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短編小説、エッセイなど。一日一更新を目標にショートショート、54字、などを書きます。 …

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短編小説、エッセイなど。一日一更新を目標にショートショート、54字、などを書きます。 #毎週ショートショートnote #シロクマ文芸部 #54字の物語に参加中です。

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  • 「八人目の敵」

    フィクションです。

最近の記事

友情の総重量 ①

 重量感たっぷりの段ボール箱がいくつも届いた。床がミシリと鳴る。差出人は小学校時代の親友のメグミだ。 「お元気ですか。今回クラス会の幹事を引き受けてしまいました。これはそのお知らせなのですが、今までアユミちゃんにお渡しできなかった写真類と送れなかった私の気持ちを綴った手紙と、返し忘れていた漫画と本とCDとゲームをこの機会に一緒に送りますね。お金も借りていましたよね。書留じゃなくて、小銭で御免なさい。あのときのことはどうか水に流して、元どおり仲良くしてもらえたら嬉しいです。お

    • 雨を聴く ②

       雨を聴く心のゆとりはなかった。 「tojicどうだった?」 「リーディングとライティングはできたけど、リスニングがなあ」 「問3は迷ったよ。引っかけ問題だよね」  同期のやりとりは無慈悲な雨音となり陰鬱に響く。雨。飴。どっちだっけ。確か、亀と甕と同じじゃない? では海亀と水瓶は? 長雨と水飴は? そうだ頭に何か付くとイントネーションが変わってしまうのだった。  こんな些細なことで彼らは敏感に聴きとってしまう。通じればいいなんて小糠雨の手ぬるさはない。四つの水滴は同じ角度で斜

      • 雨を聴く ①

        「雨」を聴くのは久しぶりだ。そして思わず苦笑してしまった。これは確か誰かに借りた『カンツォーネ集』に収録されていた曲。デパートをウロウロしているとたまにジリオラ・チンクエッティのこの曲が流れてくる。外は雨ですよ、出入り口に抜かりなく傘を置きなさい、紙袋には雨よけを被せましょう、との従業員さんらへの指示だろう。そのあと条件反射的にに耳に流れたのが同じく1970頃の映画音楽「ガラスの部屋」だった。耳に馴染んでいるのは例のテーマ曲だから。一時期イタリア語学習フランス語学習と称してカ

        • 三日坊主のクレーター 創世記編

          一日目。女将はヒラメキました。ヤミーなら何でもアリ。最悪水だけ足してこねてもいい。 二日目。カオスのキッチンからホットケーキミックスを発掘です。卵と牛乳を足して混ぜようか。残念ながら買い置きがないわ。 三日目。タネをフライパンに丸く広げたらまるで満月のよう。衛星の完成です。黄味も膨らみ成分もすでにそこにあって、プツプツと小さな気泡が湧き上がりはじけます。 四日目。女将はひと休みしてコーヒーを淹れましたとさ。 「うっ、まさかそれで創作大賞レシピ部門に応募しようってんじゃ

        友情の総重量 ①

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        • 「八人目の敵」
          11本

        記事

          朝ドラの話?

           好評です虎に翼。ヒロインが旧民法から新民法へと移り変わる局面です。何が争点なのか少し分かりづらいですね。毎回モヤっとするのですが、このドラマは時代を描いているようでそうでもないですよね? さらに言うとそれは現代視聴者への心遣いのせいでしょうか。例えばお父さんがお亡くなりになった場合、お母さんが三分の一(当時)子どもたちが残りを等分。それは戦前も戦後も同じでした。でも実際は長男が全てを取り他の家族の世話を抱え込み、それ以外の人は権利を放棄するのが普通でした。カムカムのような次

          朝ドラの話?

          #毎週ショートショートnote 表裏一体編

          てるてる坊主はずるい。 首尾よく空が晴れたなら 「てるてる坊主様のおかげ!」 と感謝されるが、晴れなかったとしても本気でてるてる坊主を恨んだりするほど非科学的で大人気ない人はいない。 甘やかされている。 その点クレーターは違う。 クレーターとは地中海に浮かぶギリシャ最大の島だ。クノッソスの神殿など観光名所もあるが、なまじクレタ人のパラドックスとやらが知れ渡ってしまったせいであたかも全員が嘘つきであるかのようなイメージが定着してしまった。別の地域の者が嘘をついても 「

          #毎週ショートショートnote 表裏一体編

          三日坊主のクレーター ①

           ねえ貴方、あの子にガツンと言ってクレーター? もう一日中ゴロゴロしてるのよ、まあ、まだいいじゃないかですって? 駄目よ、ついさっきもオレはゲームクレーターになる! とか寝ぼけたことほざいていたわ、そんなことで通用したら世の中誰も苦労なんかしないわよ。何よ、そのほほう、クレーターか、悪くないじゃないか、俺も子どもの頃には考えたもんだよとか言いたげな顔は。その話だったらもう何度も聞いたわよ。それ、戦国ものよね? 主人公が独裁的な主君に仕える話よね? 日頃の仕打ちに耐えかねて遂に

          三日坊主のクレーター ①

          てるてる坊主のラブレター

           梅雨の合間のベランダに雨ガッパがぶら下がっています。まるでてるてる坊主。頭の部分に丸めたタオルを入れて形を整えたのです。昨日中学生の息子が雨に降られてずぶ濡れになって帰宅しました。 「カッパじゃなくて傘を差せばいいのに」 答えません。ニコリともしない。最近はいつもこんな感じなのです。一人で何かメモのようなものをながめています。あれはメッセージカードでしょうか。もしかして丸文字で「ありがとう」とか記されていたりして。そこまで考えると胸の奥がチクリと痛みました。彼の周囲の女の子

