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強い「想い」を持って「数字」にシビアに向き合う。これこそが、僕の経営哲学

「介護業界には、強い想いを持って事業運営をしている経営者が多い」

僕が10年以上介護業界で働いてきて感じていることだ。
しかし実際は「想い」だけでは経営はできない。

1億4000万円の債務超過に陥った経験から、僕が身をもって感じていることだ。もちろんお客様への献身的なケアや熱意は欠かせない。一方それだけでは、会社の健全な経営や事業存続には結びつかない。

経営に必要なのは、「想い」と「数字」の両輪ではないだろうか。

会社を経営していると実践を重ねながら学ぶことがたくさんある。今回は、僕が2020年からリンクスを経営するなかで感じたこと、今感じていることを言葉にしておきたい。


売上よりも大事なこと

「あなたの会社の利益はいくらですか?」

こう尋ねても、パッと答えられない人は多いのではないか。経営者のなかにも自分の会社の数字を見ることが苦手な人もいると聞く。

会社について話す際、よく出てくる言葉に「売上」と「利益」がある。経営において大事なのは圧倒的に「利益」だ。売上が50億円で利益は1億円の企業と、売上は5億円で利益は1億円の企業であれば、優良企業と言えるのは間違いなく後者だと僕は考える。

利益を出さないと、お客様へのサービスをより良くするための設備投資や、給与や福利厚生を充実させて職員へ還元することもできない。だからこそ僕は、経営者としては当たり前のことかもしれないが、利益や数字を大切にしている。

今でこそ利益や数字の大切さを実感しているが、代表就任前の僕は数字への認識が甘かった。当時から会社の運営を担っていたため、人件費率や入居率などを把握してはいたものの、なんとかなるだろうとの気持ちで数字を捉えてしまっていた。

また、利益よりも売上や規模感ばかりに意識を向けていたように思う。売上を最大化する仕組みは構築できていたけれど、利益を最大化する仕組みではなかった。結果として、1億4000万円もの債務超過を生んでしまった。

この経験を機に数字への意識をより強くした僕は、会計の勉強を行い、利益を上げるための仕組みづくりに取り組んだ。そうして無事に、債務超過を解消することができた。

▼債務超過を解消するまでの過程についても人生を振り返るnoteでも触れているので、読んでもらえると嬉しいです。


介護報酬の仕組みを理解した上で、自分たちに合った方法を組み立てる

 利益を上げる仕組みを作る上で、まず僕が前提として理解したのは、国が作っている仕組みに沿って事業を運営するだけでは不十分であるということだ。実際に、介護業界の税引き前利益率の平均水準は約3%に留まっている。これでは、サービスをアップグレードするための新たな設備投資を行ったり、職員の満足度を上げるための福利厚生の拡充などはほとんど行えない。

お客様や職員の満足度を上げるためには、事業運営により十分な利益を確保することが必要だ。そのためには、介護保険法を深く理解し、自分たちの施設や体制に合った形で緻密に組み立てていく必要があると僕は考えた。そしてこの組み立てを行う過程で、リンクスではデイサービスが主体の事業運営から訪問介護を主体とするスタイルに切り替えた。

なぜかというと、大規模な施設ならまた別だが、リンクスが運営するような小〜中規模の施設ではデイサービスで収益を上げることが非常に困難だからだ。

介護事業では、介護を受ける方の要介護度と利用日数によって国からもらえる報酬が変わってくる。その報酬を限度額までもらうためには、デイサービスの場合、要介護度5の方であれば週に7日、つまり毎日通ってもらう必要がある。

参考:要介護度の区分について

https://www.minnanokaigo.com/guide/care-insurance/degree-of-care/

果たして、毎日デイサービスに通いたいと思う人がいるだろうか。多くの人は何日かは家で休みたいだろうし、そもそもそのようなケアプランを作るケアマネージャーもいないだろう。

要介護度が4の方であれば、週5〜6日程度利用していただくことで国から満額の報酬をもらうことができる。そのため、毎日通っていただける仕組みを作ることを目指したい。ただ、リンクスで要介護度の高い方に対して介護サービスを提供し、かつ利益を上げる体制を整えることには限界があると感じた。そのため、訪問介護を主体とした運営に舵を切った。

 また、介護業でもっとも大きな固定費は人件費だ。一方で、介護業界では、働く人がいてくれることが何よりも重要でもある。そのため、いかに粗利を減らさずに人件費を確保する仕組みを構築できるかが重要なのだと思う。

僕たちリンクスではデイサービスから訪問介護への切り替えが最適解であったが、それぞれの会社の特徴や規模に応じて、報酬の最大化を目指す方法があるのだと思う。介護事業の経営者として、その方法を模索し、適切に仕組み化していくことが、お客様や職員の満足度を上げながら、事業を継続していく上で重要なポイントなのではないだろうか。そしてここが、もっとも経営者の手腕が試されるところでもあると感じている。

利益の重要性を「自分ゴト」として理解してもらう

 「利益を追求する」と聞くと、お金のことばかり考えているように感じられて、マイナスの印象を持つ人もいるかもしれない。でも、なくてはならない介護の仕事をしている自分たちが、豊かな生活を送れない状態で人を幸せにすることは、僕はできないと思っている。だからこそ、事業でしっかり利益を上げて、それを働く人に還元することが僕の役割でもあると思っている。

この「利益を追求すること」に職員が悪い印象を抱かないように、みんなに利益の重要性を伝えることも経営者としての大切な役割だと考えている。

たとえば、現場から「もっと職員を増やしてほしい」と声が上がることもある。もちろん適正に人員を配置することは重要だ。しかし求められるままに人員を増やしていくと、利益が落ちてしまい、結果的にお客様に提供するサービスや職員の給与にも影響が出てしまう可能性がある。

