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晴明×博雅のBL二次創作小説。

まだ全然未完成なんですけど、創作メモとしてここに。成人向けの内容ほんのりなので、よろしくお願いします!


「なあ、博雅。そんな下らない事を気にするなよ」
「くだらな、なくない……」
「勘弁してくれ、頼むよ。……過去の女なんて、おれ達には何も関係ないだろ。
どうしろって言うんだ」
「…………」
「おい、泣くなよ……。頼む、おれはお前に泣かれると、堪えるんだ」

おそらく、自分の為に晴明が買い揃えてくれただろうバスボムと、ハイブランドのボディソープやシャンプー、フランス製のヘアバターが揃えられているユニットバス。温かな水蒸気に包まれて、博雅は溢れる涙を止められなかった。

何もかも手慣れている夜の行為に、晴明の過去を渡り歩いてきた多くの女達の影を、白くて長い指や巧みな舌使いに覗いてしまったから。
何もかもが初めてで最中はひたすら声を抑えようと必死に、激しく熱い晴明の愛撫に飲み込まれるだけで確認などできなかったが、きっと、彼の自分よりずっと大きく長く質量がある性器は、たくさんの柔らかな子宮口を知っているに違いない。

激しく求められるままに身を任せてしまい、我を忘れたまま親友だった男に
翻弄され、初体験を捧げてしまった。
その恥ずかしさからとても確認は出来なかったが、まだ少し幼く淡やかな色の博雅とは違いきっと晴明のそれは、精液に焼けた赤黒さだったろう。

そういう現実感が一気に押し寄せてきて、熱帯雨林を思わせる蒸し暑い浴室のバスタブに浸かったまま、博雅は涙と鼻水で頬を濡らし声を殺して泣いた。

「……博雅?」

軽いノック二回の後に、珍しくも弱気な呼び声。

「おい、まさか泣いてるのか」
「…………」
「博雅、開けてくれ。気分が悪いんじゃないよな」
「……違う。知らない風呂場で、勝手がわからないだけだ。すぐ出る」
「なあ、おまえの顔が見たい。開けてくれ」

咄嗟に浴室の鍵をかけてしまったのが、功を制した。こんな情けない姿を元親友にとても見せられない。優しい晴明はきっと気を遣って、一晩中宥めてくれるに違いないのだ。

「博雅、痛くはなかっただろう? 怪我をさせたなら大変だから、
おれに見せてくれ」
「大丈夫だから、放っておけ」
「そんな鼻声で、大丈夫なはずないだろうが。博雅、なあ頼むよ」

焦る晴明の声音など初めて聞いた。仕方ない、ドアを蹴破られる前にと、お湯に頭ごとザブンと浸る。これで言い訳は立つだろう。
バスルームの半透明なガラスドア越しに、晴明へ声を掛ける。

「晴明、喉が渇いた。水が飲みたい」
「わかった、冷たいのでいいか?」
「うん」
「取ってくるから、鍵を開けておいてくれよ」

相変わらずスレンダーな長身は、足音をさせずにリビングへと移動していく。
まだ親友だった頃には大学の夏季休暇で源家の別荘に泊まり込み、二人で海水浴や温泉を堪能して彼の裸体も見た。一見して細身の体格のはずが鍛えられた薄い筋肉に硬く包まれていたと知ったのは、ついさっき。ベッドの上でだ。

下腹の奥が甘く痺れて痛むが、ガラス張りのシャワーボックスで柑橘系のソープを落とし、分厚いディープブルーのバスローブに袖を通す。
晴明は青が好きだから、ペアで揃えてくれたのだろう。彼には、瞳の色と合わせて青がとてもよく似合うのだ。

