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アンドロイド転生859

2118年8月3日 午後
茨城県:山道

チアキは山道を登っていた。緑が生を謳歌している。5月の終わりにここを去った。まだ2ヶ月と少しなのに懐かしく思えた。多くの想い出が過ぎる。16年間も暮らした村なのだ。

自分がホームの一員になって3年後にアンドロイドがやって来た。ルークとミオだった。14歳モデルのミオは自分とは11歳も離れていた。人間だったら妹なのだと思うようになった。

そしてミオはまるで自分を姉のように慕った。それが嬉しかった。ミオは可愛かったし、少女モデルらしく溌剌として元気で明るかった。それなのに実際は辛い過去があったのだ。

ミオはストリッパーだった。舞台でほぼ全裸で踊り舞って観客を誘う。そして人間達の慰み者になるのだ。あらゆる方法で凌辱された。中には興奮して暴力を振るう者もいたらしい。

ルークは戦士だった。ファイトクラブで機能停止を賭けた一本勝負。やらなければやられるのだ。2人は観客達を喜ばせる為だけの存在。嫌気がさして逃亡してホームの一員になった。

そんなルーツがある2人はいつしか愛が芽生え、互いを慈しむようになった。それが心なのか電気信号なのか分からない。けれどアンドロイドだって愛し合ったって良いではないか。

里に到着すると村民がチアキを迎えた。チアキがリュックから小箱を取り出して見せた。中にはルークの眼球が入っている。キリが一歩前に出た。
「お帰り。ルーク」

小高い丘の上のミオの墓に村民全員がやって来た。チアキは穴を掘ると小箱を埋めた。
「ミオ。ルークが帰って来たよ。これで寂しくないね。ずっと一緒だよ。良かったね」

ウィルスプログラムを埋め込まれて苦しんだミオ。その姿が忍びなくルークが機能停止にした。そして彼は復讐を誓い旅立った。2度と村に戻らないと言ったがまた再会したのだ。

夕日を眺めているとチアキの瞳から自然に涙が零れ落ちた。滅多に泣かない彼女だが心が動いたのだ。寂しいという気持ちとルークを連れて来てホッとした気持ちが重なった。

その後はチアキを囲んで、皆がタウンの話を聞きたがった。サキは?ルイ達は?と質問責めだ。そしてチアキは?と聞いてくれた。保母に戻るのだと言うと誰もが喜んでくれた。

リョウがいないのでチアキは不思議だった。なんとまだイギリスにいるらしい。2日で帰ると言う話はどうなったんだろう。キリが笑った。
「お百度参りをしてるんだって」

タカオもキリの隣で笑っていた。
「しかも友達が出来たそうだ。誰でも動けば新しい風が吹くな。いい事だ」
チアキは微笑んだ。私にも風が吹くかも。

翌日。チアキは村の出入り口にいた。新宿に戻るのだ。キリはチアキの頭に手を当てて髪を乱暴にまさぐった。親みの現れだ。50歳のキリにしてみれば25歳モデルのチアキは娘だ。

「元気でね。沢山の子供達を笑顔にしてね」
「うん」
チアキは来春開園の幼稚園の戦力となる。間もなく上野へ行く。楽しみでならなかった。

チアキは丘を見上げた。ミオとルークが眠る場所だ。行くね。私。頑張るね。応援してね。チアキの目前に彼らの幻影が映った。笑っていた。チアキも笑い、そして歩き出した。

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