった。

『第一集』のリリースとレーベル事業

yourboyfriendsucks! 第一集のカバー

この年の夏、Zoey は留学のためドイツへと旅立ち、これに伴いバンドの活動は休止する。これに先立つ5月、YBSは琪琪音像から6曲入りEP『第一集』をリリースしている。

ギタリストの史悲によるイラストをあしらったカバーデザインとともに、バンド初の正式なスタジオ録音盤はインディ音楽ファンの間で話題を呼ぶ。YBSの音楽はこのEPを通じてより多くの聴衆の元へ届けられる。ストリーミングサービスの普及はその傾向に拍車をかけ、活動中には想像もしなかったような人気を得たりするよ。

そういえば、史悲はとして日本及び欧米でも有名なバンド Chinese Football のアートワークを手がけている。そのユニークな漫画調カバーイラストで、一時期ネットで話題になったこともあるし、そんなに音楽を聴かない人でも彼の絵を目にしたことのある人は多いのではないだろうか。

Chinese Football のアルバム封面

知り合いにカッティング技師だかレコード工場の人がいるだかで、レースカットのレコードも少数製作されている。プレス製法と異なり、ダブプレートと呼ばれたりする一枚一枚手作りで作られる。カセットテープ版もあったかも知れない。どちらもダウンロードコードが同梱され、プレイヤーを持ってなくても改めて買い直す必要がないという親切設計だ。アナログメディアでの展開は、その後の特徴ともなっている。

もともと、扱うのは自分たちの音源だけのつもりだったが、親交のあった廈門のThe White Tulips にEPの制作を持ち掛けられたことにより、レーベルとしての活動が主要な活動のひとつとなる。
現在までに、中国内外の様々なアーティストの作品をリリースしており、例えば、wellsaid(香港)、我是機関車I'mdifficult(台湾)、VOOID(台湾)、東京パンクロッカー組合(東京)、Forests(シンガポール) 。バラエティ豊かだ。


2017年には再び无聊制造とタッグを組んでサンプラーを発行したほか、各地の独立レーベルとも一緒にいろいろやってはる。北京のGenjin Records と Nugget Records、武漢の Wild Records、香港の Sweaty & Cramped。

理想と理念

琪琪音像に専業のスタッフはおらず、代表の小吉を含め、みな他に本業を持ち、各自手の空いた時間を利用してレーベルの運営に携わる形だ。専業でないことによる弊害はあれど、アマチュアリズムにこだわっている。仕事にしないからこそ、音楽への純粋な愛と熱情を守っていられるという面があるかも知れない。
レーベルの掲げる「粗製濫造」というモットーは、限られた時間と労力によって最大限の活用するためのものだ。何につけても形にしないよりはマシだという発想。

興行や作品の販売によって得られた収益はそのまま次の活動に回され、自転車操業状態とも言えるが、中小規模の独立レーベルは多かれ少なかれ似たような境遇にある。その中で、得もしないが損もしない琪琪音像の例は、成功している部類と言えるだろう。

そんなこんなで、DIYを地で行く琪琪音像の姿は、地域一帯の音楽人を通じて拡がっていく。ここから南方のインディシーンはおぼろげながら輪郭を帯びはじめる。

The End of 2010s とその後の様子

COVID-19パンデミックが発生すると、いくつものレーベルやヴェニューが廃業したが、琪琪音像はしぶとく生き残った。
Bandcamp上でリリースされたYBSの新作EPをリリース(レコーディング自体は2016年に行われている)。

Die! Chiwawa Die!

小吉のハードコアパンクバンド。

Jo's Moving Day

ベースの洋洋が参加する広州のスーパーバンド(ドリームバンドかも)。2020年にデビューする本格シューゲイズバンド。

悲しむべきことに、Pocari Sweet 団員2人の脱退により、YBSに続いてこちらも解散してしまった。しかし、喜ばしいことには、残ったメンバーが I'm Fine, Thank You! And You? という冗談みたいな名前のバンドを結成して活動を継続している。当然のことながら音楽性には少々変化が見られるようだが、そのクオリティは保証されているも同然だ。

史悲と小吉が新たに始めたバンド想想。ファンの間でYBS2.0と呼ばれたりしている(小吉はのちに脱退)。ギターの寛寛は、富力保のバンド Pocket Monster のメンバーであると考えられている。
Bilibili動画の史悲のアカウントでは、広州のインディロックシーンをドキュメントする「想想vlog」を不定期に更新している。主な内容は、食べているか遊んでいるかだ。字幕もついているので安心だ。
再結成したYBSの様子をアップしてたりして見所は多い。また、個人で制作しているインディゲームの進捗状況や、趣味のプラモデル作成過程を知ることもできる。

2023年には yourboyfriendsucks! 復活と解散、 Pocari Sweet が相次いで新作を発表し、Chestnut Bakery の活動再開もニュースとなった。

付録1:その他の広州独立音楽

今回はまるっきり触れもしなかったが、広州のインディシーンではそこらじゅうから新しい動きが生まれている。

オタクコアを名乗り(ハードコアなオタクだからだろう)、ザッツ・エンターテイメントなライブを追求する Hyper Slash は、人気バラエティ番組「楽隊的夏天」に出演し、一躍人気バンドの仲間入りを果たした。琪琪音像とは近所づきあいがあるらしい。
エモ(ハードコア)の流れを汲むロックバンド、堆填区やNouvelle もまだ活動していたと思う。

潮汕語で歌う六甲番も注目を集める。広州からはやや離れるが、同じ広東で伝統音楽を引き継ぐ蛙池は、 Carsick Cars 張守望のプロデュースによるファーストアルバムで高い評価を得た。

シティポップの人気はずいぶんと衰えた模様だが、そこら辺を糧に育った若い世代の台頭も目立つ。活動歴の比較的長い悶餅 MOONBANDは安定した人気を持つ。非常大自然 Very Natural はチルでレイドバックなインディポップで和気あいあいである。

付録2:参考になるリンク集

《珠江纪事--在厕所开唱的乐队》高清版 https://m.youku.com/mid_video/id_XMzA1NjMzMTMy.html

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