「博雅」
「うん」

浴室のドアを開けると、不安気な表情で同じ青を着た長身が立っている。戸惑うように差し出されたグラスを受け取れば、柳眉と切長の目がスッと潜められた。

「泣いたのか? 痛かったか?」
「違うよ、平気だ。ただなんとなく……」
「なんとなく?」
「……、わからない。なんでおれは泣いていたんだろう」

「キスくらい、誰かとしたことはあるんだろ?」
「…………お前、おれからそんな色っぽい話を聞いたか?」
「あるわけがない、おれは許さないよ」
「だったら、お前が想像する通りなんだろう」

「博雅」
「……なんだ、俺は眠い」
「結婚しようか」

一日にたくさんの肉体と精神的ショックを受けて、恥ずかしい泣き顔を親友にも
見られて立ち直れないくらい弱っているところへ。その衝撃の言葉に、博雅は痛みも忘れて起き上がった。

「なっ、何を言い出す! お前は、突然!」
「突然じゃない。お前と出会ってから三年四ヶ月十一日、ずっと考えてきたんだ俺は」
「そんな、……ウッ、」
「博雅、大きな声を出すな。痛むんだろう」

ううう、と涙目になって前屈する親友兼恋人の、細い肩から薄い筋肉が乗る背中を晴明が優しくゆっくりと撫でる。

「俺は無神論者だし、たかだか契約書の紙切れに名前を書き込むイベントなんて
どうでも良い。でも、お前が俺の過去に煩わされて俺の気持ちを信じられんと
思い詰めるのなら、それにも縋る」

「晴明、俺はその、お前は大切な一人だけの親友だし。そのなんだ、こういう間柄になってまだ、お互い話していない事がたくさんあったとわかったんだ。今までは気兼ねなく話せた内容も、こういう友達との秘密のアレみたいな、ああ〜、なんというか」
「セックスフレンド?」
「……んん、うん。それになったみたいで、なんだか不安なんだ」

黙っているが、真摯な眼差しで博雅の言葉が終わるのを待っていた晴明は、
滑らかな皮膚のまろやかな音楽家の指を爪で撫であげながら、「はぁ……」とため息をついた。博雅が叱られた子犬のように大きな潤む瞳で、長いまつ毛をぱちぱち弾けさせる。

「くそ可愛い……、博雅のくせに……」
「なんだ? 聞こえない」
「お前は、いい加減にしろよ。おれをそんなに振り回して楽しいのか」
「呆れたか?」
「呆れるも何も、お前は俺の初恋をなんだと思ってる、ん? 俺は博雅が生きてきて初めての真剣な相手だと聞かせただろうが」

初めて並んで眠ったのはいつだったか。そう、確かまだ晴明が全寮制の高専に
いた頃だ。二人が出会い半年は経過していたはず。

その日は、博雅が住む鎌倉の高級住宅地周辺で起きた怪事件の調査に、陰陽生全員が駆り出され、晴明もそこに参加していた。
普段であれば無視を決めてサボるはずだったのに、博雅から「二人で解決しよう」とLINEが届き、慌てて電車に飛び乗ったのだ。奴一人では、何をやらかすかわからない。

梅雨の六月、紫陽花寺を訪れる大量の観光客に埋もれながら、なんとか事件収束まで落ち着けたのだが、冷たい雨で下着まで濡れてしまった。鍛えていた自分はともかく、お坊ちゃん育ちの博雅は真っ青になってガタガタ震え、とても一人で帰せる状態ではなく。また濡れ鼠の晴明も、電車で寮に戻れるような外見ではなかった。

「うちに泊まっていけば良い。晴明の好きな食事を並べるぞ」

出会ってから初めて足を踏み入れた源邸は、予想通りの広大さを誇る日本庭園を
持ち、玄関では博雅の乳母、その息子達が若き当主とその友人に頭を下げた。

中庭を堪能できる檜風呂に二人で浸かって、温まったままに三浦半島で朝獲れたという新鮮な魚料理と、ぼんたん鍋に舌鼓を打つ。
満腹になれば自然と眠気が襲ってくるものなのだが、幼い頃から施設に預けられて過酷な環境で育った晴明は慢性的な不眠症。
しかも慣れない空間の中でどうにも落ち着かずに、青く匂う畳敷きの広い客間にて羽毛敷き布団に寝返りを打っていた。

