時野あおい

子育てを終了した主婦です。関東の実家で母を介護しています。ときどき介護職員として出勤も…

時野あおい

子育てを終了した主婦です。関東の実家で母を介護しています。ときどき介護職員として出勤も。 自宅は関西で、関東3週間、関西1週間のペースで行ったり来たり。 社会人経験は、教員、会社員、事務系派遣、契約ライターなど。 初心者ですが、どうぞよろしくお願いします(^^)

最近の記事

手をつないだ記憶③『亡き父――今も未来も支えてくれる手』

父は無口だが人懐こかった。黙ってそこに居るだけで子どもや犬が寄ってくる、そんな人だった。 亡くなる前の1年間は入院していて、遠方に住む私は、1カ月半に一度帰省し父を見舞った。 久しぶりの面会は緊張する。――どれだけ病状が進んだだろう。痛々しい姿になっていないだろうか。私のことがわからなくなっていたらどうしよう――不安で病院へ向かう足取りが重くなる。 何度目かに見舞ったとき、父は車いすに座り談話室にいた。私を見つけると「やあ」という風に手を挙げた。それを見てホッとした私は

    • 手をつないだ記憶②『義母――つながる運命をたどった手』

      新婚のころ、義母が夫の出身中学校を案内してくれたことがある。 校内を歩きながら「あれが新しくできた武道館」と指さした義母は、自ら良く見ようと高さ80㎝くらいの花壇に上った。ツツジのような低木が植えられていたと思う。当時の義母は60代。若くはない。 ――花壇に入っちゃダメでしょ。第一危ないじゃないの。 ハラハラする私をよそに、彼女はずかずか植え込みをかき分けて武道館を見に行き、帰ってきた。そして、下りる段になって案の定、高さに戸惑っている。 私は形式的に手を差し出した。

      • 手をつないだ記憶①『見知らぬ老婦人――心を一瞬で溶かしてしまう手』

        大人になってから、だれかと手をつないだことはあるだろうか。 日本には握手の習慣がないから、恋人や子どもとでもない限り、人の手を握る機会はあまりない。だからこそ、成り行きでだれかの手に触れた瞬間は、鮮明に心に残っていたりする。 ***** 冬のある日、体調不良を押して仕事の打ち合わせに出かけた帰り道。疲れを感じながら電車のホームを歩いていると、ツトツトと前を行く高齢女性が見えた。 その人はベンチに座っていた高校生くらいの男の子に近づいていく。 ――あら、お孫さんかしら?

        • 介護の仕事は恋愛に似ている

          サービス付き高齢者向け住宅で、訪問ヘルパーとして働いている。勤務の日、私の心は忙しい。ドキドキ、ホッコリ、ガッカリ、キュンキュン。介護は私にとってまるで恋愛だ。 気分の浮き沈みがあるタマエさんは、抱きしめたくなるほど可愛くなったり、不穏なムッツリになったり。訪問するときは、(今日はどうかな)と緊張する。「お食事お持ちしました~♪」と強引な笑顔で踏み込み、人懐こい目線を返してもらえると、(やった!)とうれしくなる。 明るく華やかなユウコさんは、シャワー前は大抵「今日は体調が

        手をつないだ記憶③『亡き父――今も未来も支えてくれる手』

          ガラスの亀 〜父からの時限サプライズ〜

          息子は幼稚園のころ亀が好きだった。孫バカの父は、息子と私が帰省するたび、亀グッズをくれたものだ。 息子が小学校に入ってから父がくれたのが、クリスタルガラスの亀だった。 カット面は一様ではなく、手足を接着剤で貼った雑な作り。それでも数千円はするだろう。子どものおもちゃにしては高すぎる。もったいない、と私は思った。それに、息子の亀ブームは既に下火になっている。案の定、その亀は大した興味も示されぬまま、彼の部屋の隅で忘れ去られた。 時は過ぎ、息子が中学生の頃。 洗濯物をしま

          ガラスの亀 〜父からの時限サプライズ〜

          ドンケラリー ~世界を席巻した日本の花~

          実家の庭に見慣れぬ椿が咲いた。キャンディーピンクに白い斑入りの八重咲、大輪。庭木の隙間にすっくと立った80㎝に満たない若木だ。前から椿は数本あったが、単調な赤の古風な花で、気にも留めていなかった。 でも、これはドレスアップした乙女のような華やかさ。俄然興味がわいた。いったい何という品種だろう。母にきいてみたが、高齢のため、この花がいつどうやってこの庭に来たかさえわからない。 インターネットで花の特徴を検索してみる。たどり着いた名前は……「ドンケラリー」?! 見た目とのギャ

          ドンケラリー ~世界を席巻した日本の花~

          パパの豪快スキップ

          コロナ禍で世の中が欝々としていたころのこと。買い物帰り、通りの向こうの父子に気づいた。 幼稚園服の女児が、父親の右手にぶらさがりケンケンしている。片足飛びだからノロノロしか進めず、しがみつかれた父親も歩きにくそうだ。 しばらくして父親が何か耳打ちしたかと思うと、2人はつないだ手を大きく振って、いきなりスキップを始めた。 若いパパのスキップは威勢のいい大股で、タッタラッタとリズミカル。女の子もつられて弾けるように跳ねている。息の合った力一杯のスキップは何だかおかしくて

          パパの豪快スキップ