🇨🇳#31 江蘇省・蘇州〜地元テレビに食レポ担として出演してデジタルタトゥーを刻んだ話〜

2024年5月6日 02:32

胃腸炎を患って1週間。
まだ全快ではないが、上海から新幹線で三十分、江蘇省・蘇州にやって来た。

実は、わたしの中国生活で一番思い出深い場所が、ここ蘇州である。
というか、中国とはいわず、いつか閻魔大王の前で全てを曝け出す日が来たら、よいことも悪いことも、ほとんどが蘇州の話になるのではないかというくらい、人生の主要な出来事を経験したのがこの街なのだ。

わたしと蘇州との縁は古く2013年に始まる。
上海のフリーペーパーで編集として二年勤務したのち、「地方、人がいないから、ちょっとの期間、なんとか頼む」と、当時の営業部長Tさんから安い羊肉串屋で懇願された末に派遣されたのが、蘇州の地だったのだ。

一晩二晩では語り尽くせぬ蘇州での思い出

さて、こうして羊肉の串焼き6本程度でまんまと言いくるめられたわたしは、知り合い0の蘇州の地に移り、ひとりで中綴じ含む130ページの月刊誌の編集をすることになった。
しかし、すでにこの時わたしは独立志向にあったため、会社勤めをしたくなかったのだ。
そこで、本来副業禁止だった雑誌社と交渉して、「一人で月に一冊仕上げる」条件のもと、勤務形態、兼業含めて何をしてもOKという自分に都合のよい契約に持ち込み、ついでに、思い付きで副業のおばんざいやを始めたのである。
で、このおばんざいやがまあまあ流行ったことから、当時二十代という若さもあって、わたしはすっかり調子に乗ってしまったのだ。

そうして、わずか八年足らずで三店舗の飲食店とお土産屋一店舗を開業しては潰し、儲けたり大損したりを繰り返して、肝を冷やしながら日々を過ごしたのである。

八年という蘇州での暮らしを振り返ってみると、経営している店の月の固定コストが二百万円なのに、預金額が六十万円になってしまったり、店の内装工事にミスがあり、一千万の賠償金を払う危機が訪れたり、道に落ちていた可愛い子うさぎを拾って育てたらビッグジャイアントに成長してしまったりと、幾多の困難があった。

それでも、わたしはこの美しい江南の古都の街並みを持つ蘇州という街が好きだ。

あと、蘇州の食べ物でいえば、とりわけ上海蟹が大好物なのである。

実は、「上海蟹」と呼ばれる蟹は上海の名産ではなく、蘇州の陽澄湖という場所が最も有名な産地なのだ。

上海蟹は淡水で育ち、秋から冬にかけて旬を迎える。
「六月蟹（リウユェホワン）」と呼ばれる幼蟹を除いては、だいたい9月半ばから出回り、10-11月初めは雌の蟹味噌、11-12月は雄の白子が楽しめる。
少し肌寒い季節に、熱々に蒸した上海蟹を温めた紹興酒と一緒にいただくと、これが最高にオツなのだ。

食レポ担として地元のテレビ番組に出演することに

で、蘇州で大の蟹好きを訴え続けていたら、ひょんなことから、2年前、地元のテレビ番組に「上海蟹好き設定の外国人ゲストレポーター」として出演することになったのである。

しかし、この番組出演は、結果としてわたしの人生で大いなる負の遺産となってしまった。
いわゆる、デジタルタトゥーというやつである。

まず、何が失敗だったかといえば、テレビになど一度も出たことのないわたしは、この時、自分が大女優か何かになったと勘違いしたのか、ロケ地にスッピンで行ったのである。

「メイクさんがいるだろう」
それは全くもって甘い考えであった。

わたしが集合場所の新幹線駅に着くと、二人のメイン中国人レポーターはすでに到着しており、このローカルロケは突然にして始まった。

「え…ちょっ待って…まだ眉毛すら描いてない…」

で、その後、移動の度にコソコソと自分でメイクを付け足し続けたわたしは、1日目の撮影終了時に、ようやく顔が完成したのである。

よって、番組を観た知り合いたちからは、「登場と最後別人なんだけど…」「出だしブ⚪︎じゃね？」という、辛辣な言葉が寄せられた。

さらに、その後、上海蟹を食べるシーンで事件は起こった。

なんと、前歯に、蟹の足（の殻）が挟まってしまったのだ。

（マズイ…早く取らなきゃ…　
舌でこう、前歯をなぞって…っと
…
いや、これぜったい無理だわ…((((；ﾟДﾟ)
歯の隙間に鬼固定されとる…
誰か、そのカメラをとめて…(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥｀)
…

あ、待って。
レポーターの二人とも、今、わたしに話題振らないでね。
いやいや、蟹の感想とか聞かないでくれよ。
はい、おいしいです、好吃。
あ、喋ると、蟹足見える…ヤバいヤバいヤバい…(ﾟ∀ﾟ)）
…

こうして、2日にわたる冷や汗もののロケが終了した。

しかしまあ、今の時代、きっとテレビ視聴はスマホがメインだろう。
せいぜい6インチの画面で、わたしの前歯に挟まった蟹足を視認できる人間はそう多くはあるまい。
わたしはそう思った。

番組放送後、数か月later…

天災も人災も税金の支払いも、具合の悪いことは忘れた頃にやってくるようだ。

すっぴんブ⚪︎映像のことも、歯に挟まった蟹のことも、番組に出たことすらも、すべて綺麗さっぱり忘れたある日、なぜか日系企業の海外現地コミュニティ・日商クラブの集まりで、この番組の視聴が行われることになったのである。
（わたしは日本にいたため不参加）

視聴会場は、蘇州の豪華映画館。
スクリーンにでかでかと映し出される、わたしの丸くてでかい顔。

そう、こうして歯に蟹足が挟まったわたしのマヌケづらは、蘇州の日本人駐在員の皆さまにしっかりと確認されてしまったのだ…。

そこからは、SNSのメッセージが鳴りっぱなしであった。

…

「白丸さん、歯に蟹が！」
「歯に蟹挟まってますよ！」
「🦷🦀🦷！」

…

うん、蘇州。
たくさんの思い出と学び、恥と痛みをありがとう。

こうして、蘇州で古傷の疼きに耐え抜いたわたしは、浙江省・紹興へと向かう。

つづく

現在の総移動距離　約24080km
現在の33地域クリア率　　33分の31
降り立った都市　37
(1)上海(2)新疆ウイグル自治区（カシュガル/ウルムチ/トルファン）(3)甘粛（敦煌/蘭州）(4)青海（西寧/海南チベット族自治州）(5)寧夏回族自治区（銀川）(6)陕西（西安）(7)山西（平遙）(8)河北（石家庄）(9)内モンゴル自治区（フフホト/ウランチャブ）(10)北京(11)天津(12)遼寧（瀋陽）(13)吉林（長春）(14)黒竜江（ハルビン）(15)山東(青島)(16)河南（永城）(17)安徽（馬鞍山市）(18)江西（九江市）(19)湖北（武漢/赤壁）(20)湖南（長沙）(21)貴州（銅仁市）（22）重慶（23）四川（成都）（24）雲南（麗江）（25）広西チワン族自治区（南寧）（26）海南（海口）（27）広東（深圳）（28）香港（29）マカオ(30)福建(福州）（31）江蘇（蘇州）
飛行機　　9回
新幹線　　18回（乗り換え含む）
寝台列車　4回
越境バス　2回

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？