灰かぶりの猫

久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。読書は硬軟問わず。「猫」は動物の中でも…

灰かぶりの猫

久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。読書は硬軟問わず。「猫」は動物の中でも特別。アニメ好き。好きな言葉は「どうで死ぬ身の一踊り」。その言葉通り、死ぬまでに一冊の著作を刊行することが目標。なお、投稿は不定期。

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  • 灰かぶりの猫の大あくび

    物書きの灰かぶりの猫と新聞記者の夏目が織りなす、荒唐無稽でネタ満載のメタフィクションパロディコントです。

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    何も考えていない? そんなことありません。これまでに書いた短編小説をまとめています。

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    作品の背景などを、好き勝手に語り尽くします。ネタバレもあります。

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    ※みなもすなるしょふとしょふとといふものを、われもしてみむとてするなり。 『灰かぶりの猫日記』より

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【短編小説】「If I Can't Be Yours」あとがき

 皆さんどうも、灰かぶりの猫です。  今回の小説のタイトル「If I Can't Be Yours」は、正確には「Thanatos - If I Can't Be Yours」です。ご存じの方はご存じだと思いますが、これは『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』の主題歌です。一つの幕切れとして劇中で流れる際、スタッフロールが螺旋状にスクロールされるのがとても印象的ですよね。  今更、なぜエヴァ、それも旧劇場版なのかと思われるかもしれませんが、それは偶然に過

    • 【小説】「渋谷、動乱」第3話

       渋谷駅に向かって走る電車内で、SNSで突然、地鳴りに関するツイートが増え始めたことに気付き、秒で流れてくる不特定多数のつぶやきを、それこそ、つぶさに調べていた錦戸愛斗は、まるでそうなることをあらかじめ知っていたかのように、「来たか」とひとり呟いた。それから間もなく、電車は渋谷駅に到着し、大きく呼吸をするかのように、愛斗もろとも、勢いよく乗客をホームに吐き出した。急ぎ、改札へ向かう人波に乗らず、愛斗はあえてゆっくり歩き、改札を抜けて地上を目指した。  スマートフォンに目を落と

      • 【小説】「渋谷、動乱」第2話

         大澤美桜が、高校時代の友人の中村早矢香と、あらかじめ調べに調べ尽くしたルートを通り、その街の裏通りにある、知る人ぞ知る古着屋を訪れようと思ったのは、その日が初めてだった。  地下鉄のホームからエレベーターで地上に上がり、新宿駅の改札を抜け、平日の真昼間にもかかわらず、若者たちの姿でごったがえす竹下通りに出た時、すでに2人はかなりの体力を消耗していた。自宅のアパートから、今日だけ特別にタクシーに乗り、電車に乗り、ここまで美桜が乗る車いすを押し続けてきた早矢香の額には、じんわり

        • 【小説】「渋谷、動乱」第1話

           ――2021年7月31日。午前11時14分。  鏡のように磨き上げられた琥珀色の木目の床に、中町康太の襟足の髪がパラパラと落ちていく。康太の後ろでやや中腰になり、細身の鋏を自分の手先として操る藤堂凌太朗の手は、片時も休まることなく、リズムよく、自分に与えられたカットの時間の一秒一秒を、文字通り切り刻んでいた。店内に流れる、しっとりとしたクラシックの音量は控えめで、鋏が髪を切る「サクッサクッ」という音はもちろん、耳をすませば、櫛が髪を梳く音さえ聞こえそうなくらい、店内は静寂

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        【短編小説】「If I Can't Be Yours」あとがき

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          【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#20【RPG編~黄泉がえりは突然に~】第3話

          前回のあらすじ 城跡へとやってきたアイとミヤビの二人は、難なくターミネーターの正体を突き止める。それは外ならぬ、モノリスだった。モノリスが流した「カントリー・ロード」を聴き、現世での記憶をすべて取り戻した二人は、いよいよ灰かぶりの猫の復活のため、時空ゲートを通り、時の最果てへと向かう。 登場人物 アイ 夏目愛衣。黄昏新聞の新米記者。アニメ好き。今期放送中の『怪異と乙女と神隠し』の化野乙ちゃんにはまる。 ミヤビ アイが魔物の森で出会った剣豪。咲花刀を所持。その正体は、『

