たけなが

絵や文章を描きます。 子どもの頃から夢見ていたファンタジーの世界と、日常との境界線が混…

たけなが

絵や文章を描きます。 子どもの頃から夢見ていたファンタジーの世界と、日常との境界線が混ざり合うような世界観が作れたらと思います。 よろしくお願いします。石川県のひと。 X(旧Twitter)はこちら→ https://twitter.com/takenaga_draw

マガジン

  • 海中果樹園(ショートショート)

    果物と海のショートショートなどです。

  • がらくた入れ

    まだ空想段階みたいなお話を入れたりします。 他にもいろいろ入れます。

  • イラストまとめ

    今までに描いてきたイラストをまとめています。

  • 紫陽花と水機関(ショートショート)

    紫陽花や水に関わる話をまとめてあります。 水機関(みずからくり)を自由に操る少年が、語り部のように不思議な話をします。

  • チョコレート(ショートショート)

    チョコレートに関するショートショートなどを集めています。

最近の記事

海とぶどうジュース(ショートショート)

 海の色を吸い込んだブドウは、深い深い紫色になります。その色の奥に宿った青色は、食味に、突き抜けるような爽やかさとともに、海底を漂うような底知れない深みを与えます。 ***  恐怖の飲み物という触れ込みが気になり、手に入れたジュース。  どうやらぶどうジュースらしい。  正直、どこにでもある普通のぶどうジュースにしか見えない。  噂では、これを飲むと、形容しがたい恐怖に飲まれてしまうらしいのだけれど、本当だろうか。  興味本位で試すには少々高価な買い物ではあったけれど、こ

    • 海とアップルパイ(ショートショート)

       海中で採れるリンゴがある。  半透明で、ガラスのような光沢を持ちながら夕陽のように赤々と輝くリンゴ。  時々漁船の網に引っ掛ることがあり、それを貰ったパティシエが、スイーツの材料として使うこともある。 ***   「まだ食べちゃだめよ」  お母さんは、女の子に言います。お皿の上にはおいしそうなアップルパイが乗っています。  お母さんに止められてしまいましたが彼女はもう、我慢ができません。そわそわと肩を震わせ、うー、とか、まだー? とか呟きます。 「もうすこし、待ってて」

      • 海中果樹園③(ショートストーリー)

         海にやってきた。一週間ぶりくらいだろうか?  ちょうど一週間前、僕は海に潜ろうとする人と話をした。  彼女は、見た目の印象ではだいたい同い年。快活な声をしていた。  海に潜るのが好きだと言っていた。へえ、放課後に海に潜りに来る人なんているんだ、と、正直、結構驚いた。  その後、海でしばらく時間を潰そうとしていたはずの僕は、そんなこともすっかり忘れて、すぐさま帰宅してしまった。  ずいぶん海から離れてからそのことに気付いて、今日はもういいや、とそのまま帰った。  だから今日

        • 海中果樹園②(ショートストーリー)

          「大丈夫ですか!?」  いつものように海に潜ろうとしたときだった。岸の方から誰かの声が聞こえた。  波の揺れる音のせいでしっかり聞き取れたわけではないけれど、それは私を心配する声だった。  ざば、と顔を出す。ふり返ると、一人の男子高校生が、波の向こう側でこちらを見ていた。  時間帯からすると放課後、学校からの帰り道にここへ寄ったらしい。  その表情は困惑と、恐怖と焦りの入り混じったものになっていた。 「あの、大丈夫ですか」  もう一度、声を掛けられる。あ、はい。大丈夫です。

        海とぶどうジュース(ショートショート)

        マガジン

        • 海中果樹園(ショートショート)
          5本
        • がらくた入れ
          19本
        • イラストまとめ
          53本
        • 紫陽花と水機関(ショートショート)
          17本
        • チョコレート(ショートショート)
          13本
        • 道の駅『はなかがり』(ショートショート)
          25本

        記事

          海中果樹園①(ショートストーリー)

           期末テストが終わって、あとは夏を待つだけになった。  友達というものを作るのが苦手な僕は、何となく違和感を覚えながらも、クラスの中でどうにか居場所を確保している。  ただそれも、馴染めていないのは僕が一番理解しているし、きっと一緒に居てくれている人たちもどこかでズレた感覚があるはずだ。  笑みは自然とぎこちなくなってしまうし、絞り出した言葉も、それによる会話も、彼らと僕との、言葉の接触部分に不自然な断層が生まれている。うまく噛み合っていない感じ。  そんな空気を感じると、僕

          海中果樹園①(ショートストーリー)

          朝(雑記)

           透明なグラスについで一口  飲んでみたくなるような朝焼けだった  空気の味は  おろしたての鉛筆の  削ったそばから香る透明の匂い  幾重にも連なった  透き通る雲母のように層をなして  うす紫の  うまれたばかりの柔い光を透かしている  そのいちまいを剥ぎ取って  削って作った粉末を  濾して作った陽光溶液の  葡萄糖に似たあまい一口を  私は唇でふれる  夜を濾過した紅掛空色の  雲母の群れの中を泳ぐような  夜の終わりの残り香が  今密やかに溶けて消える

