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【あれから一年】『LINEノベル』の失敗と敗因分析+これからの取り組み【ウェブトゥーン編集者募集】

ストレートエッジの三木です。

本日は自分が携わり、ちょうど一年前、2020年8月にサービスをクローズした『LINEノベル』について回顧したいと思います。

■まえがき
かなり長文ですので、小タイトルを見て興味のある部分だけを選んでお読みください。それ以外は読み飛ばし推奨です。

■はじめに ~出版業界を取り巻く環境~
僕は数年前から、ずっと新たな“出版のカタチ”とは何かを考えていました。
ここ20年にわたり、出版業界の全体の売り上げは減少の一途をたどっています。最盛期である1990年前半には2兆6千億円であった市場規模も、現在は1兆6千億円と四割の大幅減衰をしています。昨今は、一部コミックスの爆発的ヒットや巣篭もり需要などもあり、電子書籍売上は3900億円と伸長していますが、市場全体の減少を支えきれてはいません。

そこへ、昨年の新型コロナウィルス感染拡大と未曾有の災害が起き、出版業界はさらに窮地に立たされました。もともと2万軒近くあった書店の数は出版不況により1万軒を切り、四度にわたる緊急事態宣言によってさらなる閉店が続いています。一向に回復の兆しは見えません。

にもかかわらず、書籍の刊行点数は1990年代の年間6万点から、現在は7万点程度と市場規模の減衰に反して大きく増加しています。これは、刊行点数の増加によって一時的な売り上げを確保したい出版社の思惑によるものです。当然ながら読者が増えたわけではありませんので、書籍やコミックス1冊あたりの平均売上は低下しました。これによって作家の収入にも大きな影響が出ています。

さらにコンテンツ業界という広い目線で見ても、ライブを含む様々なイベントの中止が余儀なくされています。当社ストレートエッジにおいても、アニメ『ソードアート・オンライン』のオーケストラコンサートやアニメ『俺を好きなのはお前だけかよ』OVAイベント、代々木アニメーション学院のオープンキャンパス講演会、敬和学園大学(潟県新発田市)主催の小説家育成企画「阿賀北ノベルジャム」での講演会などが中止となりました。

しかしながら、そんな状況下でも、『面白い物語を読んでみたい/楽しみたい』という根本的な娯楽の顧客ニーズについては出版不況ならびにコロナ禍とは関係なく、今もしっかりと存在しています。むしろこのような時世だからこそ、家の中で明るく楽しめる娯楽である『エンターテイメント性のある物語』への要求は増加傾向にあると考えています。

このコロナ禍においては、既存の紙の出版による書店での顧客獲得や、大人数を集客するイベントによる興行収入は事業として計画通り行えず、今後も困難な状況が続くと予想されます。ただ、娯楽を楽しみたいという顧客ニーズ自体は衰えていないため、新しい時代にあわせた販売形式への事業の転換が求められているというのがコンテンツ業界の現状です。

ドキドキワクワクが止まらない、“面白さ”がぎっしり詰まった作品は、実は世の中にたくさんあります。それらを世界に広げるとき、どういうベストなアプローチが良いのか。今という時代だからこそ出来る、最高のやり方はないのか。

そういったコロナ禍前からの出版不況の中で、僕はそのやり方の一つとして、『LINEノベル』を『あたらしい出版のカタチ』と見据えてプロジェクトを掲げてきました。

しかし、僕はこのプロジェクトに失敗しました。


■『LINEノベル』の失敗と敗因分析
小説投稿サイトに投稿したアマチュアの作品が商業化され、大ヒットするというサイクルがごく当たり前になりました。一昔前は選りすぐりのウェブ小説が商業化されることが出版業界のトレンドにもなりました。しかしその流れもあらゆるレーベルの参入により、刊行される作品は「ランキング上位作品が機械的に商業化されていく」画一的な状況をもたらしました。
そこで自分が恐れたことがあります。
編集者なんて存在しなくても、出版業界はこれからも存続するし、面白いものは世に出ていくという『編集者不要論』です。

僕はそれに抗いたいと強く願いました。

『既存の小説投稿サイトのアマチュアならではの良さと、プロの編集者が培ってきた作品クオリティの担保、その両方が備わっているハイブリットなプラットフォーム』をつくろう。プロ作家のコンテンツと一般投稿者のコンテンツ、両方を内包するオープンなウェブサービスを目指したい――それが“新しい出版のカタチ”になるのではないか。