          【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#20【RPG編~黄泉がえりは突然に~】第3話

          【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#19【RPG編~黄泉がえりは突然に~】第2話

          前回のあらすじ 見知らぬ家で目覚めたアイは、母親らしき人物にそそのかされ、地元の神社の例大祭に赴く。そこで行われていたテレポーテーションショーに参加したところ、何の因果か別の時空へと転送される。転送先の魔物の森で出会ったミヤビという剣豪と共に、町で情報収集に当たった後、町の西にある城跡にターミネーターが出ると言う噂を聞き、二人は正体を突き止めるため、城跡へ向かう。 登場人物 アイ 夏目愛衣と思われる人物。しかし、本人に自覚なし。 ミヤビ アイが魔物の森で出会った剣豪。

          【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#19【RPG編~黄泉がえりは突然に~】第2話

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#4(短編集『感情採集』より)

           ――中田香織(30)の場合。  息子だからって、いつまで紐で繋いでろって言うんですか? 犬猫じゃないんですよ。へその緒を切った瞬間から息子は息子、私は私と思って育ててきました。放任と言われたらそれまでですが、子どもには子どもの自由がありますよね。自分の幼少期を反面教師に、親の言いなりにだけはさせたくないんです。今回のことはもちろん、私からも反省を促しはしますが、反省するかどうかは本人次第だと思っています。強制して、その場限りのごめんなさいで取り繕わせても意味がないことは、

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#4(短編集『感情採集』より)

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#3(短編集『感情採集』より)

           ――本上聖(11)の場合。  だって、ジャングルジムの上からこうさ、銃を構えて、バンバンって撃ったんだよ。いくら死にゲー(ぼくたちが勝手に名付けたゲームの名前)でも、エレナちゃんを撃つのは禁止だって、最初に決めたはずなのに。アオはさ、破ったんだ。もちろん注意した。アオ、それはルール違反だって。そしたらアオはさ、ゲームなんだから良いじゃんの一言。ルールがあるからこそゲームなのに、ルールを破ったらゲームじゃない。そうでしょ? だからぼくは、それは殺人だよ。そう返したらアオは、

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#3(短編集『感情採集』より)

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#2(短編集『感情採集』より)

           ――君塚徹(34)の場合。  攻守逆転だって? バカな。確かに手を出したよ。文字通り、最初に君の手を握ってしまったのは僕だ。ただ、不可抗力というものがあるだろう。ニュートンもびっくりの。こうして、毎日のように目と目を合わせていれば、否応なく惹きつけられる。僕と君は、林檎と大地だったってだけさ。第一、君はすぐに手を離さなかったじゃないか。それは明確な意思表示だよ。このままでも良いと言う、僕の気持ちを受け入れると言うね。そう、君だって望んでいたはずだ。待ってたんだろ。僕のよう

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#2(短編集『感情採集』より)

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#1(短編集『感情採集』より)

           ――本上日葵(17)の場合。   あんたよくさ、涎にまみれた他人の言葉を鵜呑みにできるね。あ、そっか。分かった。舌の上で味わうことなく(そんなんありえないんだけど)、口に放り込んだ途端、口内をショートカットして、そのまま食道を通過させてるんだ。ほうほう、なるほどね。あれでしょ、ETCだ。昔はさ、昔って言ってもわたしがちっちゃな頃だから、まだ平成とかだったと思うけど、パパの運転で高速道の料金所だったかな、そこをさ、通過するとき、必ず止まってたんだよね。お金払うために。知らな

          【小説】「裏切るなら自分(仮)」#1(短編集『感情採集』より)

