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男女の出会いスポットでもあった靖国神社

永井荷風の昭和5年(1930年)5月28日の日記(断腸亭日乗)にこんな記述がある。

《薄暮番街に往き小星(しょうせい※但馬註・彼女程度の意)を伴い招魂社の庭園を歩む。池のほとりの新聞縦覧所にわかき芸者二人何やら人を待つ様子にて牛乳を飲みゐたり。小星曰くこの縦覧所は久しき前より法政大学の学生または女学生の出会をなす処なり、縦覧所のかみさんは艶書の取次をなすこともあり、進んで恋の取持をもなすという噂もあるほどなりと。帰途遊就館の門前を過るに立番の憲兵浴衣姿の芸者と語りゐるに逢う。東京の公園も追ゝ西洋らしくなるは可笑し。》

靖国神社の池のほとりは若い男女の出会いの場でもあったらしい。新聞縦覧所のおばさんが、ラブレターの取次もしていたというのだ。
そして憲兵。戦後のわれわれは、映画などの印象で、おっかない人たちという印象しかない。それこそ、若い男女が並んで歩いていたりすると、「おいごらあ」しそうである。しかし、ここでは浴衣姿の芸者と談笑している。想像するとなんともほのぼのとした光景だ。
靖国神社で生まれたカップルもいっぱいいたことだろう。

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