『LINEノベル』は、(少なくとも僕は)そんな想いをもとに立ち上げたプロジェクトでした。

しかし、結果としては2019年8月にプラットフォームをローンチしたあと、わずか一年後の2020年8月にサービス終了となりました。

そして2021年8月。
なぜ『LINEノベル』が失敗したのか。
反省と自戒、解析と今後への反映をするため、サービス終了から一年経った今、改めて回顧したいと思います。

自分の考える敗因は――
① ローンチ時の仕様のちぐはぐさ
② 改修のスピード
③ そろえるコンテンツについて
④ ターゲットについて
⑤ 告知、プロモーションについて
⑥ 総括

ということになろうかと思います。
以下、細かく書きます。

① ローンチ時の仕様のちぐはぐさ
『LINEノベル』の主なサービスは、一つはプロの作家さんによる小説が無料で読めること(時限での課金)、もう一つはユーザーによる小説投稿機能です。後者はWebサービスに人を呼ぶための目玉になるはずでした。さまざまなユーザーが、スマホひとつでいつでもどこでも、小説を自由に投稿し自由に読むことができる……はずでした。

しかし、そうはなりませんでした。
ローンチ時の仕様としては、

・投稿する書き手はスマホではなくブラウザウェブ(つまりPC)からログインする必要があった。
・ブラウザからテキストを記入(もしくはペースト)し文章を書いて保存する。
・ただし、投稿した小説はスマホアプリでしか読むことができない。

という状況でした。
これは開発過程において、ローンチタイミングとの綱引きの結果このような仕様でのスタートとなってしまったのですが……。結果的にはユーザーに手間をかけさせてしまう、この『ちぐはぐさ』が敗因となりました。

② 改修のスピード
通常のWebサービスは、ローンチ後もサービスを運営しながら改善していくのが一般的です。ネトゲにおける定期的なパッチやシステムアップデートをイメージすればわかりやすいでしょうか。①で書いた『ちぐはぐ』な仕様も、ユーザーからのリクエストを迅速に改修・反映していくことができていれば、あるいは払拭できたかもしれません。しかしながら、その改修スピードも早いとはいえず、しばらくはこの状態が続きました(誤解なきようにお伝えしますが、当時の開発チームがサボっていたわけではなく、ベストエフォートを尽くした結果であることをお伝えしておきます)。このスピードの遅さも敗因の一つです。


③ そろえるコンテンツについて
『LINEノベル』に協力することになったストレートエッジという会社は、小説編集者のスペシャリスト集団であると自負しています。ですから、LINEノベルにも良質な小説を提供できる自信がありました。

しかし、それも『届ける先が求めている小説』を提供できた場合にしか効果を発揮しません。

『LINE』というプラットフォームは、ご存知な通り日本で最も使われているソーシャルアプリの一つであり、生活基盤にも強く結びついています。その『LINE』の強みは、莫大なカジュアルユーザーを抱えているところにあります。

実際に、ローンチ段階ではオリジナル作品としてプロ作家による50作品以上の完全新作ラノベやライト文芸作品を提供することができました。
また、外部(他出版社)の人気作品も読むことができるようにしていましたので、100作品以上のラインナップが展開されました。

かつ、ローンチの3ヶ月前より、一般ユーザーはアカウントを作成して小説の投稿(閲覧はできない)をしてくださっていました。なんとそれらは6500作品以上もありました。

つまりローンチ時の数はきちんと確保できていたのです。
しかしこれらの作品群をもってしても結果は理想通りにはなりませんでした。

④ ターゲットについて
向ける潜在顧客に対する戦略ミスがあったことは否めません。いわゆるライトノベルを得意としているチームで作ったこともあり、そのカジュアルに膨大な数のユーザーに向けて送り届けることが得意なLINEと、ニッチで特殊なカテゴリー向けに売ることが得意な自分たちの間に、大きな溝があったからです。

プラットフォームの特性をしっかり把握し、「紙で読む1冊の小説」ではなく「スキマ時間に気軽に少しずつ読む小説」という作品づくりをもっと意識すべきだった自戒しています(もちろんすべてがそうだったわけではなく、作家さんによっては意識的にそういう作り方をしていた作品もありました)。

これは自分たちが無意識のうちに持ってしまっていて捨てきれなかった「紙の本への過信」が原因と感じています。もっとウェブ小説というもの、それを投稿することに向けた心構えやブランディングがあまりにも無防備でした。

たとえばカジュアルユーザーは、スマホで長い時間、文字ばかりを読みたくありません。気軽なショートムービーやメッセアプリに流れてしまいます。ですので出来るだけ短く各章を区切ったり、次の章へスムーズにに移行できるように可読性を向上させるなどシステム設計に気を配ったつもりでした。