          【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#18【RPG編~黄泉がえりは突然に~】第1話

          登場人物 夏目愛衣  黄昏新聞の新米記者。アニメ好き。今期のオススメは、『ガールズバンドクライ』。『アイドル編』では、アイドル育成補助金の100万円目当てに、385プロダクションのアイドルオーディションに参加。しかし目論見は外れ、貯金を切り崩す羽目に。 モノリス 灰かぶりの猫の自宅のAIスピーカー。現在は義体化済み。主人公の猫の復活のため、『クロノ・スタシス』という曰く付きのゲームを用意する。 灰かぶりの猫 久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の三十代。本作の主人公。

          【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#18【RPG編~黄泉がえりは突然に~】第1話

          【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#17【アイドル編~なんとかしてアイドルに!~】エピローグ

          前回のあらすじ 385プロのプロデューサー冬元が企画したアイドルオーディションの実態は、アイドル候補生たちを良いように弄ぶリアリティーショーだった。問答無用でオーディエンスによるアイドル投票が行われていく中、夏目はオーディションの中止を求め、何故か観覧席に来ていたモノリスの助けを借り、冬元を地獄の底に叩きつける。 登場人物 夏目愛衣  黄昏新聞の新米記者。アニメ好き。『学校編』のエピローグでモノリスが無断で義体を購入したため、急遽「100万円」を用意しなければならなくな

          【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」#17【アイドル編~なんとかしてアイドルに!~】エピローグ

          【短編小説】「人生劇場」最終話

           タクシー運転手の小門政明は、「とりあえず出してください」と男に言われた通り、交差点を右折し、O竹橋通りをN暮里駅方面に走り出した。小門は運転手歴13年目になるが、経験を重ねるにつれて、自然と身に着いた乗客に対する目配り気配りに加え、邪な関心だと自覚しつつも、一人一人の素性を観察するのが習慣になっていた。  小門は客を乗せてまず、後ろを振り向いて行き先を聞く際に、客が素面なのか酒が入っているのかを確認する。素面であれば、ほとんどの場合は、自らを偽ったり、言動に支離滅裂なものが

          【短編小説】「人生劇場」最終話

          【短編小説】「人生劇場」第4話(全5話)

           ビルの壁のパネルに、休憩90分3000円~、120分3500円~、と書かれていたホテルの前の壊れかけた室外機は、相変わらず唸るようなエンジン音を立てて、オートバイのアクロバットショーを繰り広げていた。  森野と別れた松田は、現場百篇の言葉通り、最初の現場に立ち戻っていた。現場検証というほどではないが、松田は中腰になり、辺りに何か犯人につながるようなものは無いかと、目を凝らして探し物をしてみた。排水溝のそばには煙草の吸殻。ホテルを囲む植え込みには、コンビニのレシートやビニール

          【短編小説】「人生劇場」第4話(全5話)

          【短編小説】「人生劇場」第3話(全5話)

           6月20日。午前11時。  昨日の夜9時から深夜の1時過ぎまで、景子は1時間おきに、夫正則のスマートフォンに電話を掛け続けていたが、正則が出る気配は全くなかった。 LINEに何度メッセージを送っても既読が付かず、今朝になってから会社に電話を入れ、上司の坂本さんに「夫は出社してますか」と聞いてみたが、「え? 景子さんも知らないんですか? 私の方も何度も掛けては見ているんですが、まったくのなしのつぶてですね。どうしたんでしょう。彼らしくもない」。    坂本が言うように、正則は

          【短編小説】「人生劇場」第3話(全5話)

          【短編小説】「人生劇場」第2話(全5話)

           森野由梨こと、本名矢井田茜は、SNSの闇バイトで知り合った鏑木という男から、今日の午前10時30分ごろ、「ソドムの森」というラブホテルの101号室を訪ね、その部屋に待機している男に、「YUYA ABE」のクレジットカードを渡すようにと指示されていた。  その後のことについては、そのまま男と事を行うのが嫌なのであれば、上手く話をそらして、部屋から逃げ出すなり何なりすればいいとも言われていた。K町のホストの黒鉄大也に貢ぐための、たった5万円ぽっちの報酬欲しさに、深く考えもせず依

          【短編小説】「人生劇場」第2話(全5話)