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白紙の手紙

 仕事帰りにポストを見ると、真っ白な封筒が一つ、置いてあった。その封筒には本当に、ただ一つも文字が書いていない。
 だけど、送り主はすぐにわかった。
 知る限りこんな手紙をよこすのは一人しかいない。
 足早に家に入ると、コートを脱いで封筒を開ける。ほんのりとオレンジの香りがして、手紙を持ったまま肌寒いベランダに出た。

 十二月中旬、この時期の外は寒い。
 ポケットから煙草を取り出し、火をつける。早く電子煙草にしたいと思いつつ、この不便な寒さは嫌ではなかった。吐いた煙は夜の空に
濃く跡をつけ、そのくせすぐに消えていった。
 半分ほど煙草を吸うと、そのまま口に咥えてライターに火をつける。先ほど送られてきた手紙を火に近づけると、ジリジリ控えめな音を
立てながらあぶられていった。
 真っ白な手紙はだんだんと茶色に変色し、文字を形成する。
 いわゆる「あぶり出し」。
 オレンジの匂いがほのかにするから、きっとオレンジの果汁で文字を書いたのだろう。時間が経つにつれ書いた文字は消えていく。しかし、こうやって火であぶれば、再び文字が浮かび上がってくる。

 こんなまどろっこしいやり方をするのは彼女くらいで、この手紙に一度も返事を出してないのに手紙が届き続けるのは、気づかれなくても良いと思っているからだろう。それすらも彼女らしい。
 茶色の文字が手紙を覆うと、彼女の言葉が見えてくる。



「クリスマスイブの夜、駅前広場のもみの木で待ってるから。」