しかし結果としては問題となった大きな溝を、最後まで埋めることができませんでした。

★LINEノベルへご尽力くださった作家さん方には、大変申し訳なく、心苦しく思っております。もちろんサービスクローズ時にご連絡は差し上げておりますが、この場を借りてもう一度改めて、感謝と謝罪をお伝えいたします。お力添えいただき誠にありがとうございました。そしてこちらの力が及ばずに大変申し訳ございませんでした。


⑤ 告知、プロモーションについて
LINEノベルにはPR担当がつき、しっかりとプロモーションを展開してくださいました。例えば、ローンチ時には無料LINEスタンプ配布プロモーションや、LINEノベル上で審査を行う新人賞、令和小説大賞の告知を日テレさんで取り扱っていただいたり、などです。
しかし、それらのアプローチが結果的には『小説を読みたい層』には届いていませんでした。新潮文庫nexのほぼ全ての作家陣をLINEノベルに掲載するというコラボレーションも実現できたのですが、新潮文庫nexが抱える『小説を読みたい層』を、LINEノベルに流入することができませんでした。③で書いたように自分たちでも『膨大なカジュアルユーザーにニッチで特殊な作品をアピールしている』状況を覆すことができていませんでしたから、だんだんと状況は厳しくなりつついありました。

⑥ 総括
このような敗因が重なりLINEノベルはスタートダッシュに失敗しました。
それは、皆がKPI(業績としての目標)として掲げるMAU(月間のアクティブユーザー数)には到底届かない数字として現れました。ローンチしてからもずっとMAU向上のための工夫や改善もかなり頑張ったのですが、サービス存続の『見極め』までに、課された目標を越えることはできませんでした。

LINEノベルと出版事業は両輪で展開するものでしたので、ウェブ事業が芳しくなければ出版事業も縮小せざるを得ませんでした。

僕がこのプロジェクトを展開したのは、全ての人々に、『小説はこんなに面白いんだぞ!』という想いを伝えたかったからです。このスマート社会で『小説は気軽に読めるもの』ということを浸透させたかった。そのチャレンジをして……失敗しました。
僕はシンプルに、空振り三振に喫したのです。

実は他にも、サービス終了前に行った宣伝施策や改善案などたくさんあったり、外的要因によって問題が発生したりなど、理不尽な出来事もあったのですが……敗者は多くは語らず、でご容赦願えればと思います。
(いや、めちゃくちゃ多く語ってますね……)

もちろんこれ以外にも、ユーザーさんが感じる『不便さ』『魅力のなさ』『しっくりこない感じ』などあったかと思います。もし当時の記憶から思いつくことがあれば、後学のためよければコメントいただけますと幸いです。

以上が、LINEノベルの敗因です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

※以下のような客観的な記事もありましたので、ご紹介しておきます。


そして、
ここからはLINEノベルとは関係のない話になります。
お時間と興味のある方のみ、お読みください。


■あとがき+これからの取り組み
残念な結果になってしまいましたが、自分はまだチャレンジを続けます。

なぜなら、『あたらしい出版のカタチ』を諦めていないからです。

『あたらしい出版のカタチ』とは、今ある出版不況に立ち向かうことのできる取り組みと位置付けています。

僕がその取り組みの一つとして進めているのは、先日noteに記事をアップさせてもらったウェブトゥーン展開です。
(ウェブトゥーンの可能性と、小説家との相性の良さは前回の記事をご参照ください)

こちらの記事では、ウェブトゥーンの原作を書いていただけるプロの作家さんを募集したのですが、なんと100名を超える作家さんからエントリーいただきまして、現在は鋭意そのウェブトゥーンの制作を進めているところです!

アニメ化作家さん、ベストセラー作家さん、著名脚本家さん、『小説家になろう』ランカーさん、様々な素晴らしいクリエイターさんたちに参加いただきまして、自分たちが信じる最高のコンテンツをつくり、世界に挑もうとしています。

なのですが、
素晴らしいクリエイターさんはそろっているのですが、現在、そのクリエイターさんと共に歩む編集者がストレートエッジには不足しています

これをご覧になっている皆様の中で、もしご興味があれば……

僕たちと一緒に、最高のコンテンツをつくり、世界を目指してみませんか?