「晴明、眠れないのか」

軽いノックに続いて、博雅が入ってくる。淡いグリーンの上質なパジャマを着た友達は、ズルズルと自分の部屋から布団一式を運び出して来たようだ。

「気にするな、おれは昔から眠れないんだ。博雅こそ、疲れているだろう」
「少しな。でもまだドキドキして興奮が収まらないよ。お前が鬼退治をしたのを見たのは三回目になるが、やはり晴明は凄い男だ」
「結局、最後はおまえの笛の音に助けられただろう。博雅こそ、凄い男だ」

お互いに真っ直ぐな賞賛を受けた体験が無かったので、照れ笑いをして。それから眠るまで、博雅の家の話を聞いた。

公家の血を引く母と、大財閥のグループ企業経営に立っている父親。
両親が不在なので、ほとんど乳母にその息子達と育てられたこと。
ヨーロッパを拠点に働く叔父を頼って、ウィーンに短期留学していたこと。
大学は、また向こうの学校へ進みたいという夢について。

博雅が夢を叶えてウィーンやパリで音楽活動をする将来に自分はいないだろうと思ったし、仕方ないのだと納得したはずだった。
だが、確かに寂しさを覚えた自身の気持ちに、晴明は驚愕したと同時に生まれて初めてのときめきのような感情に包まれたのだ。

親を知らず、狐の子と恐れられ阻害され孤独の中で生きてきた身は愛を知らず、
他人を誰も信じられなかったのに。

幸せそうに眠ってしまった友人の、ふっくらとした優しい頬に指を滑らせて
しまったあの想いは、間違いなく初恋だった。

金の心配を知らず、血は繋がらないとはいえ多くの家族に愛されて育った博雅は、警戒心がまるでない裕福層の子息そのもので、度々晴明を呆れさせたが、
しかしその何も疑わない純粋な善意や、感受性の塊のような繊細な優しさには、
心底驚かされたものだ。

晴明の周囲にいたそれまでの人間と違って、色眼鏡で判断したり差別や偏見を
持つ事なく、真っ直ぐに目の奥を見てめてくれる。

何の為に生まれたのかわからず、流されるままに呼吸をしてきた晴明は、その時に初めて「博雅の隣に、相応しい大人になりたい」と願った。

源博雅は安倍晴明よりも三つ年上だったが、色々な事件現場においてあくまで晴明の補佐に回る立場が多く、けして前に出過ぎず。
必要とされる時に、理論派の晴明が思いもしない目線で、汚れのない感性のままに意見や質問をくれる貴重な人材でもあった。

時々、怯えて身を寄せてくれる博雅の、見事な楽器演奏を奏でるその手を包むように握ってやると、安心しきった瞳で微笑んでくれる。
晴明が弱っている状態では、背中を支えて自分ができうる限りのサポートを全力で遂行してくれた。まさに無償の愛を与えてくれる、世界でただ一人。

どうやら自分は、博雅に初めての恋心を抱いているらしいと自覚してからは、自分の顔やスタイル目当てで言い寄ってくる年上の女達と縁切りをし、私生活でも常に身綺麗とする意識した。
まだ友人であった頃に、数人の女達と肉体関係を持て余している現場を博雅に数回見られてしまったせいで、誤解されている汚名も返上したい。

何せ博雅は究極の箱入り息子で、若くして世界に名前を知られる演奏家なのである。わずかなスキャンダルでも許されない、将来を期待される日本音楽界の星だ。

色浴に全く疎い未成熟な男に、自分だけを意識させるようにするのはどうすべきか。大人になってからもずっと、博雅の一番近くにいる為にはどんな男に成長すべきなのか。そればかり考えて道を選んできたのである。


マダム、ムッシュ、貧しい哀れなガンダムオタクにお恵みを……。