このような場合には「自分ゴトと捉えてもらえる」形で、利益を高めることの大切さを伝えている。「みんなの給与を上げたいからこうしているんだよ」、「どうしたら今の人数でケアができるか体制をもう一度考えてみない?」といった問いかけをしている。こうして粘り強く伝えていくことで、職員たちも「利益の重要性」を理解してくれるようになったと感じている。

幹部を目指すメンバーたちには「8週間プログラム」という僕の想いを伝える場で、より詳しく利益の重要性を伝えている。ディスカッションも交えながら行うこのプログラムを終了した後には、彼らは利益の大切さを自らの言葉で現場の職員たちに伝えられる状態となる。

また定期的に、施設を回って施設長や職員との対話も行っている。現場と管理職の両方に、利益と数字の大切さを伝え続けているのだ。

中期経営計画の発表時


付加価値の高いケアを目指す

 他にも僕が大切にしていることがある。それはお客様の意思に沿った介護ケアを提供することだ。

以前、『付加価値のつくりかた』(田尻望/かんき出版)というキーエンスで働いていた方が書いた本を読んだ。キーエンスといえば、営業利益が非常に高いことで有名な企業である。この本によると、付加価値とは「お客様すらも求めていることに気づいていない感動の価値」を指す。

本書に出てくるのが、洗濯機の事例だ。とあるメーカーが、「より洗浄力の強い洗濯機を顧客は求めているに違いない」と、従来の商品より洗浄力の強い洗濯機を開発したが、売上は芳しくなかった。しかし、一方で、洗剤や柔軟剤を自動投入してくれる洗濯機はよく売れた。

この話のポイントは、「自分たちがよかれと思っていても顧客が求めているとは限らないこと」、「お客様すら気づいていない価値を先回りして提供したこと」ではないだろうか。

介護のなかでも、洗浄力の強い洗濯機開発のように、相手が求めていないことを良かれと思ってやってしまう場面がある。そうした独りよがりをできるだけなくし、お客様が本当に求めているケアを行っていきたい。

たとえば、要介護度の高い傾向にあるリンクスのお客様には、寝たきりの方もたくさんいる。寝たきりの方の介護となると、「寝たままではいけないから」との想いから、起きあがらせようとする人が多い。もちろん、定期的に体位を変えることは大切だ。

でもそのお客様は、寝たきりでいたくないと思っているのだろうか。本当は起き上がるのもしんどくて、もう寝ていたいと思っているかもしれない。

食事だって1日3食食べないといけないわけではないし、寝たきりだからといって必ず起き上がらないといけないわけではない。お客様の体調をみながら、できるだけご本人の意思を尊重したサービスを提供できたらいいなと考えている。これが僕の「想い」だ。

忘れられない入居者様の話

 僕には忘れられない入居者様がいる。

その方がリンクスの介護施設にやってきたのは、101歳の頃だった。食事の際のむせ込みが激しく、リンクスの利用以前はそれが原因で入退院を繰り返していた。そこで看護師が常駐しているリンクスを選んで入居してきてくれたのだ。

むせ込みはあるもののとても元気で、ご飯も自分で食べるし会話も問題なくできる方だった。寝ることがとても好きな方で、1日の8割くらいの時間を寝て過ごす生活を送っていたが、僕らの施設では、無理して起こすことはしていなかった。ご飯の時間になれば声かけはするものの、本人が食べたくなければスキップするなど、できるだけご本人の望む生活を送っていただいていた。

実は彼はリンクスに入居する前はデイサービスを利用していて、「朝早く起きてデイサービスに通わないといけなくてしんどかった」とこぼしていた。だからこそ「リンクスでは自分が思うような生活ができる」と喜んでくれていた。

僕自身は彼が入居した時には、すでに現場を離れていたため、介護士として関わることは少なくなっていたが、それでも姿を見かけるたびに元気になっていくように感じられた。その度に「うちに来てくれてよかったな」と思ったし、ご家族からも「元気になってよかった」と喜びの言葉をいただいた。

残念ながら105歳で亡くなってしまったが、僕らが大切にしている付加価値のあるサービスを喜んでいただけた入居者様だったと思う。

 ここ数年は介護現場でも、事前に終末期を含めた将来の方針について話し合っておくアドバンス・ケア・プランニング(APC)の重要性が認知されはじめている。このように介護や医療を受ける側の意思を尊重し、独りよがりなケアを行わないことが、ケアの価値を高めるためには欠かせないはずだ。

今後も本人のやりたいことをできるだけ尊重することができる介護を行っていきたい。そうしてお客様にも喜んでもらうことが、従業員のやりがいにもつながるのだと思う。

 今回は、僕がこれまでの経営で学んできたことや事業への想いを言葉にした。

健全な経営を成り立たせるためには、「想い」だけではなく「数字」へのこだわりは欠かせない。介護業界では、3年に一度の介護保険法改正があるため、事業経営を行う上での変数がとても多い。そのなかで、数字に向き合い続けるのは、一筋縄にはいかない。

そこに「想い」がなくては続けられないのだ。

現在、「想い」を持って介護事業を経営している3社の経営者に、僕たちが学んできたことを共有している。彼らもまた、僕らのように自分たちの組織に合った仕組み作りを行っている最中だ。こうして、介護事業への「想い」を持ち「数字」にも強い経営者がもっと増えていくことで、介護業界のサービスの質や職員の給与水準を高めることができると信じている。

彼らと一緒に沖縄をもっと元気にしていきたい。


▼僕の自己紹介noteです。興味をお持ちいただいた方は、読んでいただけるとうれしいです。

こちらはリンクスのヒストリーブックとリクルートサイトです。よかったらこちらも見てくださいね。

書き手 えなりかんな
聞き手・編集 サオリス・ユーフラテス

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