ぜひご応募、お待ちしています。

ウェブトゥーンのいくつかの作品は、SORAJIMA Studio(詳細は後述します)と共に制作にあたります(他にも参加していただいているパートナー企業もあります)。ですので今回の応募はSORAJIMA Studioと共同で編集者を募集します。

↓★ここからは、応募規定となります。★↓

【求める人材について】
男女、学歴、年齢不問です。
ただし、学生(高校生、専門学校生、大学生、大学院生等)の方はエントリーできません。ご了承ください。

【例えばこんな方を歓迎します!】
※未経験者も大歓迎です。下記すべて当てはまる方ではなく、どれかが当てはまる方、またはどれも当てはまらないけどやる気はあります!という方もぜひご応募ください。

・一般文芸、ライト文芸、ライトノベル等の小説の編集業務経験
・ウェブ・紙媒体を問わずマンガ等の編集経験
・エンタメコンテンツ(ゲーム, 小説, YouTube, アニメ)のディレクター経験のある方
・未経験で漫画編集者になれるチャンスを探されていた第二新卒の方
・Webtoonという新しい領域でチャレンジしたい方
・大学で演劇サークルやお笑いサークルに属していた方(チームで1つの作品を作り上げるという工程に共通点があります)


【業務形態】
・ストレートエッジまたはSORAJIMA Studioとの業務委託契約となります。
・フリーランスでの雇用契約となりますので、社会保険制度はございません。
・月額固定給(22-45万円:評価や担当作品数に応じて変動)となります。
・交通費、必要経費は支給いたします。

※より具体的な詳細については、面談時にお伝えします。

【ストレートエッジとSORAJIMA Studioとは?】
■ストレートエッジとは?
弊社は、作家のエージェント会社です。主なプロデュース、担当編集作家(作品)は、鎌池和馬(『とある魔術の禁書目録』)、川原礫(『ソードアート・オンライン』)、佐島勤(『魔法科高校の劣等生』)、伏見つかさ(『エロマンガ先生』)、知念実希人(『天久鷹央シリーズ』、河野裕(『いなくなれ、群青』)などです。作家のマネジメント、作品のメディアミックスプロデュースだけでなく、ウェブトゥーン事業も始めていきます。ストレートエッジの会社概要、業務内容はこちらをご覧ください。

■SORAJIMA Studioとは?
SORAJIMA Studioは株式会社ソラジマが運営する、マルチ・コンテンツスタジオです。YouTubeアニメやWebtoonなど比較的新しいデジタル領域での作品作りに注力していて、代表作としては『女子力高めな獅子原くん(YouTubeアニメ:45万登録)』『ヤクザと目つきの悪い女刑事の話(YouTubeアニメ:44万登録)』『婚約を破棄された悪役令嬢は荒野に生きる。(Webtoon:Comicoにて公開1週間でデイリーランキング&女性人気ランキングNo.1獲得)』などがあります。株式会社ソラジマの会社概要や業務詳細はこちらで御覧ください。


【応募方法】
以下のフォームよりエントリーをお願いします。
https://forms.gle/DDP64ePxf3LLBJCz8

★フォームに記入する項目
氏名・年齢・性別・連絡先

★フォームに添付するファイル
■履歴書(写真付き)
■職務経歴書(書式自由)
※職務経歴書には、(1)今までの職務経歴、(2)所有している具体的なスキル、(3)自己PR、(4)今まで携わったコンテンツと役割、(5)ウェブトゥーンで目指してみたいことやアイディアプランなどを詳細にお書きください。

書類審査の上、追って面接日等ご連絡致します。

【エントリー締め切り】
2021年8月31日(火)まで

【選考スケジュール】
※エントリーの書類受取後、二週間以内に選考合格者のみご連絡差し上げます。
※エントリーの際に記載いただいたメールアドレス宛にご連絡いたします。
※ご連絡の際は、面接日程のご案内をいたします。面接は相互理解の場となりますので、ご不明点等お気軽にご質問ください。条件詳細についてもこの面接時にお伝えいたします。
※応募の秘密は厳守します。なお、応募書類はお返しいたしませんので予めご了承願います。


【FAQ】
Q:地方在住なのですが、業務委託契約をすることは可能でしょうか?
A:週に数回の出勤がありますので、基本的には地方在住は不可となります。ただ完全に不可というわけではございませんので、よろしければエントリーしていただき、面談にて相談させてください。

Q:編集未経験なのですが、エントリーしてもよいでしょうか?
A: はい。ぜひエントリーしてください。お待ちしています。

Q:とある出版社の社員なのですが、エントリーできますか?
A:同業他社での副業が禁止されていなければ可能です。ただ、業務のメインはこちらを優先していただくことになるため、その前提での応募をご検討ください。

Q:とある出版社の編集部で業務委託契約を結んでいるものですが、参加可能ですか?
A:専属契約でなければ可能です。ただ、業務のメインはこちらを優先していただきたく考えております。

以上です。

ご応募、お待ちしています!!

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