          朝(雑記)

          縁側と海(雑記)

           夏の縁側が海につながっているような感触がする  有効層の中を漂うような、緩やかな冷たさがそこに滞留している  扇風機は波の泡立つ音  座卓や座敷は岩礁  日差しはカクレクマノミやナンヨウハギ、オニハタタテダイの  虹色をした影の集まり  描きかけのクレヨンは色とりどりの珊瑚  深くふかく潜っていく  水の肌触りが柔らかい  蝉の声は延々と続き、脳みその奥を揺らす  蒸し暑さとは無縁の夏  湿り気を帯びた熱が抜けた、呼吸が簡単にできる  そんな場所を探し続けた  何度も繰り返

          縁側と海(雑記)

          水を吸った本の話(ショートショート)

           深く冷たい水の底に長い間浸かっていた本は、やがて波の色が染み込み、表紙だけを見ると本物の水と見分けがつかなくなる。  ごく稀に街の古い雑貨店でそれが置かれていることがあるが、たいてい店主はそれを売りたがらない。  むしろ大切に保管していて、例えば店に有名人がやってきたときのサイン色紙のような扱いをしていることが常である。  その本の中の文字一つひとつには意思が宿り、本の中でだけ自由に泳ぎ回ることができる。  その昔、本の中を泳いでいる文字を、ある一人の少年が海に逃がしたこ

          水を吸った本の話(ショートショート)

          雨を買いたい話(ショートショート)

           お姉さんは少年に話をしました。 「雨を買ってみたいな」  少年は何が何やら分からなくなって聞き返しました。すると彼女はこんな話をします。 「この世界のどこかには、海や空を買おうとした人たちがいるんだって。だから私も、その人たちみたいに雨を買ってみたいと思ったの」  少年は雨をバケツに溜めてしまえば、買う必要はないと教えてあげました。けれどどうもそういう話ではないらしいのです。 「雨はバケツに溜めた瞬間からただの水になってしまうでしょう? 私は、雨を雨のままで買って、そばに置

          雨を買いたい話(ショートショート)

          月を食べる

          月を食べる

          満月とチョコレートソース(ショートショート)

           夜空に浮かぶ月って実はパンケーキなんですよ。  本当なんですって。あれは球状をしたパンケーキなんです。  めったに食べる人なんていないんですけどね。それでも時々、こっそり食べちゃう人がいるんです。  満月の夜以降、数日間だけ月が雲に隠れて見えなかったこととか、ありませんか? え、そこまで月に意識を向けていたことがない? それじゃあ、月の変化に気づかなくても仕方ないですね。  いいですか? 月が雲に隠れているのは、誰かが月を食べてしまったのを隠しているんです。  本当はこっそ

          満月とチョコレートソース(ショートショート)

          紫陽花消しゴム(ショートショート)

           しつこい湿気も綺麗さっぱり拭い取れます。  そんな触れ込みで販売されていたのは、とある消しゴムだった。  紫陽花消しゴム。見た目はどこにでもある、普通の消しゴムだ。  どんな湿気でも? それなら、と思い、購入して使ってみることにした。  まずは洗いたての洗濯物。まだかなり湿気が残っている。どれくらいの効果があるのか、そして使いやすいのか。確かめてみることにした。  効果はてきめん。二、三回衣類を軽く擦っただけで、あっという間に湿気が取れて乾いてしまった。  これはいい、と思

          紫陽花消しゴム(ショートショート)

          オーシャンブルー(ショートショート)

          「紫陽花が咲く森の中で、海を見つけたんだ」  そんなことを言い出したのは、知り合いのXだった。 「何を言ってるの」  僕は肩肘をつき、先ほど買ったカフェオレを啜りながら、人ごとのように呟く。けれど、彼の熱は冷めない。  いや、だから……。そう言って話し続けた彼の言い分は、まとめると大体こんな感じだった。  近くの森に散歩へ出かけた時のこと。普段は行かないけれど、気になっていた森の深部を目指してみることにした。  普段は見ない景色に心躍らせながら進んでいくと、見つけたのだそう。

          オーシャンブルー(ショートショート)

          かざぐるま(ショートショート)

           梅雨時期のじめっとした暑さをものともしない紫陽花があるらしい。  紫陽花の萼の部分。一般的には花と思われている部分がぐるぐると回転するのだ。  そうなることで、紫陽花の周辺の空気が混ぜられ、循環し、暑さが和らぐ。  とはいえ、ほとんど人が寄りつかないような場所にひっそりと咲いている紫陽花のため、その目撃情報はほとんどない。  ただ、時々雨の降る街に繰り出した時、紫陽花なんてどこにも見当たらない場所で、その萼のひとひらが振ってきたり、側溝に流れて行くのを見られたら幸運だ。  

          かざぐるま(ショートショート)