          てるてる坊主のラブレター

          恋文? #毎週ショートショートnote

           これはいったい何だろうか、手紙のようだけれど。  初めまして、先日おたくのお屋敷の園遊会に忍び込んだ者です。あなたのお姿を一目でよいから拝見したいと招待状もなく乗りこんでしまいました。さすがに深窓の令嬢だけあって晴れやかな野点の場にさえお姿を見せませんでしたね。そこでお屋敷の階上に張り出した露台によじ登ってあなたのお部屋に侵入などしようものなら忽ち監視カメラに捉えられ関係省庁のモニターにこの姿を晒してしまうことでしょう。一計をめぐらせまして、この手紙と同送の宅急便には仮死

          恋文? #毎週ショートショートnote

          てるてる坊主のラブレター ①

           照くんへ。あたしの心は雨模様です。さっき見知らぬ女の子があたしをチラリと見てそれから見てないフリをして聞こえよがしに 「まただわ、テルテル坊主よ」 と言ったのです。その意味するところはあたしだって知っています。照くんいつも別れ際に言うでしょ 『じゃあ、あとで電話するから』 って。でもいつもあたしは待ちぼうけ。しかも他にも待たせている子がたくさんいるのね、そんなに有名なのね? それでもあたしは待つしかないのね?   ちょいとテルさんたらあんた電話するするって言いながら全然電

          てるてる坊主のラブレター ①

          今週のお題、その他

           今週のお題が一際難しかったせいでしょうか、みずから目標としている「毎日ショートショートnote」が達成できていません最近。ついつい映画鑑賞記録のようなものを挿入したおかげで「毎日更新」はどうにか果たせたのですが、不思議なものでそうした時に限って映画のなかにお題の要素が紛れ込んで来るのでした。奇妙な岩のような靴の山。今週鑑賞した映画は「関心領域」でした。万人受けかどうかわかりませんが、とにかくこんな感じでしたよと記事にしたところ(5/29)、何と翌朝の天声人語でもこの映画が取

          今週のお題、その他

          赤い傘 ② 祈願上手編

          「赤い、傘」 「酒井かあ、りがとう」  翌朝には黒板に赤いチョークで二等辺三角形の頂点の二等分線の延長線の両側に「赤井」と「酒井」の文字が並んでいた。二人を目撃してい級友たちがいかにも小学生らしく囃し立てるのだった。  あの頃がなつかしい。雨が降れば皆傘を差したものだ。もう雨は降らない。降り注ぐ飛翔体の時期が終わると、われわれは大きな赤い傘の下に納まったのさ。 「何よ、せっかく傘に入れてあげたのに、またつまらないディストピア落ちなのね? もう知らない、酒井なんかキライ」

          赤い傘 ② 祈願上手編

          赤い傘 ①

           赤い傘を知りませんか、失くしてしまったのですけど。梅雨の合間の夏の気配のする赤の他人に話しかけられて、でもあなた半分は赤い傘を差しているじゃありませんか? 教えてあげるのが親切なのかお節介なのか迷うこと、ありませんか? そういえばだいぶ前に誰かに借りて、そのままだったかも、あれはどこにやったのだっけ。誰かにまた貸ししてしまっていたりして? 片づけついでにさがしてみようかと、西日に色褪せたベージュの雨傘を広げると内側は意外にも鮮かで斑ら模様の変化朝顔が花開くのでした。

          赤い傘 ①

          祈願上手 ②

           姉さんの部屋からあの調べが響いている。「お上手だわ」 通りすがりの近所の人が声をかけてくる。曖昧な笑みを返してやり過ごす。あの一曲だけで有名なポーランド人女流作曲家バダルジェフスカについて多くのことは知らない。ピアノのメロディーが公民館の聴衆を魅了したのはもう何年も前のことだ。 「まるでお人形さんみたいですね」 ウットリとため息をついていた人々。だがその後に起きた事を話して良いものか。次から次へと持ち込まれた縁談はことごとくうまく行かなかった、まるで誰かに邪魔でもされたみた

          祈願上手 ②

          奇岩シューズ ②

          靴を選ぶにあたっては、サイズと素材と色とデザインと値段とトレンドと耐水性と重さだけ考えればいいのなら楽なのよ いらっしゃいませとにこやかに何かしら条件をはずした商品たちにずらりと並んで出迎えられることばかりなのだけれど 我儘な足は骨と新しい靴の板挟みとなった肉がすぐに悲鳴をあげるから傷バン重装備に貼っても慣れる頃には靴ボロボロ お客様こちらはいかがですピッタリですよと本人よりも満足げな店員さんにああそれならすでに何度も買ってもう飽きた 靴たちは震えている岩の足に履かれ

          奇岩シューズ ②

          「関心領域」

          を見てきました。だんだんと薄くなりやがて消える 「The zone of interest 」の文字。レビューを眺めると 「怖かった」4.0 「映画として不親切だと思う」2.0 「これは現代の我々の問題だ」  あまり書くとネタバレになりますので控えますが、例えばこんなシーン、主人公がラジオでサッカーのニュースを聴いているとします。イタリア対スペイン戦4-0。関心のある層はもうここだけで、あの試合だね、今は〇〇年なんだね、となりますが、知らんがな、となる層もいることでしょ

          「関心領域」